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2019年04月28日

「虫がすめない環境、やがて人間も……」絶滅寸前のチョウ守る研究者


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東京・足立区生物園で飼育されているツシマウラボシシジミ。枝に止まっているメスの上をホバリングするオス=2019年4月18日、竹谷俊之撮影

東京・足立区生物園で飼育されているツシマウラボシシジミ。枝に止まっているメスの上をホバリングするオス=2019年4月18日、竹谷俊之撮影

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絶滅の危機に直面している長崎・対馬に生息のチョウ「ツシマウラボシシジミ」。このチョウを救う活動が東京都内の足立区生物園で6年前から続いています。ツシマウラボシシジミを絶滅から救うことはできるのでしょうか。チョウの研究者で希少種の保全に取り組む矢後勝也・東京大助教(48)に聞きました。(朝日新聞記者・牧内昇平)


矢後勝也・東京大助教

矢後勝也・東京大助教

保全活動なければ絶滅していた

――ツシマウラボシシジミはどんなチョウですか?

「可憐でかわいらしいチョウですよ。小さいですが、人間のひざの高さくらいを飛び回ってくれるので、簡単に観察することができます。20代のころ対馬に調査に行きましたが、そのときもたくさん見ることができました。私にとっては、対馬に行けば必ず会える『普通種』という認識でした」

「ところが、2005年ごろから『シカの影響でウラボシの数が減っている』という情報が入るようになり、あっという間に絶滅が心配されるレベルになってしまいました。大変ショックでした」

枝に止まっているツシマウラボシシジミのメス(左)に興味を示すオス=2019年4月18日、東京都足立区の足立区生物園、竹谷俊之撮影

枝に止まっているツシマウラボシシジミのメス(左)に興味を示すオス=2019年4月18日、東京都足立区の足立区生物園、竹谷俊之撮影

――どのくらい絶滅の心配があるのでしょうか?

「環境省のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)では、最も絶滅に近い『絶滅危惧1A類』にランクされています。実際、2013年からの保全活動がスタートしなければ、1、2年のうちに絶滅してしまったでしょう」

対馬のシカ害の状況。シカが出入りできる地域(左)は下草が食べ尽くされ、地面が露出していた=2017年、矢後勝也氏撮影

対馬のシカ害の状況。シカが出入りできる地域(左)は下草が食べ尽くされ、地面が露出していた=2017年、矢後勝也氏撮影

課題は対馬の回復

――2013年以降の保全の取り組みをどのように評価していますか?

「手厚い態勢を整えることができたと考えています。対馬の生息域での環境整備と、足立区生物園など生息域外での保全という、両輪が回り始めました。私たち研究者による生態解明も進み、飼育での障壁だった採卵や交配の方法、越冬時の注意点などもだいたい分かってきました」

「2017年度には種の保存法に基づく『国内希少野生動植物種』に指定され、環境省も本格的に保全に参加するようになりました。行政、研究者、チョウの保全団体、そして対馬の人々が一緒に取り組める態勢ができました」

【関連動画】ツシマウラボシシジミの保全活動を語る足立区生物園の取り組み=竹谷俊之撮影

――今後の課題はなんですか?

「生物園での域外保全は安定してきましたが、さらに難しいのは、対馬の生息域の回復です。対馬市や市民の方々が熱心に取り組んでいますが、まだ野外で安定して生き続けるレベルには回復していません」

「シカの食害が激しくて、幼虫が食べるヌスビトハギ類の植物が食い尽くされてしまいました。柵を立ててシカを排除するだけでは、一度失われた草木はなかなか元に戻りません。ヌスビトハギを育てて植えるなど、地道な活動が続いています」

2013年6月にツシマウラボシシジミを発見し、緊急で行った保全対策の様子。植木鉢に入っているのが、ヌスビトハギ=日本チョウ類保全協会提供

2013年6月にツシマウラボシシジミを発見し、緊急で行った保全対策の様子。植木鉢に入っているのが、ヌスビトハギ=日本チョウ類保全協会提供

――課題は山積のようですね。将来的にもツシマウラボシの絶滅を防げるのでしょうか?

