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連載

#12 テツのまちからこんにちは

溶接面をかぶった女子高生、憧れの鉄道産業「学校お墨付き」の人材

「技術を生かせる職種に」夢かなえる

溶接の演習をする佐々木悠菜さんと、見守る生徒たち=2020年12月15日、山口県立下松工業高校、高橋豪撮影
溶接の演習をする佐々木悠菜さんと、見守る生徒たち=2020年12月15日、山口県立下松工業高校、高橋豪撮影 出典: 朝日新聞

目次

今年で100周年を迎える国内最大級の鉄道工場「日立製作所笠戸事業所」がある山口県下松市。同じ1921年に開校し、技術者を輩出し続けてきた地元の工業高校にも、また巣立ちの季節がやってきました。その中には、笠戸事業所のおひざ元で育ち、自然と鉄道産業を志すようになった女子生徒もいました。鉄道ファンの記者(25)が、「鉄道のまち」で見聞きした出来事をレポートします。(朝日新聞山口総局記者・高橋豪)

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#テツのまちからこんにちは
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卒業制作は金属のアマビエ

笠戸事業所から北西におよそ3キロの山口県立下松工業高校(下工)。昨年末に学校へ取材に行った時、実習室では3年生の溶接の授業が行われていました。

この日はシステム機械科の生徒たちが、融点が660度と比較的低いアルミニウムをトーチと呼ばれる器具で加熱して溶かして、金属同士をつなぎ合わせる演習をしていました。

そこには、溶接面をかぶり、トーチを握る一人の女子生徒の姿がありました。隣の光市から通う佐々木悠菜さん。卒業後、日立製作所のグループ会社へ就職することが決まっていました。約160人いる3年生のうち、女子は13人。システム機械科に一人もいない年もあるにもかかわらず、今年は佐々木さんを含めて同級生の女子は3人と多めだそうです。

溶接は入学早々から取り組んできました。

「最初は火花が散るのがこわいイメージでしたが、うまくできるとうれしくて、好きになりました」

実習後、佐々木さんは学習の成果を発揮した卒業制作の作品を見せてくれました。金属で作った疫病よけの妖怪アマビエの像です。高さは約30センチ。うろこの部分は、金属片を一枚一枚丁寧に溶接していったそうです。

卒業制作の金属製アマビエを見せる佐々木悠菜さん=2020年12月15日、山口県立下松工業高校、高橋豪撮影
卒業制作の金属製アマビエを見せる佐々木悠菜さん=2020年12月15日、山口県立下松工業高校、高橋豪撮影 出典: 朝日新聞

下工生の就活事情

「もともと手を動かして何かを作ることや、細かい作業が好きでした」という佐々木さん。高専で学び、JR東海で駅の建設や設計に関わっているという4歳上の姉の影響もあって下工へ。高校では弓道部や学級委員でも頑張ってきました。

2年生だった2019年7月、笠戸事業所が製作したイギリス向け高速鉄道車両が、船に乗せられるまで、道路上をトレーラーに載せられて移動するイベントを見たことも刺激になったそうです。

「日本でも数少ない鉄道づくりの現場が地元にある」と、鉄道産業への憧れは自然と芽生えていったのでした。

技術を学ぶ地元の工業高校生は、ものづくり企業にとって是が非でもほしい人材です。佐々木さんが高校に送られてきた求人票を初めて見たのは、2年生の終わりごろでした。3年の秋に入社試験や面接を控え、3年の春には志望先を決めるといいます。

新型コロナウイルスの影響で休校となった期間にも、鉄道づくりへの思いは強まりました。自宅で、中学生の弟が持っていた新幹線の本を何げなく手に取ったときに、笠戸事業所の工場の写真があったからです。休校が明けた後の6月からは、放課後にも面接の練習にいそしみました。

とはいえ、何社もエントリーして試験を受けられるわけではありません。例年、夏に校内選考を行い、誰がどこを受けるかをあらかじめ決めておくのだといいます。下工のお墨付きに、企業側も信頼を置いているというわけです。

今年度の3年生のうち、下松市内の鉄道関係の企業には11人の就職が決まっています。佐々木さんもその一人。4月からは、日立交通テクノロジーで技術者の道を歩き始めます。

笠戸事業所の敷地内にオフィスがあり、車両部品の設計開発、製造からメンテナンスまでを担う企業。「溶接の技術を生かせる職種にもつきたい」と、期待を膨らませています。

100周年ロゴもデザイン

下松工業高校でも、100周年に向けた動きは進んでいます。その一つが記念のロゴ。生徒内でデザインを募り、佐々木さんの作品が最優秀賞に選ばれたのです。早速学校のマイクロバスにあしらわれていました。

「100th」の文字の最初の「0」には、校章をそのまま使っています。よく見ると、桜のマークの中には「下工」ではなく「山工」と書いてありますが、これは山口県内で初めて設立された工業高校だからだそうです。

「残せるものを作れてうれしいです」。下松の歴史の大きな一歩を踏み出す技術者の卵が、とびきりの笑顔を見せてくれました。

(写真)自らのデザインが開校100周年のロゴに選ばれた佐々木悠菜さん=2020年12月15日、山口県立下松工業高校、高橋豪撮影
(写真)自らのデザインが開校100周年のロゴに選ばれた佐々木悠菜さん=2020年12月15日、山口県立下松工業高校、高橋豪撮影
出典: 朝日新聞

今週のテツ語「鉄道業界に強い高校」
国内には、技術を学んで鉄道メーカーに人材を輩出する工業高校のほかに、運転士や整備士など、鉄道業界の専門知識や技能を身につけられる高校もあります。例えば東京都台東区の岩倉高校運輸科や、豊島区の昭和鉄道高校鉄道科では、「鉄道」「電車」「運転」とった名前が付く科目を履修し、駅員のインターンシップを行うなどかなり本格的なようです。岩倉高校は1897年、私立鉄道高校として開校。日本の鉄道開通に貢献した岩倉具視にちなみ、1903年に今の名前になりました。

 

〈テツのまちからこんにちは(#テツこん)〉2021年5月でちょうど100周年を迎える、鉄道の全国最大級の生産拠点である山口県下松(くだまつ)市の日立製作所の笠戸事業所。山口に赴任した鉄道好きの記者が「鉄道のまち」で見聞きした出来事をレポートします。

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