ベンチャー企業で激務を経験し、2015年には体重が115kgまで増加してしまった記者。転職などで環境が変化した5年後の2019年、合計40kgのダイエットに成功しました。転機となったのは、ダイエットの食事療法がつらく感じた時期を、いくつかの方法で攻略したことでした。
ゆるやかな糖質制限とその注意点、また、カロリー制限にチャレンジするときの運動との組み合わせ方。医学的な取材をもとに自分の経験を振り返ります。(朝日新聞デジタル編集部・朽木誠一郎)
「おにぎり、ゆで卵、サラダ」……管理栄養士さんの指導のもと、医療者が肥満症治療の際に参照する『肥満症診療ガイドライン2016』に沿ったカロリー制限に取り組んだものの、16kgほどやせたあたりですっかり心が折れてしまった記者。
どうにかダイエットの食事療法をハック(攻略)できないかと、専門家を取材することにしました。うかがったのは、北里大学北里研究所病院の内分泌・代謝内科部長で糖尿病センター長の山田悟医師です。山田先生は日々、肥満を伴うことも多い糖尿病患者の治療に取り組んでいます。
「先生、他の方法はないでしょうか」――記者の問いかけに「そういう方にとってのダイエットのコツは『食べたい』を否定しないことです」と答えます。
「カロリーを制限しようとすると、食べる量が減るので、飢餓感との戦いになってしまう。これは分が悪く、そう簡単には食べる量を制限できません。一定期間ならガマンすることができても、どこかのタイミングで誘惑に負けてしまい、リバウンドにつながります」
では、何を制限するかのかと言えば、糖質です。これは前述のガイドラインにも記載されている「糖質制限」の考え方になります。糖質を摂取すると血糖値が急に上がり、それを下げるためにインスリンが大量に放出されます。インスリンは脂肪を溜め込むように働くため、糖質を減らした方が体重は減りやすい、というのが糖質制限の理論です。
「また、最近では大量のインスリンによる急激な血糖低下が飢餓感を生み出すという説もあり、いずれにせよ食後の高血糖を防ぐことが肥満予防に効果的とみられます。糖質制限は海外のガイドラインでも治療法として記載され、日本の『肥満症診療ガイドライン2016』でも『体重減少のためには糖質制限が有効であるとの報告が多い』とされています」
継続性も踏まえた上で山田先生が提唱するのが、ゆるやかな糖質制限、通称“ロカボ”です。この場合、減量中に糖質をまったく摂らないのではなく、1食あたり20~40g、1日70~130g以内が目標になります。
糖質の取り過ぎがよくない、というのは、多くの専門家の意見が一致しているところ。そして、太っている人は主食が炭水化物(≒糖質)中心に偏ることもわかっています。記者のように「カロリー制限に挫折してしまう人には、特にゆるやかな糖質制限がおすすめです」(山田先生)。
糖質制限では必然的に、たんぱく質と脂質の割合が上がります。白米なら一食で茶碗小1杯くらい。代わりに魚や肉、野菜、大豆類、ナッツなどを食べるようにします。ポイントは、糖質以外は満腹感が得られるまで食べていいということ。食べる物の量を減らすことのストレスが大きい人には向いていると感じます。
もう一つ、記者にとってのメリットは、同僚とのランチや夜の会食、飲み会などで気を使うシーンが減ったことでした。ゆるやかな糖質制限の最大のメリットは、ダイエットを試みる人が注意するべき項目を絞り、継続しやすくすることだと言えます。糖質、つまり米や麺類だけ控えれば、その他にはある程度、寛容でいられるからです。
何から何まで食べるもののカロリーをチェックしようとすると、精神的な負担も上がりますから、だいぶ気が楽になりました。また、店を選ぶときに気を使わせたり、食べられないものが少なくて余計な心配をかけることがありません。これは社会人としても非常にありがたい効果です。
ただし、糖質制限には注意点もあります。現在も糖質制限に積極的な立場の研究者と、否定的な立場の研究者が、それぞれにエビデンスを出し合っている状態です。そのため、評価は「一定の効果が認められる」というレベルに留まっています。
そもそも、「ある人が糖質制限に固有のメカニズムでやせたのか」「結果的にカロリー制限になってやせたのか」「あるいはその両方か」「両方だとしたらそれぞれどのくらいの割合が寄与したのか」は、突き止められません。このあたりがダイエットを巡る研究の難しいところでもあります。
記者はゆるやかな糖質制限を実践しましたが、これはより厳格な糖質制限をした場合のリスクを現時点では否定できないことを前提に、カロリー制限をダイエットの入口にすることに耐えられなかった立場からです。
もし、肥満の程度がより軽かったり、カロリー制限が苦ではなかったりする場合、カロリー制限でも効果は同等である可能性があります。
『肥満症診療ガイドライン2016』においても、糖質制限についてはその一定の効果を認めた上で、「現時点において、糖質制限を6カ月以上実施することの有効性は未確立」と結ばれています。ダイエットがカロリー制限でうまく行かないとき、ダイエットの停滞を打破する一手として、取り入れてみるというスタンスがいいかもしれません。
日々の食事制限に加えて、社会人になると時折、別の試練が訪れることがあります。それが前述した会食や飲み会のような、避けがたいハイカロリーな食事です。ちなみに、ダイエット中の飲酒はどうかと言えば、ノーグッド。同ガイドラインには以下のように記載されています。
“飲酒は内臓脂肪蓄積作用が報告されているのみならず、肥満症に伴う諸種の代謝異常を増悪させる危険が高い。原則的に禁酒が望ましいが、許可する場合でもエタノール25g/日以下とする。アルコールのエネルギーについても考慮する。”※太字は記者によるもの。
ただでさえ飲酒がNGなのに、会食や飲み会でさらに困るのは、摂取エネルギーが増えがちなところ。中華料理やイタリアンなど、基本的にハイカロリーなメニューが並ぶ場合があります。そんなときにはゆるやかな糖質制限という手もありますが、ダイエットに慣れてきたら、カロリー制限でつじつまを合わせるといった方法もとれます。
例えば、火曜日と金曜日に飲み会がある週について、プランを練ってみましょう。記者の基礎代謝は16kgの減量時点で約1500kcalほど。取材などで動き回る身体活動量をあわせて、大体毎日の消費エネルギーが2500kcalくらいでしょうか。基礎代謝や身体活動量はアクティビティ・トラッカーで計測しています。
自分の消費エネルギーを把握したら、会食や飲み会では暴飲暴食をしない程度に、その場をしっかり楽しみます。そして、翌日にでも『カロリーママ』や『あすけん』などの食事管理アプリに入力。自分がどれくらい消費エネルギーをオーバーして摂取したのかを把握します。
食事による摂取エネルギーが1日合計2500kcal以下であれば、(むくんだりはするかもしれませんが)理論上、増減はないと考えることができます。しかし、会食がイタリアンのコースだったとすると、前菜、パスタ、サラダ、肉料理、デザートと酒で、一食2000kcalオーバーということもあり得ます。
もし他の2食を「おにぎり・ゆで卵・サラダ」にしたとしても、摂取カロリーは3000kcalを超えてしまうことに。こんなときは前後の日の摂取カロリーを250kcalずつ減らすことで、会食や飲み会でのダイエットの負債をチャラにすることができるのです。
あらかじめ会食や飲み会があることがわかっていれば、消費と摂取のエネルギーを定量的・客観的に把握しておくことによって、「気づいたら太っている」ことを防ぐことができるようになります。アクティビティ・トラッカーと食事管理アプリのコンボは記者のダイエットに極めて有効でした。記者はこうして、さらに24kgの減量に成功したのです。