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連載

#10 テツのまちからこんにちは

新幹線の職人技、こんなところにも! デッキのゴミ箱の上にある…

「現代の名工」に選ばれた職人の経験と技量

パネルユニットの解説をする弘中善昭社長=2020年11月5日、山口県下松市の弘木技研本社工場、高橋豪撮影
パネルユニットの解説をする弘中善昭社長=2020年11月5日、山口県下松市の弘木技研本社工場、高橋豪撮影

目次

今年で100周年を迎える国内最大級の鉄道工場「日立製作所笠戸事業所」がある山口県下松市。鉄道車両も、様々な部品が集まらなければ作れません。それぞれの納入業者にいて専門技術を誇る職人が、縁の下で支えているのです。今回の舞台は、新幹線のデッキ部分に使われる内装パネルユニットの工場。鉄道ファンの記者(25)が、「鉄道のまち」で見聞きした出来事をレポートします。(朝日新聞山口総局記者・高橋豪)

#テツのまちからこんにちは
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新幹線に乗ってすぐ見える、あの部品

新幹線や特急列車で、ドアをくぐり客室に入るまでに通るデッキの部分。通路と隔てた仕切りの向こうには、トイレだけでなく、電気の供給に欠かせない配電盤も隠れています。この配電盤などを、箱型のユニットで納入し、全国トップクラスのシェアを誇るのが、下松市にある鉄道車両内装部品メーカー「弘木技研(ひろもくぎけん)」です。

昨秋、弘木技研に勤める一人のベテラン職人が、卓越した技術者に贈られる「現代の名工」に選ばれました。その取材のため、市内の工業団地の一角にある本社工場を訪れた時のことです。先頭車両のような目立つ部品が作られているわけではありませんが、新幹線のデッキで見かけるベージュ色の壁が、まさに組み立てられているところでした。

乗り鉄の私にとっては、車両に乗り込んですぐに目に入るなじみ深い部品。色合いやデザインは、高級家具のようです。旅の始まりの高揚感がフラッシュバックしてきます。


弘木技研の主製品は、鉄道車両内に取り付ける仕切りパネル。従業員は80人余りながら、新幹線の配電盤ユニットでは、全国シェアの6割を占めるといいます。東海道・山陽新幹線N700系、九州新幹線800系、東北・北海道新幹線E5系、秋田新幹線E6系、北陸新幹線E7・W7系など名だたる車両の製造に携わってきました。E5系では、ワンランク上のグリーン車「グランクラス」の天井や荷物棚も手がけています。

国内にもとどまりません。日立製作所笠戸事業所がイギリスに輸出し、2017年に営業運転が始まった高速鉄道でも、配電盤ユニットは弘木技研のものでした。

新幹線に取り付けられる配電盤ユニット。下にはゴミ箱が入る=2020年11月5日、山口県下松市の弘木技研本社工場、高橋豪撮影
新幹線に取り付けられる配電盤ユニット。下にはゴミ箱が入る=2020年11月5日、山口県下松市の弘木技研本社工場、高橋豪撮影
出典: 朝日新聞

家具メーカーから業種変更 IT技術で飛躍

創業は1950年。当時の社名は弘中木工所で、家具メーカーでした。1980年代半ば、家具より成長が見込める鉄道産業への転換を図ったのです。組み立ての技術は車両内装づくりにも生かせると考えていた現社長の弘中善昭さんは、日立製作所笠戸事業所で1年半の研修を積みました。その縁もあり、1987年に笠戸事業所との直接取引を始めました。

「家具づくりでの絶対にキズを付けないという観念は、今でも生かされています」と弘中さんは語ります。

とはいえ、地元での競合は必至。様々な設備や機械をそろえ、設計段階から加工、組み立てまでを一貫して社内で行う強みを生かし、受注先を全国各地の鉄道メーカーにまで伸ばしていきました。進捗状況を端末で管理するシステムも開発しました。

