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「息子とデート」〝子どものため〟の落とし穴やっちゃいけない褒め方
一方的な愛情にならないためには?
「息子とデート」をうたって中止になったホテルのプランは、子どもが母親をディナーでエスコートしたり、感謝の手紙を送ることなどで、「思いやりの心を育む」ことも目的とされていました。そもそも、「子どもの為」と思って大人がやっていることは、果たして、子どもにとっては良いことなのでしょうか。赤ちゃんや子どもの発達や心理に詳しい、小児科医・小児神経専門医の小西薫さんに、聞きました。(withnews編集部=橋本佳奈)
――親は、ついつい「良かれ」と思って色々と口を出したり、色々と買い与えたりしがちです。
小西さん)本来、子どもは、自ら周囲に働きかけて、自ら情報を収集、取捨選択しながら成長していく力を備えています。せっかくその能力を発揮しようとしても、一方的に大人から一つのことを通されてしまうと、自発的に考えることを絶たれてしまうのです。親は子ども自身が持っている力を発揮できるよう、成長をサポートする「マネジャー」や「慰め役」のつもりでいたほうが良いですね。
小西薫(こにし・かおる)さん: 小児科医・小児神経専門医。2010年~小児科・発達支援の「すくすくクリニックこにし」院長(香川県木田郡三木町)。専門領域は、小児神経学、小児発達神経学、小児保健学、障害児教育、育児学。児童発達支援・放課後デーサービスや病児・病後児保育も手がける。1948年2月京都市生まれ。大阪医科大学卒業。夫で同志社大学赤ちゃん学研究センター・前センター長の小西行郎氏と三男一女を育てた。
――今回のプランについて、知人に意見を聞いたとき「子どもが行きたがっているならいいのでは」という声もありました。小学生低学年の時などに、親へ感謝の手紙を書いてみたり、親と一緒にいたりすることを好むのは、理由はあるのでしょうか。
小西さん)まず、子どもが行きたがっているというのは、単に親と一緒に楽しい時間を過ごしたいと思っているだけだと思います。子どもの発達の視点から言うと、5歳くらいになると、子どもは、相手の立場になって考えられるようになります。相手の立場になって喜んだり、悲しんだりできるようになり、お手紙ごっこなども始めます。「自分はこう思うけれど、人はこう思うんだ」というのを理解できるようになるのです。
さらに9歳ごろになると、ある程度状況を見て、「この人が言っていることは本当に合っているのか」という正しいか正しくないかという判断もできるようになってきます。ネガティブになったりつっぱったりするのもこの時期です。
5~6歳ごろは他者を理解できるようになった分、鵜呑みにしやすい時期でもあります。褒められたら喜ぶし、お母さんのためにどうしよう、など「顔色をうかがう」ようになります。だからこそ、そのときに親から一方的に押しつけるのは危ないのです。
――大事だと考えられている親子愛について、どう考えたらいいのでしょう?
小西さん)親子だけにかかわらず、子どもは信頼できる人ができることによって、それが心の安全地帯になります。母親はたまたま一番近くにいるし一緒にいる時間が長いので、その可能性が一番高いというだけで、母親だけがそうだと考えないほうが良いですね。母親だけと考えてしまうことで、母と子の依存関係ができてしまうと思うのです。
――子どもに押しつけてしまわないために、どう接したらいいのでしょうか。怒らないで褒めて伸ばすのがいいのでしょうか。
小西さん)結果を出した時だけ褒めるというのは考え物です。その過程を見て、本人の行動を認めることが大切です。
――絶妙な距離感が難しいですね。ある知人は「つい口を出しすぎてしまうから、子どもに宿題を見てと言われても断っている」と言っていました。
小西さん)ポンっと放っておくのは違いますよね。子どもから「宿題を見て」とお願いされているということは、お子さんなりに親とのコミュニケーションを取りたいと思っているということなんです。なので、勉強を教える、という便宜的な意味ではなく親子のコミュニケーションを深めると言う意味でも、その時間は大切にしたほうがいいと思います。
また、幼いときは「全部自分で考えなさい」と突き放すのではなく、上手くいかなかったら、「A案もあるけどB案もあるよね」と選択肢を与えたり、自分で考えられるようなヒントを与えることは大切です。
――親のスタンスとしてこれだけは忘れてはいけないことはなんでしょうか。
小西さん)一番大切なのは、子どもが本当に必要としていることは、子どもが何を思っているのかその思いをくんで「理解しようとする」ことです。相手のころを理解しようとすることで、「子どものために良かれと思って」と一方的になってしまわずに立ち止まることができるのではないでしょうか。
小西先生がしきりに強調されていたのは「子どものことを理解しようとすること」の大切さでした。
つい、親の目線で、「周りはこれがいいと言っているから」と、先回りして動いてしまいがちですが、「この子は本当は何をしたいのか」と、子どもの目線に立つことの重要性を痛感しました。
「相手を理解する」ことは、大人の人間関係においても大切なことだったのに、自分の子どものことになると、見えなくなってしまうのかもしれません。
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