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連載

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#3 相席なま田原

「熱心じゃなく異常」田原総一朗が日本酒ブランド経営者へ向けた言葉

「次世代を担う人材」と異色の対談!「相席なま田原」です。

ジャーナリストの田原総一朗さん(左)と日本酒スタートアップ企業「株式会社Clear」代表取締役CEOの生駒龍史さん=写真はいずれも奥山晶二郎撮影
ジャーナリストの田原総一朗さん(左)と日本酒スタートアップ企業「株式会社Clear」代表取締役CEOの生駒龍史さん=写真はいずれも奥山晶二郎撮影

目次

相席なま田原
(画像をクリックすると連載ページに移ります/イラスト:はみだしみゆき)
多くの政治家たちに切り込んできたジャーナリストの田原総一朗さん(86)。withnewsでは月に1回、田原さんもこれまであまり接点がないような「次世代を担う人材」と対談する企画「相席なま田原」を配信しています。日本酒スタートアップ企業「株式会社Clear」代表取締役CEOの生駒龍史さん(34)との対談では、日本酒のブランディングについて語り合いました。対談の一部をご紹介します。

 

田原総一朗
ジャーナリスト。1934年滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経てフリー。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)の司会を務める。86歳。

 

生駒龍史
日本酒スタートアップ企業「株式会社Clear」代表取締役CEO。1986年東京都出身。2018年夏に日本酒ブランド「SAKE100(サケハンドレッド)」を立ち上げ、20年8月より「SAKE HUNDRED」としてリブランディングを実施。各地の酒造会社と商品開発をしており、1本16万5千円で販売されている「現外(げんがい)」は、1995年の阪神淡路大震災で被災したタンクに残っていた酒母から生まれた。日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」も運営。これまでベンチャーキャピタル等から累計3.5億円の資金調達を実施し、日本酒事業のグローバル展開を目指している。

「日本酒の未来をつくる」

<多くの経営者を取材してきた田原さん。生駒さんとの会話では、「異常」という褒め言葉が飛び出しました。>
田原さん生駒さんとお会いできるのを楽しみにしていました。あまりに若くてびっくりしちゃった。

生駒さん9年間日本酒の事業だけをしています。「生駒さん、どうして日本酒で起業したの」とよく聞かれますが、全ての方に「日本酒が大好きだから」とお答えしています。

生駒さん:会社のビジョンは「日本酒の未来をつくる」。薄利多売を前提としたビジネスにおける日本酒は一つの役割を終えて、日本でも海外でも高単価な日本酒は飲まれるようになっています。嗜好品としての日本酒の未来をつくっていきたいという思いでビジョンを掲げています。

生駒さん:そのためのミッションは、「日本酒の可能性に挑戦し、未知の市場を切り拓く」。まだまだ日本酒の魅力を開拓する余地はありますし、既存のパイを奪い合うのではなく、新しい市場を切り開くという思いを掲げています。

田原さん:なぜ日本酒に本気で取り組もうと思った? 300以上も酒蔵を回ったんですね。異常としか思えない。熱心さなんてものじゃなくて、異常なの。


生駒さん好きだからというしか言いようがないですけど……あるとすれば、僕は小学校・中学校・高校・大学と、人より何かが秀でていたという経験はないんです。常に自分より優れた人が周りにいる環境で、コンプレックスが強いタイプだった。

生駒さん:日本酒業界はベンチャーがいなかったんですね。この領域だったら自分が一番になれるかもしれないし、自分が一番のめり込んで人生を捧げることができるかもしれないというのがありました。

16万5千円の価値

<「SAKE HUNDRED」では、1本16万5千円で販売している日本酒があります。一体どんな価値があるのか。田原さんはその値段に驚きつつ、背景を尋ねました。>
田原さん「SAKE HUNDRED」が16万5千円で販売している「現外(げんがい)」というんですか、1995年の阪神淡路大震災で被災したタンクの中に残っていた「酒母(しゅぼ)」から生まれた。

生駒さん2018年の夏、ブランドを立ち上げた直後くらいに兵庫県の「沢の鶴」さんからご連絡をもらったんです。「『SAKE HUNDRED』にうってつけのすばらしい熟成酒があるので飲みに来ませんか?」と。

生駒さん:10種類くらい熟成酒があって、全部おいしかったのですが、ひときわすごいのがあると言われました。明らかに普通とは違う、明らかにおいしい。

生駒さん:今までのべ1万種類近くの日本酒を飲んでいると思いますが、全く感じたことのない、甘みもうまみも酸味も全てが渾然一体となった奇跡的な味わいのお酒でした。

田原さん:生駒さんが売り出すまでは、どうして売れなかったんですか?

生駒さんいいお酒だと分かっていても、高く売るのは難しいんですよね。マーケティングやブランディングが必要になってきます。沢の鶴さんは、大事なお酒として取っていました。

生駒さん:このポテンシャルをどのような金額と価値で伝えていこうか、ずっと悩んでいらっしゃった。そんな折、私がSAKE HUNDREDというブランドをつくって、高い価値で日本酒を出していきたいというお話をさせてただき、その可能性を信じて託してくれたということですね。

田原さん:なぜ高い値段をつけたんですか?

