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コラム

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初めてのアルバイトも成人式も……としまえんは「練馬の誇り」だった

「94年間愛してくれてありがとう」というメッセージが掲げられている、としまえんの正門=2020年8月、東京都練馬区
「94年間愛してくれてありがとう」というメッセージが掲げられている、としまえんの正門=2020年8月、東京都練馬区

目次

この記事は、「としまえん」協力のもと収録したカルーセルエルドラドの運転中の音声が聞けます。記事を読みながら、現地の雰囲気もお楽しみください。
【カルーセルエルドラドの音】

 

8月31日に閉園する東京都練馬区の老舗遊園地「としまえん」。94年の歴史がある園は、多くの人たちに愛されてきましたが、地元住民にとっては生活に根ざした特別な場所でもありました。練馬区出身で、アルバイトや成人式もとしまえんと、多くの時間を過ごしてきた中井なつみ記者がコラムをつづりました。

【さよなら、としまえん】
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初めてのアルバイトも成人式も……としまえんは「練馬の誇り」だった
としまえん閉園に関する取材をする中井なつみ記者=2020年8月、東京都練馬区
としまえん閉園に関する取材をする中井なつみ記者=2020年8月、東京都練馬区

閉園「最初はデマかと」

「としまえんが閉園する」

このニュースが飛び込んできたとき、最初は何かのデマかと思っていました。

幼いころから、「いつかは閉まるらしい」という話は聞いていたものの、それは都市伝説の一部だと思っていたくらいです。

練馬生まれ、練馬育ち。社会人になって東京から離れたこともありましたが、現在は同じ練馬に住んでいる私にとって、としまえんはなくてはならない存在でした。

閉園を前に、多くの人が連日訪れているとしまえん=2020年8月、東京都練馬区
閉園を前に、多くの人が連日訪れているとしまえん=2020年8月、東京都練馬区

成人式もとしまえん

家族のアルバムを見返しても、としまえんほど登場頻度の高い場所はそう多くありません。

子どものころも、自分が親になってからも、「今日、なにしようか?」「としまえんでも行く?」というやりとりは定番でした。

初めてジェットコースターに乗った日。

毎日のように流れるプールに入っていた夏休み。

ちょっとどきどきしながら、子どもだけで遊びに行った日。

灼熱のプールの売店で、初めてのアルバイトを経験した日。

成人式も、プール横にある更衣室の広い建物が会場でした。紅白幕がかけられ、式の後は晴れ着姿のまま園内で遊んだのも大切な思い出です。

数年前、我が子が初めてジェットコースターに乗ったのも、としまえんでした。

子どものときも、大人になってからも、いつでも行けて、たくさんの思い出が詰まっている場所。これが、ずっと続くと思っていたのに……。

としまえんのシンボル「カルーセル・エルドラド」に乗る新成人=2018年1月
としまえんのシンボル「カルーセル・エルドラド」に乗る新成人=2018年1月 出典: 朝日新聞

「練馬の誇り」だった

練馬区やその近くに住んでいる人の多くにとっても、思い入れはとても強いと思います。

練馬区というと、都内23区のなかでは存在感が薄め。都心に出向くより、隣の埼玉県のほうが近く、親近感がある。そんな練馬区の「誇り」とも言っていい場所がとしまえんだったのです。

これから練馬区のことを聞かれたとき、「としまえんがあるところ」と言えなくなるなんて……。

閉園の第一報が流れてきたときのことは、いまでも鮮明に覚えています。子どもを保育園に送ろうとしている朝のこと。

同じ年代の子どもがいる練馬在住の家族から、次々にスマホにメッセージが送られてきました。みんな、としまえんによく通っていた人たちばかりです。

「ついに閉園??」

「やだなぁ」

「夏のプールしか混んでなかったしなぁ」

「でも、だからこそ遊ばせやすくて良かったよね」

「ちょっと廃れている感じが、としまえんの味だったのにね」

私のとしまえんへの愛着を知っている会社の先輩からも、「閉まるんだってね!」とメールが届きました。

来園者にとしまえんの思い出を聞く中井記者=2020年8月、東京都練馬区
来園者にとしまえんの思い出を聞く中井記者=2020年8月、東京都練馬区

絶妙な親しみやすさ

としまえんの好きだったところをあげれば、きりがありません。

思い立ったら自転車や徒歩で行ける距離感。

「もう一回乗りたい!」となったときにも、ほとんど並ばずに次を楽しめる混雑具合。子ども向けの乗り物も豊富で、まだ身長が100センチに満たないころからでも十分楽しめ、「行けば誰かに会える」という地元らしさもありました。

ほどよい緩さも魅力でした。

アトラクションの裏手には、塗装がはげた古ぼけた置物が突然置いてあったり、園内を回遊する機関車のレールの近くに、大きな動物の人形があったり、お化け屋敷は、一部の仕掛けが見えるようになっていたり…。

木の根っこが伸び放題で、アスファルトが盛り上がっているところもあるなど、手が入りきっていないからこその親しみやすさ。こんなところも「練馬らしいね」と笑い合ってきました。

来園者から寄せられた「としまえんへのメッセージ」。付箋が足りなくなり、急きょ事務所にあったものも使ったという=2020年8月、東京都練馬区
来園者から寄せられた「としまえんへのメッセージ」。付箋が足りなくなり、急きょ事務所にあったものも使ったという=2020年8月、東京都練馬区

今後も「練馬らしい」場所を

今後、あの場所はどうなっていくのでしょうか。

9月以降、乗り物の解体などが始まり、数年後には防災拠点としての大規模公園が整備され、一部にはハリー・ポッターの世界感が味わえるテーマパークも建設される予定とのこと。

首都圏の遊園地が閉園することは決して少なくなく、としまえんだけの話ではありません。いろいろな場所が時代にあった変化を遂げていくことは致し方ないとは思います。

ただ、あの独特な「としまえんらしい雰囲気」は、もう二度と味わえないのかと考えると、ただたださみしい。本当になくなっちゃうのかなぁと、家族にあきれられるほど「さみしい」を連呼しています。

今回、大好きなとしまえんを取材する機会に恵まれ、いつもとはまた違った目線でとしまえんを見ることができました。

取材を通じ、としまえんで働く人はもちろん、そこに訪れているお客さんたちも、誰もがとしまえんへの愛着を熱く語ってくれたことが、忘れられません。「あんなこともあった」「こんなこともあった」。そんなそれぞれの「思い出」に触れさせてもらうことで、多くの人に愛されてきた特別な場所だったことを、改めて実感しました。

社会人になってからも練馬に住み、「子どもの成人式もとしまえんでできるんだなぁ」なんて思っていた私にとって、閉園のショックは大きいですが、その分、この場所が今後も「練馬らしい」愛着の持てる場所で居続けて欲しいと切に願います。

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