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#18 ここにも「スゴ腕」

生放送の通販番組支える「SP」って? 瞬時の判断、売り上げに直結

常に接客しているような気持ちで番組を進行する。「番組がスタートすると、セール会場にお客様が入ってくる光景が浮かぶ」=東京都中央区、関口達朗撮影
常に接客しているような気持ちで番組を進行する。「番組がスタートすると、セール会場にお客様が入ってくる光景が浮かぶ」=東京都中央区、関口達朗撮影

目次

ケーブルテレビなどで見られる通販番組「ショップチャンネル」。24時間365日生放送の番組で、制作のトップにいるのがセールスプロデューサー(SP)です。視聴者の反応を見ながら商品紹介の切り口を臨機応変に変え、出演者や制作スタッフに次々と指示を出しています。瞬時の判断が売り上げに直結する厳しい現場で活躍する仕事人の素顔に迫りました。(朝日新聞経済部・平井恵美)

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24時間365日生放送の番組が生まれるスタジオ=提供
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臨機応変に進行

番組で、いくらしょうゆ漬けの紹介が始まった。画面にはいくらやいか、スモークサーモンも載った海鮮丼が映し出された。すると、視聴者からコールセンターに電話が相次ぎ、いくらだけでなく、いかやサーモンの注文も伸び出した。元々はいくらが完売した時に紹介しようと考えていた商品だったが、気の早い視聴者が「これも買えるの?」と問い合わせ始めたのだ。

SPの真島悟さん(47)は注文や在庫の状況を確認しつつ、出演者や制作スタッフにインカムで「前倒しでいかやサーモンを紹介して」などと指示を出す。いくら、いか、サーモンの合わせ買いが増え、売り上げの伸びに勢いがついた。

いくらだけでなく、映し出されたいかやサーモンも視聴者の反応に合わせて臨機応変に紹介する(9月11日の放送より)=提供
いくらだけでなく、映し出されたいかやサーモンも視聴者の反応に合わせて臨機応変に紹介する(9月11日の放送より)=提供

視聴者の問い合わせ内容や注文状況によって柔軟に対応する。バッグの紹介で出演者がカラーや生地について説明をしていても、「中が見たい」という視聴者の声が多ければ中の構造をよく見せるように指示を出す。時には洋服のトップスを紹介中、出演者のボトムスに注目が集まり、急きょ商品として紹介することもあるという。

番組では、一つの商品を1時間かけて紹介する。放送前から、価格、時間帯、販売履歴、天気といった情報をもとにどんな流れになるのかの見通しを立てるが、ふたを開けないとどんな反応が来るかは分からない。予想を上回るペースで売れることも、売れないこともある。

最初の15~20分間がとくに重要という。真島さんは「ここで入電件数が伸びた場面やお客さんに響いたトークを見極め、中盤以降に手厚く訴求すべきポイントを決める」と説明する。いずれにせよ、瞬時の判断が売り上げに直結する。放送中は気が抜けない。

視聴者からの問い合わせが相次ぐコールセンター=提供
視聴者からの問い合わせが相次ぐコールセンター=提供

前職は接客業

前職は高級紳士服店の販売員だった。ある日、同僚の代わりに常連客に対応すると「会社に来てくれないか」と名刺を差し出された。当時のジュピターショップチャンネルの社長による一本釣りだった。

「なぜ買うのに迷っているのか」「どんな情報が欲しいのか」を常に想像するのは、前職で培った接客の経験が大きい。

それでも入社当初は苦労の連続だった。生放送中、多くの情報を伝え過ぎ、怒った出演者にインカムを外されたことがある。ベテランの出演者や制作スタッフにあれこれ口を出して煙たがられたこともあった。

先輩の仕事ぶりを観察し、自宅でも過去の番組を研究した。職場や飲み会の席で積極的に話しかけるうち、徐々に本音を聞けるようになり、番組づくりに対する一人ひとりのこだわりを知った。

真島さんは「自分にできることは限られている。先輩の力を借りていい番組を一緒に作るにはどうしたらいいかと考えるようになって、肩の力が抜けた」と振りかえる。

これまでに約1万5千本の番組をプロデュースした。12人いるSPの中でも「引き出しが多く、ビッグイベントを任せられる人」(広報担当者)という。

セールスプロデューサーの真島悟さん=東京都中央区、関口達朗撮影
セールスプロデューサーの真島悟さん=東京都中央区、関口達朗撮影

番組づくりへのこだわり

多くの出演番組で司会を務める多忙なキャストたち。一人ひとりの個性、売り方を生かす進行ができるように、10分でも時間を見つけて話をするように心がけている。コミュニケーション不足が生じると、番組中にインカムで指示を出しても意図がうまく伝わらないこともある。同じ商品でも10人のキャストがいれば、10通りの売り方があるという。

強くこだわるのは、商品の魅力や作り手側の思いが伝わる内容かどうかだ。売り上げ目標を達成しても、客をあおって買わせるような内容では満足感はない。

「売り上げを左右する7割は商品力で、私たちに出来ることは最大でも3割。その中でお客さんが見たい映像、知りたい情報を最大限伝えられる番組づくりをしていきたい」

     ◇

まじま・さとる 東京都出身。1998年、米ニューヨーク州立大学卒業。帰国後、2000年から米国の高級紳士服ブランドの都内店舗に勤務。03年、ジュピターショップチャンネルに入社した。

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