連載
#16 #乳幼児の謎行動
赤ちゃんの謎行動…スリッパなめには理由があった〝謎の物体〟に反応
むしろ成長の証し
乳幼児(0歳から就学するまで)は、「なんでそうなる?」と大人からすると不思議に思う行動をとることがあります。赤ちゃんは、特に身近な大人が身につけているものをよく観察しています。その一つが「スリッパ、なめてしまうのはなぜ?」。小児科医・小児神経専門医の小西薫さんに「#乳幼児の謎行動」を聞きました。
小西薫さん
まず、赤ちゃんがスリッパや靴を好きな理由から謎を解いていきましょう。
赤ちゃんの目線は、地面に近いので、足元は大人以上に目に入りやすいです。
さらに、赤ちゃんは、お母さんなど身近な大人のしている行動をよく観察しており、特に持ちものはよく見ています。
その上、赤ちゃんは「動く物」が大好き。お母さんがあちこち忙しく動き回ると、履いている足元のスリッパも靴も一緒にこまごまと動くため、赤ちゃんが興味を持つ要素が重なっているのです。
記者
小西薫さん
人間の原始的な探求活動は、触覚や嗅覚。高等なアプローチとしては視覚や聴覚になります。まず、「これは何?」と興味を持ったものを確認するため、原始的な探求活動として手を伸ばして触れて、そして、センサーとなる口で確かめるのです。
なめる行為は、人間にとって原始的な探求活動のため、成長に必要なことなのです。
記者
小西薫さん
はいはいをする半年~1歳くらいまでの間は、自分から動き回れるようになることで、活発になり、「何だろう」と興味を持った物を確認するためになめるようになります。
9カ月ごろになると、お母さんから「だめ」と言われ怒られているのは理解するようになります。ただ、すぐにやめられるわけではありません。わざと親の反応を見て楽しんでやっている部分もあります。駆け引きのコミュニケーションが出来るようになったということは、子どもの発達に重要な経験学習です。
そして、2~3歳では、ついついやってしまうことはあっても意識をすればやらないようになります。
4歳になると、大体の子どもたちは自分をコントロールできるようになり、やらなくなります。
記者
小西薫さん
「我が子も成長したのね」と感じる機会にすることも大切です。子どもの探究心が旺盛になり、「なめる」という武器を身につけて新たな物を発見しているのです。赤ちゃんなりに情報収集して、自分なりに実行しているという姿として、理解してあげてください。
この時期は、よくゴミ箱を倒したりもします。箱が倒れると中から突然物が出てくる、子どもにとって面白い格好の遊びのターゲットになります。
汚いものをなめたり触ったりしたら、「あらあら、ばっちいよ」とやめさせる必要はありますが、目くじらをたてて叱らなくてもいいかなとは思います。ある程度の菌は免疫力があるため、スリッパやホコリくらいは少しなめても大丈夫です。靴をなめてしまったら口に泥がついてしまいますのでぬぐってあげましょう。
大人が衛生面で気になる場合は、子どもがなめても大丈夫な代替の物を渡してあげて、気持ちを満たしてあげましょう。
できればスリッパのように動きのあるものがいいかと思います。 たとえばなめてもいい穴のたくさん空いた直径20センチ程度のボール状のおもちゃなどです。 子どもの成長は、はいはい→興味のある物を発見→手に取る→なめて確認という一連の行動によって促されるため、子どもの探究心や体の運動につながる物を与えてみましょう。
小西薫さん
ただ、事故になるものを口に入れないかは気をつけてください。誤って口に異物が入っていないかは確認してください。
記者
小西薫さん
①電子タバコ
小さいですし、大人が口に付けているため子どももまねしてしまう恐れがあります。鞄の中にしまっていたとしても、出してしまうことがあるので気をつけてください。
②ボタン電池
事故が起きないよう最近は電化製品の電池を入れるふたが、簡単に取り外せないような作りにはなっています。ただ、ストックしている電池にも気をつけてください。子どもの手が届かない所に置いてください。
③薬
大人が飲んでいる薬は、子どもも興味を持ちます。さらに、カラフルでお菓子のようです。以前、大人の薬を飲んでしまった患者さんをみたとき、すぐに入院になりました。胃洗浄をして点滴をしなければなりませんでした。
小西薫さん
口に入れるケースではありませんが、急に立つことができるようになった子どもが、興味を持って机の上の物を触ろうとして、お椀やカップがひっくり返ってやけどをする、というケースをよく見ます。やけどにもくれぐれも注意してください。
記者
小西薫さん
極端に何も物がない綺麗すぎる家、いわゆる無機質な家も良くないのですよ。
危険なものは置かないように、対策はきっちりすることは大切ですが、
身の回りのいろいろな物を見て、体験することは子どもの成長に必要です。生活感があることは、悪いことではないんですよ。
編集部では「#乳幼児の謎行動」をSNSで募り、乳幼児の「なんでそうなる?」を、同志社大学赤ちゃん学研究センター長で小児科医の小西行郎さん(享年71歳)に聞いてきました。小西さんの妻で、これまで二人三脚で子どもたち発達の研究をしてきた小児科医・小児神経専門医の薫さんが、引き続き疑問に答えます。
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