会社は2019年、IT技術で生産性を向上させたとして、経済産業省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に市内で初めて選ばれました。2004年に社長に就任した弘中さんは現在、笠戸事業所を主な顧客とする下松市や周辺自治体の中小企業が出資してつくる「日立笠戸協同組合」の理事長も務めています。

組合企業は31社。前回まで紹介した山下工業所(http://with.media/3qwIunr)もその一つです。空調部品や車両用の特殊なボルトの生産、金属の研磨、部品の塗装など、各社がそれぞれの専門分野を持っているとのこと。まだまだ掘り尽くせていない「鉄道産業のまち」の原動力が、まちの至る所にあるようです。

切りくずによるショートを防ぐ 発想の転換

弘木技研が誇るのが、「切粉(きりこ)レス組立方法」と呼ばれる製造工程での技術です。これを確立した立役者が、昨年の「現代の名工」に選ばれた山中義行さん(49)でした。1993年に入社してから、「艤装(ぎそう)」という部品を組み立てる最終工程に携わり続けること27年のベテラン職人です。

新幹線は、常に小刻みに揺れながら、時速300キロに迫る速さで走っています。部品の組み立ての際には合わせ面の隙間を微調整し、上下左右で均等にそろえなければなりません。製造工程のIT化が進んでいても、この工程は人の手で行うため、経験と技量が問われているのです。

「切粉レス組立方法」は、安全性を高める斬新なアイデアでした。

従来の方法では、組み立てをする時にねじ穴をハンドドリルで開けたりしていました。すると、加工した時に生じるくず「切粉」が内部に残り、走行時などに配電盤の電気系統に入り込んでショートを引き起こす危険性がありました。

ならば、部品をつくる段階で全ての加工を終えてしまおうとしました。デジタル管理されている図面をもとに、「鋸軸(のこじく)付きマシニングセンター」という独自仕様の機械であらかじめ穴を開けておく、発想の転換をしたのです。

パネルの取り付けを実演する山中義行さん=2020年11月5日、山口県下松市の弘木技研本社工場、高橋豪撮影
パネルの取り付けを実演する山中義行さん=2020年11月5日、山口県下松市の弘木技研本社工場、高橋豪撮影
出典: 朝日新聞

ユニットに使うパネルは、樹脂などで作る芯材を内外2枚のアルミ板で挟むという3層構造になっています。もともとは切断加工してから接着していたところを、「鋸軸付きマシニングセンター」を使えば先に貼り付けて一気に切断でき、生産効率の向上にもつながりました。

山中さんは、新工法を会社全体で生み出す過程で、リーダーとして現場の要望をまとめ、話し合いを重ねていったのでした。

艤装工を志したのは、幼少期にブルートレインを見て以来の鉄道ファンだったからでした。今も会社の慰安旅行では新幹線に乗るといいます。前回紹介した藤井洋征さん同様、車両の完成を見ることはないので、乗り込んだときに「こういう風についているんだ」と発見があるそうです。「やってよかった」と感じる気持ちは、2人とも共通していました。

「自分一人の力ではなく上司や同僚がいたからこそ。今後は意識や技能を次世代に伝えて参ります」。背中で見せるタイプの職人肌。ゆっくりとした口調で、喜びをかみしめていました。

 

〈テツのまちからこんにちは(#テツこん)〉2021年5月でちょうど100周年を迎える、鉄道の全国最大級の生産拠点である山口県下松(くだまつ)市の日立製作所の笠戸事業所。山口に赴任した鉄道好きの記者が「鉄道のまち」で見聞きした出来事をレポートします。

今週のテツ語「鉄道のデッキ」
一般的には新幹線や特急車両の出入り口と客室との間にある空間のことを指します。JR北海道では、寒さ対策として普通列車にも見られます。また、車両の端に付いていて風に当たりながら景色を楽しめるオープンデッキは、JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」、JR山口線や大井川鉄道のSL客車などにあります。高知県東部の土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の観光列車「しんたろう・やたろう号」では、一部の客車が太平洋を望む側面全体がオープンデッキになっています。

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