IT・科学
役に立たない研究をする理由 マンボウとクマムシ研究者に生まれた絆
マンボウとクマムシの研究者に共通していたのは……
マンボウとクマムシという、交わることのなさそうな生き物を今夜、比べてみました。インターネットで「最弱」「最強」とネタにされる生き物を、専門の研究者が新しくて正しい情報で紹介するトークイベントを開催。125年ぶりの新種発見で大ニュースなマンボウに対し、「だいたい新種」なクマムシ。両者に共通するのは、ニッチすぎてすぐに役立つかわからないということ。それでも研究を続ける二人の言葉からは、好奇心を大切にしたいという思いが伝わってきました。
一方、クマムシを研究する鈴木さんは「同じ種だと言われていたものでも、よく調べるとたいてい新種だったりします」。なんとクマムシは現在約1300種発見されており、この10年でも数百種類の新種が発表されるほどです。
Acutuncus antarcticus ナンキョククマムシ(走査電子顕微鏡像)=鈴木忠先生提供
とは言っても、クマムシは0.2~0.3mm程度の大きさのものが中心で、顕微鏡でしか見られない世界。「見た目は一緒なのに、遺伝子を調べると別のグループということもある」と言います。
鈴木さんは「もしもクマムシの図鑑があったら、同じようなのばかり並んでいるでしょうね」と笑います。
オニクマムシの産卵。脱皮前に殻の中で産卵する=鈴木忠先生提供
イベントの終盤には、研究者の2人に参加者からの質問に答えていただきました。質問したのは塾の先生をしているという女性。「研究者になりたいという教え子がいますが、研究者になるためにはどうしたらいいでしょうか」
子どもの頃からずっとマンボウが好きだったという澤井さんは、研究対象を「ずっと好きでいつづけることが大事」と話します。大変なことも、うまくいかなくて心が折れることもある研究生活は、「マンボウが好き」という気持ちが支えていました。
それぞれの研究対象について「面白い」と語る2人は、とても輝いて見えました。参加者も、飾らない2人の言葉に、大きくうなずきます。会場にはそれぞれの「好き」を大切にする、優しい時間が流れ、イベントは大盛況で終了しました。イベントを終えて、どうか日本が研究者の知的好奇心がキラキラ輝く国であってほしいと思いました。
澤井悦郎<さわい・えつろう>
1985年奈良県生まれ。マンボウ研究者。ウシマンボウとカクレマンボウの名付け親。著書に「マンボウのひみつ」(岩波ジュニア新書)「マンボウは上を向いてねむるのか」(ポプラ社)がある。広島大学で博士号取得後は「マンボウなんでも博物館」(@manboumuseum)というサークル名で同人活動・研究調査を行っている。澤井さんの研究を支援するサイトはこちら。
鈴木忠<すずき・あつし>
1960年愛知県生まれ。慶応義塾大学医学部准教授。クマムシ研究者。著書に「クマムシ?! ―小さな怪物」(岩波科学ライブラリー)や「クマムシ調査隊、南極を行く!」(岩波ジュニア新書)がある。第56次南極地域観測隊に夏隊員として参加。
1/13枚