【連載】わたしの中の #健康警察
新型コロナ禍のいま、「他人の健康行動」について、ついつい気になっちゃう人、増えているみたいです。「感染症をうつされないよう、身を守るのは当たり前だろ」という声も聞こえてきそうですが、「見ず知らずの他人」の行動にまでひとこと言いたくなってしまうというのは、不思議なことでもあります。医療ジャーナリストとして10年以上、取材/発信してきた私の中にもある、「他人の行動にひとこともの申したくなってしまう気持ち」。それを自分の中の #健康警察 と名づけて、考えてみることにしました。
第一回:なぜ他人の行動が気になる?クレーム対策の手袋やアクリル板の流行 生きづらい世界を作る #健康警察
「若者の活動量が多い」のは確か。だけど…
「感染拡大続けば、皆さんの就活に影響」西村氏が若者に(朝日新聞デジタル 2020年11月30日)
<西村氏は11月30日の記者会見で「若いみなさんの活動量がどうしても多い。でも、無症状で、知らず知らずのうちに(新型コロナを)広げることがある」と指摘。(中略)「こうした状況が続けば、より強い措置をとらざるをえなくなる。経済に大きな影響が出て、若いみなさんの今後の就職活動も影響を受ける」と話した。>
ここだけ見ると、若者こそが感染の元凶といったイメージ。確かに日々発表される年代ごとの感染者の数を見ると、多いのは20代。若者の重症化率が低い、ということも、その背景にあるかもしれません(重症化しないということではないのですが……)。
テレビでは若者がカラオケや飲み会で騒ぐイメージ映像が使われることもあります。私も40代の立派なオジサン世代ですが、ついつい「若者はガマンが足りん! けしからん!」と感じ、「若者の意識を変えなければ!」なんてモヤモヤしてしまうことも。
調べてみると、若者世代の感染者が多いことや、自粛が要請されているにもかかわらず活動量が多かったことを示すデータはすぐに見つかります。
例えば、一度目の緊急事態宣言のときのドコモ携帯電話約8000万台の運用データから推計された日本における1時間ごとのリアルタイム人口分布を用いた研究では、男性では20~30代が、女性では20代が、他の世代に比べて外出率も高く、また陽性者の割合も高かったことがわかりました。
データを見ても、「やっぱり、若者が問題なのか!」という気持ちが高まってきてしまいそうです。でも、前回の記事で私は宣言しました。自分の #健康警察 の高まりを感じたら、いちど「立ち止まって考えてみる」を実践すると。というわけでさらに調べてみると、「若者だから」という「属性」そのものを悪者にすることに、疑問が湧き上がってきました。
テレワークへの取り組み、積極的なのは若者
年代ごとに、以前と比較した「在宅勤務やテレワークの頻度」を聞いてみると……、実は「増えた」が最も多かったのは20代(26.1%)でした。一方、少なかったのは50代(20.2%)でした。若者のほうがテレワークへの意識が高く、活動を減らそうとしているようです。
ただ意外なのは、「出張の頻度が増えた」かどうかを聞いてみると、これまた20代が最も多く(19.6%)、50代は圧倒的に少ない(1.2%)結果でした。対面の会議・打ち合わせも、20代のほうが増えています。テレワークの結果と矛盾して、ちょっと混乱しますね。
調査を実施するニッセイ基礎研究所は、さらにデータを深ボリした結果として、次のように指摘しています
<20歳代で勤務先への出社が増加した層では建設業や製造業従事者が、在宅勤務などのテレワークが減少した層では建設業従事者が、対面での会議・打ち合わせが増加した層では運輸・郵便業や卸売・小売業、情報通信業が多い傾向がある>
つまり対面の会議・打ち合わせや出張が「増えた」と答えた層には、テレワークがしたくてもできない、建設業や製造業などのエッセンシャルワーカーが多かったということ。そしてこうした現場仕事で出張し、地域の現場に行って働くのは、どうしても若者層が中心になるということかもしれません。
さらには、次のようにも指摘しています。
<在宅勤務が可能な業種であっても企業文化によっては、若いほど就業上の地位が低く、業務における自己裁量の幅が狭いことで、在宅勤務がしにくい雰囲気もあるのかもしれない>
そうそう。日本の企業に流れる「若いもんが外で働け」的な空気も、外に出て働かなければならない要因の一つになっていそうです。だとすると、それって「若者のせい」なのでしょうか?
「若者」という属性だけが問題なのか?
さらに、業種や裁量といった問題とは別の問題がある可能性も指摘されています。
英セントアンドリュース大学のスティーブン・ライヒャーさんが英医師会雑誌に寄せた論説によれば、イギリスでも、「パンデミック疲れ」と呼ばれる、コロナによる生活制限を守らない人の行動が問題となっています。具体的には、主に若者世代で、“コロナパーティー”をしていたり、クラブで踊ってはしゃいでいたりする人がやり玉にあげられているようです。
ただ実際にデータをとってみると、マスク習慣や移動の制限を守る人の割合は、若者世代であれ他の世代であれほとんど変わらず、遵守率は9割以上にのぼっていました。学生に対して行われた調査では、宿舎から離れて行動する時間は、むしろ他の世代より低く抑えられていました。
この論説において指摘されたポイントは、世代ではなく「経済状態」など社会的な環境のほうが、家から離れて行動する時間と関係しているのではないか?ということです。
例えばコロナで陽性になったり、感染が疑われる人と濃厚接触をしたりしたとき、経済的に余裕がある人は、仕事を休んで家にこもり、ウーバーイーツを使ってご飯を宅配してもらうこともできるでしょう。
しかし経済的に恵まれていない人は、仕事を休めなかったり、ご飯を宅配してもらうコストを払えなかったりするかもしれません。「若者」のような属性にばかり注目することで、背景にある「社会的なサポートが不十分な人がいる」という事態が軽視され、国の対策の課題が指摘されにくくなるのではと、ライヒャーさんたちは警鐘を鳴らしています。
心理学の世界に「可用性バイアス」という言葉があります。簡単に言えば「私たちは、良く触れている情報ほど、思い出しやすい」ということです。
私自身、テレビやネット記事などで若者世代の感染者の数や、カラオケ・飲み会で騒ぐイメージ映像を何度も見ているうちに、「コロナと若者」という連想をしやすくなっていたのではないか。その結果、背景にあるいろいろな要因に思いを馳せる前に、「若者はけしからん!」という短絡的なモヤモヤを感じていたのかもしれません。
ああ、また私の中の #健康警察 は、きちんと思考を深める前に、誰かを悪者にしようとしていた……。反省します。自分の #健康警察 の高まりを感じたら、いちど「立ち止まって考えてみる」を実践していけるよう、今後も精進していきます。