感動
としまえん閉園「まだ受け止めきれない」36年整備してきた職人の思い
8月31日に閉園する東京都練馬区の老舗遊園地「としまえん」。94年の歴史がある園は、長年勤めてきたスタッフにとってもたくさんの思い出が詰まっています。「いろいろな思いが駆け巡り、感情がうまく言い表せない」。こう話す佐藤誠さん(60)は就職以来36年間、乗り物のメンテナンスを手がけてきました。「最後に一目」と訪れる人たちのため、プロの仕事で園を支え続けています。
ギー、ギー。木製の部品がこすれる音に耳を澄ませ、異常がないことを確認する。ずっと続けてきた点検の総仕上げだ。
大学の機械工学科を卒業し、園を運営する豊島園に就職した。「怖がりで、乗り物が苦手だった」という幼少期の思い出からは、遊園地は想像もしていなかった進路だった。
いざ現場に出てみると、特徴や仕組みの違うさまざまな乗り物に出会い、魅了された。「飛行機もあれば、車も船もあるような現場。ひとつひとつ違う乗り物をメンテナンスするのは、大変だけれど、良い経験をさせてもらっていたと思っています」
乗り物にも個性があった。よく故障する「じゃじゃ馬」のような相手も多く、時には深夜まで整備をしていたこともある。メンテナンスや維持費用との兼ね合いで撤去されていく乗り物を見送るときは、「自分の身の一部がなくなるような思いがした」。
それでも、列に並び、乗り物に笑顔で乗っている客を見ると、やりがいとともに、「絶対に止めてはいけない」と感じてきた。
同園のシンボルでもある「カルーセルエルドラド」は、中でも特別な存在だ。先進的な機械が搭載されているわけではなく、いくつものギアやモーターが複雑に組み合わさって、3種類のスピードで回転する。50年近く同園でまわり続け、ファンが多い。
2010年には、日本機械学会の機械遺産にも認定され、世界最古級のメリーゴーラウンドとして大きな注目も集めた。それだけに、プレッシャーはいつも肩にのしかかっていた。
コロナ禍で突然知らされた閉園のニュースは、まだ受け止めきれていない。何十年も前から、「いつかは閉まる」と言われていたとしまえんだけに、今回もどこかで「本当なんだろうか」という思いもある。「さみしいような、ほっとしたような。いろいろな思いが駆け巡り、気持ちのコップがあふれだしてしまう。感情がうまく言い表せない」
乗り物は動き、お客さんが訪れる。としまえんのなかでいつもと変わらぬ日常が過ぎる中、普段は見かけないような客、大きなカメラを担いでたくさん写真を撮っている客などを見ると、確実に「最後の日」が近付いていることを実感する。
休日、家族とエルドラドに乗ったこともあるが、機械の調子が気になり、素直に楽しめなかった。9月以降、解体されて倉庫に眠ることになるエルドラド。いつの日か遊園地で再会し、今度こそは優雅に時間を楽しむことが夢だ。
「エルドラドは、まだまだ動ける。そのためにメンテナンスをしてきたので、もっと動いてもらわなきゃ困るんです」。としまえんの最後の日まで、プロとして見届けるつもりだ。
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