IT・科学
二階堂選手のジャンプはなぜ伸びる?長年の謎にスパコンで迫る
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ミラノ・コルティナ五輪のノルディックスキー・ジャンプで3個のメダルを手にした二階堂蓮選手はなぜこれほど大きなジャンプができるのでしょうか。スキージャンプの選手のフォームと飛距離についての長年の謎に、スーパーコンピューター「富岳」を使った解析で迫ろうという研究が行われています。スパコンで選手の動きを解析したところ、トップ選手のジャンプは4種類の飛行スタイルに分けられることが分かりました。スキージャンプはこれまで、選手個人の経験に基づいてそれぞれが理想のジャンプを追求してきましたが、スパコンの解析によって、「科学的に理想的なジャンプ」が示される日が来るかもしれません。
北翔大学大学院生涯スポーツ学研究科長の山本敬三教授(バイオメカニクス)、理化学研究所計算科学研究センター複雑現象統⼀的解法研究チームの坪倉誠チームプリンシパル(流体工学)、神戸大学の石原暢准教授から成る研究チームが2月上旬、記者勉強会を開催し、研究成果を公表しました。
研究チームは、2023年から2024年にかけて、ジュニアから国際大会で活躍する選手まで様々なレベルの選手74人が飛んだ556回のジャンプを10台のカメラを使って撮影。関節の角度など姿勢に関する19種類のデータを解析しました。富岳を使って空力特性(飛行中の選手が空気の流れから受ける影響)も解析しました。
その結果、選手の飛行スタイルは7種類に集約できることが分かりました。この7種類のうち、トップ選手は4種類の飛行スタイルに集約されました。
スキージャンプでは、抗力や揚力という「力」が飛距離に影響します。
抗力は、空気抵抗ともいい、飛行体を減速させる力のことです。そのため、大きいジャンプを飛ぶためには、空気抵抗を小さくすることが必要です。
揚力は、飛行体を垂直方向に持ち上げようとする力です。
いかに空気抵抗を減らして揚力を得るかがポイントですが、トップ選手はそれぞれ独自のスタイルで距離を伸ばそうとしていることがデータの解析から分かったそうです。
二階堂選手は、「空気抵抗抑制型」。空気抵抗を減らすため、前傾姿勢を維持するというスタイルです。ジャンプを解析すると、四つのスタイルのうち、最も空気抵抗が小さくなっていることが分かりました。
北京五輪ラージヒル銀で今大会も6位に入った小林陵侑選手は、「揚力獲得型」。起立した状態から前傾姿勢になるスタイルです。大きな揚力を得ている一方で、空気抵抗抑制型と比べると大きな空気抵抗も受けているのが特徴です。
二階堂選手と小林選手を比較すると、得ている揚力は小林選手の方が大きいものの、小林選手は同時に大きな空気抵抗も受けています。受けている空気抵抗は二階堂選手の方が顕著に小さいです。このようにジャンプのスタイルは異なりますが、ジャンプの飛距離の決め手となる「揚抗比」はテイクオフの0.2秒後には同じくらいの数値に達していました。
女子個人ノーマルヒル代表の伊藤有希選手は「バランス型」。
ジャンプ混合団体銅メダルの高梨沙羅選手は他の3選手のスタイルとは異なるタイプで、起立した状態からスムーズに前傾姿勢になるスタイルです。
山本さんによれば、トップ選手の4種類の飛行スタイルに優劣はなく、それぞれにメリットがあるそうです。また、選手たちはそれぞれの飛行スタイルを意図的に習得したわけではなく、体格や関節の強さなどの個性に応じて理想のジャンプを追求した結果として、現在の飛行スタイルにたどり着いていると考えられるそうです。
ただ、今後研究が進めば、選手ごとの最適飛行モデルを示すことができるようになる可能性もあるそうです。「今後はもっとサンプル数を増やして、データの信頼性を高めていきたい。飛べるジャンプと飛べないジャンプの差を明らかにして選手にフィードバックできるようになれば」と話します。
富岳は、理化学研究所と富士通が共同開発したスーパーコンピューターです。
世界ランキングで1位になったスパコン「京(けい)」の後継機です。2020年、スパコン研究者による組織が発表している世界ランキングで1位になりました。「誰もが使いやすいオンリーワンのスパコン」を目標に開発され、性能は京の100倍です。
理研が開発した⼤規模熱流体解析ソフトウェア「CUBE」と富岳を⽤いた空⼒シミュレーションが今回の研究にも大きく貢献しているそうです。
坪倉さんによると、京だと10日かかっていたシミュレーションが、富岳だと1日で結果を出せるそうです。「将来的には、ジャンプを1回飛んだあとに現地でシミュレーションをして、2回目を飛ぶ前にアドバイスができるようになれば。ただそれには富岳の次のスパコンが必要になります」と話しました。
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