
【連載】医療記者のダイエット日記
ベンチャー企業で激務を経験し、2015年には体重が115kgまで増加してしまった記者。転職などで環境が変化した5年後の2019年、合計40kgのダイエットに成功。以降は体重75kg前後をキープしています。この経験から、医療記者として「人はなぜ太るのか」「どうすればやせるのか」を取材する連載です。
●食事編
第一回:ダイエット「理想のメニュー」の落とし穴 おにぎり・ゆで卵・サラダ 「焦り」が生んだ「飽き」
第二回:ダイエットの食事制限、やがて訪れる「飢餓感との戦い」40キロ減量の記者が乗り切れた「つじつま合わせ」
●運動編
第一回:ダイエットの運動「やった感」のワナ ムダだった?深夜の10キロラン 筋トレはテンション上げる「投資」
第二回:「今日もジムに行けなかった…」40kgダイエット、カギは運動タスク化 Googleカレンダーで優先順位を上げる
健康食品では病気は防げないし治せない

「健康」食品というネーミングから「なんとなく健康に良さそう」と思っている人もいるでしょう。しかし、これはあくまで「良さそう」なだけ。実はこれは、上手なコピーライティングです。もし、その商品に本当に病気を治したり防いだりする効果や効能があれば、それは「医薬品」になります。
健康食品はあくまでも「食品」ですから、そんな効果はありません。肥満症やそれに関連する生活習慣病などは病気なので、健康食品(サプリを含む)でそれが解消されることもありません。ダイエットにおいては「おまじない」程度と言っていいでしょう。
そもそも、「健康食品」というのは、定義自体があいまいなものです。インチキな商品から国民を守る消費者庁が、2017年10月に発行した『健康食品 5つの問題』というリーフレットの中でも“錠剤・カプセル状の製品は、薬のように見えますが、「食品」であり、病気を治す効果、防ぐ効果はありません”と明言されています。
一方で、肥満者には目先の利益を優先してしまう傾向があることがわかっています。これが、「食事や運動の習慣は変えられないから、サプリを飲もう」という発想につながるのです。結果、やせないだけではなく、肥満者を食い物にするビジネスに、まんまと騙されてしまう、という構造ができあがります。
ダイエットを借金返済にたとえると、これは100万円の借金を返済しなければいけないのに、月々の5万円を準備することを嫌がり、1万円をギャンブルにつぎ込むようなものです。ギャンブルと違って当たりもないので、20カ月後に借金は120万円に増えています。目を背け続けると、数年後には借金が数倍に膨れ上がる、ということが起こり得るのです。
ヘルスケアビジネスにおいて、医薬品のように効果がない、ただの食品であるがゆえに開発コストが低く、原価も安く、それでいて効果があるように見えることでいい値段がつけられる、すなわち利幅の大きい健康食品は、主要な資金源になってしまっているわけです。
繰り返しになりますが、ダイエットは「食事の節制」と「適度な運動」でしか成功しません。しかし、食べたいものや量をガマンすること、体を動かすことは「しんどい」。だから自分にとってコストがかからない方法、あるいは一気にコストを払えそうな方法に手を出そうとする。これが健康食品ビジネスの構造です。
「トクホなら大丈夫」ではない

2017年11月7日、ある機能性表示食品を販売していた、太田胃散やスギ薬局など大手メーカーを含む16社に対し、消費者庁は景品表示法違反として、行政処分を下しました。景品表示法というのは、簡単に言えば、ウソや大げさな広告を取り締まるものです。
この健康食品は、ダイエット成分として人気の「葛の花由来イソフラボン」を含み、「飲むだけで、誰でも簡単に内臓脂肪や皮下脂肪が減り、おなか周りがやせる効果が得られる」と宣伝していました。これがウソや大げさな広告だった、ということになります。
機能性表示食品というのは、国が定めた制度です。しかし、「安全性」や「機能性」、「効果」についてのガイドラインを満たしているかどうかは、企業の自主的なチェックに委ねられています。つまり、商品を売りたい企業が、売りたい商品に効果があるかどうかをチェックする、ということです。
このような「審査の緩さ」はジャーナリストらにより長らく批判されてきましたが、ついに行政も動いた、と言えます。ちなみに、機能性表示食品は、国が成長戦略の一環として打ち出し、2015年にスタートした制度です。つまり、国までこのような緩い基準の健康食品を、国策として後押ししてしまっているのです。
トクホ、すなわち特定保健用食品は、機能性表示食品と異なり、国が審査をしているはずのものです。有効性・安全性を消費者庁が個別に審査し、査読つきの研究雑誌に掲載されることがトクホのマークを使う条件。しかし、そんなトクホについても、機能性食品と同じような問題が起きています。
2016年9月、消費者庁は制度開始以来、始めてトクホの販売許可を取り消しました。日本サプリメント社が「血糖値や血圧が高めな人に適した食品」として販売していた商品が、後から基準を満たしていないと判明したからです。同社には翌年、5471万円の課徴金納付命令が出されました。
消費者庁によれば、同社が指定した分析方法が間違っていたり、発売後に成分の含有量が変わったりした可能性があるとのこと。残念ながら、このような取り消しがあったとしても、消費者にはあまり伝わりません。その商品を見かけなくなり、また別の商品を手に取るだけでしょう。
健康食品やサプリに騙されなくなるためには、そもそも、「健康食品とはそういうものだ」という認識が必要不可欠です。
「原理原則」を知って騙されにくく

実際には肥満症や生活習慣病を防いだり治したりする効果のない健康食品が、やせそうなイメージを与えるキャッチコピーで大々的に売られてしまう。「コロナ太り」のようなきっかけがあるとその傾向は加速します。
ここまでさも、わかったような顔をして、健康食品の問題点を指摘してきました。しかし先日、記者もハッとした経験がありました。道を歩いていて、喉が渇いたのでコンビニに寄り、お茶を買って出ました。キャップを開けて一口、何の気なしにラベルを見ると……無意識のうちに、「体脂肪を減少させる」ことをうたうトクホのお茶を飲んでいたのです。
借金のたとえにあったように、向き合わなければいけないものから目をそむけても、負債は増えるばかり。少なくとも、健康食品やサプリでしか“ダイエット”をしていないという方は、これを機に認識を改めておきましょう。
では、「このサプリを飲めば脂肪がドバッと…」のような宣伝に騙されないためには、どうすればいいのか。まずは、ダイエットの原理原則を理解することです。ダイエットの原理原則とは、すなわち「消費エネルギー>摂取エネルギー」とそれを実現する食事と運動習慣の改善です。
ダイエットでは食事による摂取エネルギーと運動や基礎代謝、その他の生活活動による消費エネルギーのバランスを、消費の方向に傾けることが必要になります。これが実現して初めて、体に蓄えられていた脂肪がエネルギー源として消費されるのです。脂肪がスルッと腸に移り、排泄される……なんてことは人体のメカニズム上、絶対にありません。
もう一つ、例えば「酵素ドリンク(健康食品)だけを飲み続けるファスティング(断食)」のように極端な摂取エネルギー制限も、原理原則に照らせば逆効果であることがわかります。ダイエット時は特に、摂取する栄養の種類と割合も重要。たんぱく質を摂取して筋肉を減らさないように努めるべきなのに、ファスティングでは筋肉が減ってしまいます。
このように、お金と時間というコストのムダであるだけでなく、体型が崩れるなど逆効果にもなってしまう、健康食品に頼ったダイエット。新型コロナウイルスの感染拡大で健康に意識が向いている今だからこそ、正しい知識を持ってダイエットに臨みたいものです。

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