生駒さん:「現外」には、そもそも大震災をくぐり抜けたという天運とも言うべき背景があります。また設備が被災してしまったために醸造の途中である「酒母」で搾るという普通あり得ない製造過程も経ている。お酒は、「酒母」という、文字通りお酒の”元”を造ってから、培養できる酵母を作ってからお米を足していって搾るんですけど、プロセスで言うと製造の半分くらいの状態で搾っている。

生駒さん:震災をくぐり抜けて、「酒母」のままで、なおかつ二十数年寝かせている価値って、世界中探しても「現外」にしかありません。

生駒さん:仮に僕が「現外」を3万円で売ったら、日本酒のポテンシャルって3万円が限界だよと言っているのと同じだと思ったんですね。

生駒さん:今自分たちが考えられる限り最高のお酒だと思ったので、1、2万円の価値を付けることは日本酒の価値そのものを毀損してしまうという気持ちがあった。自分たちが自信を持って売れる金額にしました。
「現外」を試飲する田原さん。数十年ぶりにお酒を口にしたそうです。
「現外」を試飲する田原さん。数十年ぶりにお酒を口にしたそうです。

「心の豊かさ」とは

<「SAKE HUNDRED」はブランドパーパス(存在意義)を「『心を満たし、人生を彩る』」としています。具体的にはどういうことなのか。田原さんの質問は続きます。>
田原さん「SAKE HUNDRED」はなんで成功したんですか? 何に力を入れられた?

生駒さんまだまだ成功と言えるものはありません。

生駒さん:事業は急成長しているのでこれから先の成功に向けて頑張りますが、ブランドづくりには力を入れてきました。

生駒さん:外見的なこだわりもそうですし、カスタマーサポートも専任担当者をつけたり、海外のワインや日本酒のコンクールに出品して金賞やプラチナ賞を取ったり、ブランドを育てることに一番力を入れました。

田原さん:一番へぇと思ったのは、「味覚の満足だけでなく、心の豊かさに貢献する」と。これはどういうことですか?

生駒さんおいしさという機能的な価値を提供するよりも、心が満たされるとか、人生が彩られる情緒的な価値を提供していきたいんですね。

生駒さん:例えば、世の中のラグジュアリーブランド、エルメスやルイ・ヴィトンなど偉大なブランドがたくさんあると思うんですけど、彼らも機能を提供するだけではなくて、持つだけで気分が高揚するとか、自分が認められたような気持ちになるとか、情緒的な価値を提供しています。

田原さん:機能じゃない価値はどうやって提供するんですか?

生駒さん:情緒的な価値は、ブランドの世界観を作り込むことが大事だと思います。

田原さん:味ではなくて心の豊かさ。分かるんだけど難しい。味じゃなくて、心の豊かさって一体なんだ。

生駒さん:心の豊かさとは、極端な話、日本酒の味がわからなくても飲むことでうれしい気持ちになれることですね。

田原さん:なんでSAKE HUNDREDは飲むことでうれしい気持ちになれるんですか?

生駒さん:全部にこだわっているからです。

生駒さん:お客様との接点って、飲む瞬間だけではないですよね。ボトルが届いて、箱を見て「かっこいい箱だな」、開けてみて「すごくかっこいいボトルだな」とか。あるいは、「どんな料理と合いますか」とメールで問い合わせをすると、すごく丁寧なメールが返ってくるとか。

生駒さん:お客様とブランドの接点すべてで最上級の体験を提供すれば、機能ではない価値を提供できると考えています。

田原さん:お客様の接点。いろんな接点を持つんですね。ただ飲んでうまいだけではなくて。

生駒さん:うまいのは大前提です。しかし、それだけだとうまいことが分かる人にしか伝わりません。例えば20代の子においしいからと勧めても、飲んだことない人にはわかりづらいですよね。

世界への挑戦

<日本酒の価値を高めていくため、この先も経営者として第一線に立ちたいという生駒さん。長年変わらず健康で第一線にいる田原さんへ聞いてみたいことがありました。>
生駒さん:僕は今34歳で、あと30年40年は経営者としてやりたい気持ちはあります。どうやって心身の健康を保つのでしょうか。

生駒さん:よく会社経営って長距離走だよと言われるんですが、田原さんはどうやって知的な好奇心や健康を維持しているんですか?

田原さん:僕には才能は全くない。あるのは好奇心だけなんですよ。今こんなにおもしろい時代で、みんな将来性がないと思っている。日本の企業は、将来性がないと思うから設備投資をしない。企業の経営者までが将来性がないと思っている時代はおもしろいじゃない。何が起きるのか。

田原さん:例えば、人工知能。どんどん世の中が変わる。こんな面白い時代はない。
<最後に、田原さんは生駒さんへ今後の挑戦を聞きました。>
田原さん:「SAKE HUNDRED」は、これから世界に向けてどういう勝負をするんですか?

生駒さん:日本酒が世界で通じる魅力というのは、食事との相性です。

生駒さん:日本酒はフレンチとも合います。イタリアンとも、中華とも、スパニッシュとも合う。世界中の食のシーンで日本酒は活躍すると感じています。

生駒さん:いきなり日本酒を飲んでくれという押しつけではなくて、現地の料理に日本酒はすごく合うんですよという食の観点から広げて行くことで、自然と日本酒が飲まれるような世界を作っていけないかなと思っています。

田原さん:ブランドにこだわっている、高級品にこだわっている。これはおもしろいね。いっぱい売ろうと思ったらもっと安いモノを売れば良い。超高級品にこだわってほしいと思う。

生駒さん:こだわり続けることで今日の自分があると自覚しています。いまのお言葉をいただいて、よりいっそう、こだわってやっていきたいと思います。
◇  ◇  ◇
 
次回「相席なま田原#7」は、1月25日(月)19時より配信します。
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