「『防げるか』ではなく、『防がなきゃいけない』ですよね。域外保全をやめても支障がないところまで、対馬の環境を元に戻さなければいけません。どのくらい時間がかかるかは、正直言って現段階では分かりません」

足立区生物園にあるツシマウラボシシジミの保全活動の説明ボード=竹谷俊之撮影

足立区生物園にあるツシマウラボシシジミの保全活動の説明ボード=竹谷俊之撮影

虫がすめない環境、やがて人間も住めなくなる

――ツシマウラボシシジミのほかに、絶滅が心配されているチョウはどのくらいいますか?

「先ほどの環境省レッドリストで言えば、17種のチョウが絶滅危惧1Aにランクされています。そこまで緊急性の高いものに限定せず、生息環境が危なくなりつつある種を数え上げれば、国内のチョウの3分の1くらいは絶滅の恐れがあると言っていいでしょう」

「要因はシカ害のほか、環境破壊や温暖化などさまざまなものがあります」

長崎・対馬の状況。写真右側のシカ柵で囲まれた内側では、林床の植物が豊富だが、写真左側はシカに食い尽くされ、ほとんど植物がみられない=長崎県対馬市、日本チョウ類保全協会提供

長崎・対馬の状況。写真右側のシカ柵で囲まれた内側では、林床の植物が豊富だが、写真左側はシカに食い尽くされ、ほとんど植物がみられない=長崎県対馬市、日本チョウ類保全協会提供

――チョウを絶滅から守ることにどのような意義があるでしょうか?

「大型の哺乳類から虫たち、そして草や花まで、すべての生き物はお互いに影響をおよぼし合い、その土地の生態系を築いています。昔からいたチョウがいなくなるということは、チョウ以外のほかの多くの生き物たちも同様の被害を受けているということです。逆に、チョウを絶滅から守るということは、そのエリアにいるすべての生き物を守ることと同じです」

「また、チョウは昔からファンが多く、国内のどこにどんな種が分布しているか、ある程度データが残っています。飛び回っているので、草木や土の中に隠れている虫たちよりも観察が簡単です。このため、チョウの生息状況は、そのエリアの環境がどのくらい維持できているかの指標になるのです」

「チョウを守ることは生き物全体を守ること、と言いましたが、もちろんその中には人間も含まれています。ツシマウラボシが直面しているのはシカ害ですが、シカが増えるとシカにくっつくダニも増えます。このダニが媒介する病気は人間も感染します」

「温暖化が人間の暮らしに与えている影響は言うまでも無いですよね。虫たちがすめない環境には、やがて人間も住めなくなるのです」

ツシマウラボシシジミの保全活動に取り組む足立区生物園の飼育員たち=竹谷俊之撮影

ツシマウラボシシジミの保全活動に取り組む足立区生物園の飼育員たち=竹谷俊之撮影

やご・まさや 1971年、神奈川県生まれ。少年のころからチョウの魅力にみせられ、昆虫学者を志した。明治大学在学中から主にシジミチョウの研究を進め、2003年に九州大学大学院で博士号を取得。現在は、東京大学助教。日本昆虫学会の自然保護委員長も務める。2011年に「幻のチョウ」と言われていたブータンシボリアゲハを捕獲したことでも知られる。

GW中は一般公開

ふだんは非公開のツシマウラボシシジミですが、飛び回る姿を自由に観察できるチャンスがひとつだけあります。足立区生物園では、主に交尾が終わったオスを大温室で一般公開しています。

今年は4月27日(土)~5月6日(月)の予定です。注意事項や詳細はホームページから。


絶滅寸前の「対馬の妖精」 羽化・交尾の瞬間に密着
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ツシマウラボシシジミは羽の裏側に黒い斑点が一つあり、オスは羽の表側がブルーに染まっている=2019年4月15日、東京都足立区の足立区生物園、竹谷俊之撮影
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