連載
#201 #withyou ~きみとともに~
突然の無視…「誰も僕を見ない」 小学6年生のいじめ、止めたのは
「『いじめられる側も悪い』と言う人もいますが、理解できない」
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#201 #withyou ~きみとともに~
「『いじめられる側も悪い』と言う人もいますが、理解できない」
金澤 ひかり 朝日新聞記者
共同編集記者仲良くしていたグループから突然の無視。耐え続けた日々を救った先生の一言の裏には――。大阪に住む高校3年生のA君が、語ってくれた小学生の頃の経験を、イラストレーターのしろやぎ秋吾さんがマンガにしました。A君はこの頃を振り返り、「一人で抱え込まないでほしい」と強く訴えています。
エピソードを寄せてくれたのは、大阪に住む、現在高校3年生のA君です。「ひとりで抱え込まないで」という願いを届けたいと取材に応じてくれました。
◇
A君が小学6年生のときのことです。夏休みが明けた頃、ずっと仲良くしていた6人グループから、突然無視されるようになりました。
「昨日までは普通に遊んでいたのに、いきなりなんの予兆もなく無視が始まったんです」
朝、A君が教室に入り、グループの友だちに話しかけてもA君以外のメンバーでしゃべり続ける。誰も自分のことを見てくれない――。
「小学1年生のときからずっと仲良くしていた子たちだったので、信じたくなかったです」「『なんでいきなり?』とも思ったし、よくわからなくて、冗談だと思った」
友人たちの態度が理解できないまま1日を過ごしていましたが、いつもなら帰り際、「公園で野球しよう」という誘いがあるのにその日はありませんでした。
それが、A君が「無視されている」と気づく決定打になりました。
久しぶりに一人で帰る帰り道。
「ずっと『何かしたかな』と考え続けていました」
それからしばらくは、無視されていることを誰かに打ち明けることもなく、学校では一人で過ごしていました。
一度、「先生も状況に気づいているかもしれない」と気づく出来事がありました。
ある日、グループの子たちがトランプゲームをしていたときのことです。いつものようにA君が一人でいると、担任の先生から「一緒にやれへんのか?」と声をかけらたといいます。
このときA君は「行かないです」とだけ答えたそう。「ここで無視されている事実を言ったら、もっとひどいことをされそうで、言えなかった」と振り返ります。
無視が始まった最初の頃は、「何かしたかな」と考え続けていたA君でしたが、このころになると「これ以上考えても理由は出てこない」と思うようになり、できるだけ考えないようにしていたそうです。
A君が自分の口で、初めて学校での状況を打ち明けたのはお母さんに対してでした。
テストがあり、早めに帰宅した12月のある日のことです。
「無視されている」
洗濯物を畳んでいたお母さんにそう伝えました。お母さんは手を止め、A君と向かい合い話を聞いてくれました。「お母さんは誰かに怒るでもなく、なんともいえない表情をして聞いてくれていたことを覚えています」。
これまでのことをお母さんに話しているうちに、A君の目からはどんどん涙があふれてきました。
「これまでは無視されていることを言いたいけど、心配かけたくないと思い続けていました。でも、『話したい』という気持ちがこの日は勝り、お母さんに伝えたんです」
全てを話し終えたA君は「気持ちが軽くなりました」。ただ、話した後、余計学校に行きたくない気持ちに。「でも負けたくなくて。学校には通い続けました」
その頃には、一緒に下校する新しい友達もできていたと言います。
「帰り道は、当時はやっていたおもちゃの、べーブレードの話しをしたりしていました。この時間が唯一家族以外の人と話せる時間でした」
ただ、その友だちと一緒にいる時間は下校時間だけ。学校にいる間は、その友だちも別のグループの仲の良い子たちと一緒にいたため、「ずっと一人でした」。
そんなある日、図書館への移動教室のときでした。A君と、A君を無視していたグループが担任の先生に呼び止められました。
先生はA君たちに、「おまえらけんかしてるんか?」と聞きました。でもそれは、誰かを責めようとしているわけではなく、普通の顔で、軽い感じで伝えてきた一言でした。
「深い意味はないだろうな」と思ったというA君。「僕含め、グループの他の子も『してない』と言って、そのまま図書館に行きました」
変化が訪れたのは、その後の給食でした。
配膳係だったA君は「なぜか話せる気がした」と、グループの一人に「カレー、大盛りやんな?」と話しかけてみました。
すると、彼からは「あたりまえじゃん」と返事が返ってきたのです。
「その時はとにかく、びっくりした。でも『やっと話せる』とうれしくなりました」とA君。その後、すぐに無視は終わったといいます。
次の日からは放課後も一緒に遊ぶようになり、まるで何事もなかったかのように、普通の日々が戻ってきました。
ただ、彼らからは謝罪の言葉も、なんで無視をしていたのかの説明もありませんでした。
最近になって、A君と両親、そしてA君の弟の4人でこの頃のことを話す機会がありました。
そのとき、母親から伝えられたのは「実はあのとき、お父さんが先生に電話したんだよ」ということでした。「無視されていることを伝えた上で、『見守ってあげてほしい』と言ったんだ」――。
電話を受けた先生も「実は気づいていたんです」とA君の父親に伝えていたそう。「『(先生も)気づいてくれていたんだ』と、すべてがつながって、うれしかった」とA君は話します。
ただ、A君は当時、お母さんに「絶対に言わんとってほしい」と強く念を押していました。
いま当時を振り返り、A君はこう話します。「『なんで言ったの?』という怒りはなくて。むしろうれしかったんです」
これまで仲良くしていたグループから一斉に無視されるという経験をしたA君。その経験は、その後の人間関係に影を落としています。
まず、小学校の時に無視をしてきたグループの子たちとは、以前のような接し方はできなくなったこと。「もし、嫌われるようなことをもししてしまったらもう一回あの日々が戻ってきてしまうという恐怖にとらわれ、発言を控えるようになりました」
そして影響はいまも。「高校生になって新しく出来た友達に対してもそうです。人間がちょっと怖くなりました」
当時のA君にとって、「頼れる人がいたこと」は非常に大きな救いとなっていました。「いま、つらい思いをしている人がいたら、頼れる人に頼って欲しい」
と話します。
「いじめって、理由もなくいきなり起きるものもあると思う。『いじめられる側も悪い』と言う人もいますが、ちょっと理解できない」
「もしいま、僕と同じような思いをしている人がいたら、一人で抱え込まないでほしいです」
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