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「コンプレックスを個性に」10代の悩みに登山家の野口健さんの答え
高校を停学になったことで将来の道を見つけたという野口さんに、コンプレックスとの向き合い方を聞きました。
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高校を停学になったことで将来の道を見つけたという野口さんに、コンプレックスとの向き合い方を聞きました。
コンプレックスがあり、自分に自信が持てません。
コンプレックスというのは本人の受け取り方、考え方次第です。見方を変えればそれは個性です。そして、個性、個性ってみんな言いますけれど、「個性」から始まらない方がいい。
個性的な人って個性的になろうと思って個性的になっているわけではない。何か好きなことがあって、没頭して生き生きする。他人から見ていいな、という個性の人は、生き方が個性を生んでいるのです。
野口さんは幼いときに、いじめられた経験があります。高校生の時には停学になったことも。「落ちこぼれだった」と過去を振り返り、登山を始めてからも世界最高峰エベレストへの登頂も実は2回失敗しています。
苦しい日々を乗り越え、25歳で世界7大陸最高峰に登頂。その後も国内外で登山や環境を守る活動を続け、この秋もヒマラヤの8千メートル峰に挑みます。かつて失敗を経験した山で再チャレンジです。そんな野口さんは「行動を起こしてみたときに点と点がつながる」と語り、勇気を持って一歩を踏み出すことをアドバイスします。
僕は高校のときに停学で自宅謹慎になりました。家に帰ると、父親に「知らない街を2週間、ひたすら歩け」と言われました。そのときに、たまたま手に取ったのが冒険家・植村直己さんの本。そこでピンときてから始まりました。
その本に出てくる植村さんはコンプレックスだらけでした。でも、そのコンプレックスがなければ、あれだけのことを成し遂げることはできなかったのだろうと思います。
世界的な建築家で安藤忠雄さんという大好きな方がいます。父親と年が近く、がんと闘っていて、強烈な個性があります。それは若いときからの生き方であり、安藤さんは個性を持とうと思ったのではなくて、生き方がまっすぐだったからだと思います。安藤さんも、あれだけの建築家になれたのはコンプレックスをバネにすることができたからです。
自分自身のことは、個性的だと思っていないです。「個性がない」と思う人もいるでしょうが、個性から始まる人生ではなく、生き方から個性が生まれます。
僕自身も「落ちこぼれ」というコンプレックスがあったからこそ、今があるのかもしれません。コンプレックスは力になります。行動を起こしてみたときに点と点がつながります。せっかく自分自身のコンプレックスに気付けたのですから、反骨心を持ってそれをプラスに転じてもらえるように祈っています。
<のぐち・けん>
1973年生まれ。17歳でアフリカ最高峰のキリマンジャロ(標高5895メートル)に登頂すると、99年に3度目の挑戦でエベレスト(8848メートル)に登頂。25歳での世界7大陸最高峰の登頂は当時の最年少記録だった。その後はヒマラヤに登山者が残したゴミを清掃する活動や、富士山の清掃登山などに取り組む。この秋はヒマラヤのマナスル(8163メートル)の登山に挑む。
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著名人や専門家が10代の悩みに答えるこの企画は、電話などで10代からの相談を受け付けているチャイルドラインの高橋弘恵専務理事に協力いただいています。チャイルドラインの電話相談には2018年度、のべ19万人から相談があり、この企画の相談内容は実際に寄せられる相談をもとに、架空の内容を設定しています。また、回答はあくまで回答者の個人的な見解であり、悩みへの一意見です。
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