「勉強をする意味がわかりません」。そんな悩みに、世界30カ国以上の教育現場を見て回り、「学ぶ」を考え続けている朝倉景樹さん(教育社会学者・シューレ大学スタッフ)は、「勉強は、自分が生きやすくなるためにするものでは」と語りかけます。テストで悪い点数をとっても「それがあなたの価値ではない」と断言する理由を聞きました。
10代のみなさんは、年間イベントとして中間・期末試験や学校行事がある中で、日々宿題も出されるし、結構忙しい。それをこなすだけでいっぱいいっぱいになります。
そんな中で「自分がどうしたいのか」がわかりにくくなっているかもしれません。
本来は、「私はどういう人間で、いま何を感じていて、なにがしたいのか」。それを大事にしていいんです。
私は、「学ぶ」「勉強する」というのは、「自分が生きやすくなるためにすること」ということでいいんじゃないかと思っています。
自分が生きやすくなるためにはなにが必要か。「自分を知る」「社会を知る」ということです。
「自分を知る」というのは、「自分がどうしたいのか」をわかるということです。
「社会を知る」というのは、自分なりに世界や社会への理解を持つということです。
例えば雨が降ったときに、なんで雨が降るのかという仕組みを知っておけば、洗濯物を取り込む時間や外出の予定を立てたりすることもできます。
行動をするかしないかの判断をするには、自分なりの理解が結構大事です。
そして、「社会を知る」のは、「知りたい」と思った時の方が理解しやすいと思います。
「テストの点数が悪かったんですが…」と子どもたちに聞かれたら、僕は「それでも良いんです」と答えます。当然です。
というのも、それ(テストの点数)は、あなたの価値ではないからです。
それは、いまできてしまっている社会の仕組みの中にあなたが放り込まれてしまっているということなので、「合わない場所」で、あなた自身を、テストの点数で評価する必要はないということです。
「テストの点数が上がらない」とか「勉強に気持ちが向かない」とかの気持ちを持った自分を、責めないでいいんです。
でも、現在高校や中学に行っている子にとって、いま言っているようなことが唐突であるということは感じています。
そのときに伝えておきたいのは、「あなた自身が、『どうしたい』という気持ちから決めていいんだよ」ということです。その上で、いまの状況を捉えるということでいいんじゃないかと思います。
「私はどう生きたいのか」「なにを大事にしたいのか」ということを、お腹の中で持ちながら、中間試験や期末試験など、日々の生活に向かう。
自分がどうしたいのかがわかっていたら、「いまの時点で私がしたいのはこれだから、ちょっとぐらい試験の結果が悪くてもいいや」と思ってもいいんじゃないでしょうか。
あなたがあなたをまず大事にするということです。
状況が大事なんじゃなくて、自分が納得できるように生きて行く上で、なにを選ぶといいのかなと考えてみてください。
そもそもですが、例えば、中学で習う数学の2元2次方程式。これは誰のために勉強しますか?
私は、勉強は「自分のため」であるべきだと思っていますが、「私には2元2次方程式は必要ないので、スキップしたいです」と言っても、先生は「わかった。じゃあスキップしていいよ」とは言ってくれないですよね。
「なんでこの勉強をしないといけないの?」と思っても、先生や親からは、明確に「これに役立つ」という答えではなく、「もしかしたらすぐには役に立たないかもしれないけど、この考え方はあなたの人生にとってむだではないんですよ」と言われたりしませんか?
それでは説得されているようにしか感じません。
シューレ大学の研究の一つに、「学習指導要領の内容はどのようにして決まっているのか」というものがありました。
結論は、ほんの一部の研究者とか開発職に就く人のために、同じカリキュラムを履修しているということが分かるんですね。
ほんの一握りの専門家を育てるために、その基礎を義務教育中に全員がやらされているのが、日本の教育です。
でも、例えば、その分野について理解できなかったときに、先生から「分からないよね。でもとりあえず、やってみてわからなかったら『じゃあいいや』ってしようか」と言われれば、それは「機会の提供」となるので、うなづけます。それなら、理解できなかった子どもたちにとっても地獄じゃないかも知れない。
でも、日本の場合は「できないとだめ」となってしまうことが多い。そうなると子どもたちはコンプレックスを抱えてしまいます。
学校教育の成果がそれでいいんでしょうか?
日本の不幸は、「勉強は子ども期にすべきこと」というイメージになっていることです。
人生の中で学びに集中したい時期は、すべての人にとって10代のときにしか訪れないのでしょうか。違うと思います。
働いてみて、社会を経験してみて、「もう一回学ぶことに集中したい」となることもあります。
「学ぶ」ということを、子どものものと決めつけてきたことで子どもも大人も苦しめられているのではないでしょうか。
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著名人や専門家が10代の悩みに答えるこの企画は、電話などで10代からの相談を受け付けているチャイルドラインの高橋弘恵専務理事に協力いただいています。
チャイルドラインの電話相談には2018年度、のべ19万人から相談があり、この企画の相談内容は実際に寄せられる相談をもとに、架空の内容を設定しています。
また、回答はあくまで回答者の個人的な見解であり、悩みへの一意見です。
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