MENU CLOSE

連載

#6 ここにも「スゴ腕」

まるでスーパーマリオのキノコ!コシヒカリ産地が生んだ肉厚シイタケ

菌床からのびる「八色しいたけ」
菌床からのびる「八色しいたけ」

目次

 新潟県南魚沼市の地名を冠した「八色(やいろ)しいたけ」の特徴は、かさの厚さです。厚いものは4~5センチあって、「スーパーマリオ」のキノコのようです。少しずつ首都圏でも認知度をあげている肉厚シイタケが、コシヒカリの産地として知られる豪雪地帯でうまれたわけを探ろうと、生産者を訪ねました。(朝日新聞経済部記者・志村亮)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」
菌床からのびた八色しいたけをひとつひとつ収穫する駒形永幸さん。キャッチコピーは「厚いにも、ほどがある」だ=新潟県南魚沼市、村上健撮影
菌床からのびた八色しいたけをひとつひとつ収穫する駒形永幸さん。キャッチコピーは「厚いにも、ほどがある」だ=新潟県南魚沼市、村上健撮影 出典: 朝日新聞社

生産者価格は平均1キロ1千円の高水準

 新潟県南魚沼市の「八色しいたけ事業協同組合」は毎年、夏休みに都会の子どもたちを招くシイタケ狩りツアーを開いている。

 代表理事の駒形永幸さん(38)は「子どもはみんな、より大きいシイタケを探して手を伸ばします」と言う。

 組合の生産者は現在15軒で、栽培ハウスの数は約120棟ある。ここ数年、栽培品種の統一などを推し進めた結果、販売量は約1400トンの大台を2年続けて達成した。生産者価格ベースの販売額は約14億円になった。

 生産者価格は、1キロあたり平均約1千円。卸売業者が利ざやをのせて売買する東京都中央卸売市場の年平均価格が1千円近辺であることを踏まえると、高い水準だ。

出稼ぎしないですむように

 売り先はJA魚沼みなみ(現JAみなみ魚沼)が切り開いてきた。いまでは東京・銀座の料亭から米国系の会員制大型スーパー「コストコ」にまで広がる。

 米価の低迷などに危機感をもち、新しい農産品のブランド開発にいどむ地域は多いが、根付くのは簡単ではない。八色しいたけは今のところ、成功例になりつつあるようだ。

新潟県南魚沼市は「魚沼コシヒカリ」で知られるコメの産地
新潟県南魚沼市は「魚沼コシヒカリ」で知られるコメの産地 出典: 朝日新聞社

 組合によると、地域の生産者2軒がシイタケの原木栽培を始めたのは1981年ごろ。コシヒカリブランドで有名なコメの産地は、豪雪地帯でもある。農家にとって、農閑期の出稼ぎはあたり前で、家族が離ればなれにならずにすむ収入源をさがすためだった。

肉厚のヒミツは……

 生産者は徐々に増えた。95年からは通年の収穫をめざし、おがくずなどを固めたブロック型の「菌床(きんしょう)」をつかう栽培法に切り替えた。

 駒形さんは「父たちの第一世代が大きく厚いシイタケを育てるノウハウを築いてくれた。自分たち第二世代の役目は、質に加えて量を追い求めることです」と話す。もともと工務店で大工をしていたが、23歳で結婚したのを機に、家業を継ぐ形で携わるようになった。2016年、35歳で代表理事になった。

袋詰めで培養が進むブロック型の菌床
袋詰めで培養が進むブロック型の菌床 出典: 朝日新聞社

 菌床は、倉庫のような組合の施設でまとめて培養する。環境管理には神経をとがらせる。「秋の山」を再現するために湿度や炭酸ガス濃度が調整され、屋根の出窓から「木漏れ日」も差し込む。

 白い菌糸が、約2カ月かけて袋詰めのブロック全体に行き渡ると、地域に散らばる生産者のハウスに移される。

 ハウスでは、袋の上だけめくって栄養分を上部に集め、大きく育てる「上面栽培」という手法をとる。菌床ひとつから約8カ月間、80~100個を収穫できる。収穫したら組合施設に再び集め、包装して出荷する。

金魚鉢のように

 駒形さんらは、このサイクルの効率化に力を入れてきた。生シイタケ生産量日本一の徳島県を積極的に訪ね、助言ももらった。

 駒形さんが栽培を学びはじめた頃、もともと無口な父は詳しく教えてくれなかった。どうやれば大きく育つか。試行錯誤を重ねるうちに、「金魚鉢の水を替えるように」新鮮な水を惜しみなくひんぱんに菌床に注いでやるのがコツと気づいた。

南魚沼市からのぞむ八海山。越後山脈の豊かな雪解け水は、この地域の強みだ。
南魚沼市からのぞむ八海山。越後山脈の豊かな雪解け水は、この地域の強みだ。 出典: 朝日新聞社

 幸い、豊かな地下水が地域の強みでもある。地下水熱をいかしたヒートポンプが、施設の空調管理に使われる。おいしいコメや日本酒の生みの親にもなった雪解け水は、シイタケ栽培でもふんだんに活用されている。

 コメなら収穫が1年に1回だが、シイタケの菌床は2カ月おきにつくる。うまくいったか、いかなかったかがすぐわかる「スピード感」にもとりつかれたという。

 とりくむ課題も多い。認知度は上がってきたが、まだ八色を「やいろ」ではなく「はっしょく」「やしき」と読まれることが多い。組合職員は約100人になったが、さらに生産量を増やすとなると、選別や包装などの人手を十分に確保できるかが生命線になってくる。

 一押しのレシピをきいた。あらかじめ格子状に切れ目を入れておく。オリーブオイルでニンニクを炒めて香りを出した後のフライパンに投入。料理酒を加えて蒸し焼きにし、ポン酢で味付ける。その名も「しいたけのステーキ」。肉厚だからこそだ。

駒形永幸さん
駒形永幸さん

連載 ここにも「スゴ腕」

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます