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感動

結婚式もとしまえん、40年見続けた「生き字引」が目指した遊園地の形

来園者から寄せられた「としまえんへのメッセージ」を紹介する事業運営部長の内田弘さん。付箋が足りなくなり、急きょ事務所にあったものも使ったという=2020年8月、東京都練馬区
来園者から寄せられた「としまえんへのメッセージ」を紹介する事業運営部長の内田弘さん。付箋が足りなくなり、急きょ事務所にあったものも使ったという=2020年8月、東京都練馬区

目次

8月31日に閉園する東京都練馬区の老舗遊園地「としまえん」。94年の歴史がある園は、長年勤めてきたスタッフにとっても思い入れのある場所です。事業運営部長の内田弘さん(65)は園とともに40年間歩んだ、まさにとしまえんの「生き字引」。「まだまだ、やりたいことはあった」と寂しさを見せながらも、閉園まで遊園地マンとして、来園者たちに向き合います。

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としまえんの正門には「94年間愛してくれてありがとう」というメッセージが掲げられている=2020年8月、東京都練馬区
としまえんの正門には「94年間愛してくれてありがとう」というメッセージが掲げられている=2020年8月、東京都練馬区

「家より、としまえんの方が長い」

東京都杉並区で育ち、幼い頃からとしまえんは身近な存在だった。

大学で機械工学を専攻し、自動車メーカーに就職。数年間、設計などを担当していたが、ひょんな縁から豊島園で働くこととなった。

メンテナンスや企画を担当し、今年で勤続40年。「としまえんのことなら内田さんに」と言われる存在になった。「家にいるより、としまえんで過ごしていた時間の方が長い」と、としまえんが歩んできた時代の変化を肌で感じてきたひとりだ。

シンボルの「カルーセルエルドラド」には、順番を待つ列ができていた=2020年8月、東京都練馬区
シンボルの「カルーセルエルドラド」には、順番を待つ列ができていた=2020年8月、東京都練馬区

自然公園から遊園地へ

開園した1926年からしばらくは、自然公園としての側面が大きかったとしまえん。

それが、80年代ごろにかけて、国内外の遊園地を参考に、大型のアトラクションを増やし始めた。90年代に入園者数のピークを迎え、年間400万人に。野村沙知代さんら大物タレントを起用するなど、キャッチーな広告でも注目を集めた。

内田さんも、ピーク時は何度も海外の遊園地へ視察へ行き、話題のアトラクションを試した。新たな乗り物ができたと聞くと、日本各地の遊園地にもリサーチに出かけた。

プライベートでも、結婚式はとしまえんで開催し、シンボルである回転木馬「カルーセルエルドラド」の前で写真を撮った。そして新婚旅行は各地の遊園地巡り。子どもが産まれてからの家族旅行も、行き先のほとんどが遊園地だった。

転職するまで、「遊園地で何ができるんだろう」と疑問に思っていた内田さんも、気付けば誰よりもとしまえん愛が強くなっていった。

「としまえん」プールも、夏の風物詩だった=2000年7月
「としまえん」プールも、夏の風物詩だった=2000年7月 出典: 朝日新聞

目指した「地元に愛される場所」

園内には、内田さんたちが企画してきたものが随所に残る。

その一つが、小判のような形をした、八角形の園のチケット売り場。窓口を4つ設置し、90年代のピーク時には年間400万人いた来園者に対応できるようにとデザインしてもらった。

ほかにも、家族連れが気軽に休憩できるようにと、園内各所にベンチやテーブルを設置したり、「散歩感覚」で来てもらうため、お弁当やお菓子などの持ち込みも可能なシステムにしたり……。2000年代に入ってからは、名物アトラクションのミニサイズの乗り物を次々に増やし、身長が100cmに満たない小さな子どもでも、めいっぱい遊べるような工夫もした。

「『地元の人に愛される場所』であり続けたい」。試行錯誤を続けてきた成果が詰まっている。

バブル崩壊後、入園者数は落ち込みを続けたが、直近までさまざまなアイデアを実現し、新たな取り組みはやめなかった。「まだまだ、やりたいことはあった」

園内で開催されているガイドツアーで、としまえんの歴史や魅力を語る内田さん=東京都練馬区
園内で開催されているガイドツアーで、としまえんの歴史や魅力を語る内田さん=東京都練馬区

「お客さんを笑顔で送り出す」

閉園が決まり、園内にはさまざまな層の客が訪れる。

しばらくとしまえんに来ていなかったような中高年の客の姿、家族連れが別れを惜しむように園内で散歩をする姿、大きなカメラで園内を記録する人の姿……。

「本当なら、ぎゅうぎゅうになるくらいにお客さんに来てもらって、楽しんでほしい。それが、遊園地にとって一番うれしいことだから」

新型コロナウイルスの影響で入場制限がかかるなかだが、園内ではとしまえんに別れを惜しむ人が大勢駆けつけている。

40年をともに過ごした園との別れが近づき、同僚からは「最終日に泣くだろう」と言われているが、内田さんはこう話す。

「お客さんを笑顔で送り出すのが遊園地マンとしての使命。まだまだ、それまでは気が抜けません」

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