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「ぼっちで不幸」わが子は言った 障害が生み出したクラスとの「溝」
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「障害児を差別するつもりはありません。しかし……」。障害がない子どもを持つ親の中には、障害児と一緒に学ぶ環境について悩む人がいます。障害児の親にとっても、障害がない子との間に起きるトラブルは一番の気がかりです。「きれいごとではない」現実から見えるのは、親たちが抱える「人に迷惑をかけたくない」けど「地域で一緒に学びたい」という大きな葛藤でした。
通常学級に通いたい子ども、特別支援学級をすすめる学校。その間で悩む親がいます。
通常学級に通う軽度の知的障害がある子どもを持つ関東地方の母親(47)から、編集部に一通の手紙が届きました。
学校から呼び出しがあり、4月に進級するタイミングで通常学級から特別支援学級に移った方が良いのではないかと提案を受けたという内容でした。
子どもの生活は自立しており、対人関係もほぼ問題がないことから、これまでずっと通常学級に通っていました。本人の希望でもありました。
ある日、母親が抱えていたある悩みを子どもに相談したところ、子どもが初めて本音を漏らしました。
「ぼっちは慣れないよ。どこかのグループに入りたくても入れない。ずっと私は不幸だよ」
通常学級に通うものの、ずっと友だちができないと告白されました。母親からの相談を受け、本音を話してくれたそうです。
「お母さん、そこが踏ん張り時だよ。私も学校ではずっと1人でしんどかったけど踏ん張った」
母親は驚くとともにショックでした。それまで、かぜ以外は休まず学校に行っていた子どもが、かわいそうに思えてきて、本当に通常学級に通わせていていいのかと考えるようになりました。
「自分の子どもの気持ちは分かります。しかし、子どもは残酷です。あからさまないじめはないものの、どの仲間にも入れてくれないという現実があります。これが親としても子どもとしても一番しんどいです」
この冬、学校から母親が呼び出され、校長、担任教師、特別支援学級の教師から「特別支援学級に移ってはどうですか」と提案を受けました。
これまで通常学級にと考えてきましたが、子どもの本音を知った後だったので、気持ちが揺れました。
「つらい思いをさせるのなら、特別支援学級の方がいいのかな」
母親がそう考えて子どもに尋ねてみると、周囲に「ばれたくない」ので通常学級にいたいと言いました。最終的には子どもの意見を尊重し、そのまま通常学級に通い、一部教科だけ支援を受けることにしたそうです。
同じ学校でも教師によって学習環境が変わることがあります。
「障害の有無にかかわらず、『人に迷惑をかけない』は基本ではないでしょうか?」
神奈川県の女性(50)はこう考えています。知的障害がある長女(20)は、当時暮らしていた岐阜県で、小学校の特別支援学級で学んだ後、中学と高校は特別支援学校に通いました。
購入したマイホームは、小学校の校門までの距離が50メートル。2階の窓から、学校の校門をくぐるのを見届けられるほどです。
変化があったのは、4年生に進級してからでした。3年生までは特別支援教育の知識がある教師が担任をしてくれていましたが、4、5年生の担任は、通常学級で教えていた教師が異動してきました。
ひらがなが書けなくなった、授業のプリントを持って帰らなくなった、生活上自立できていたこともできなくなった、こういうことが次々と起きました。
担任教師に尋ねると、こう言われたそうです。
「じっと座っていられないので、加配の先生と天気が良ければ校庭にいます」
別の日には、担任教師から突然電話があり、「お母さん、帰ってしまいました」と言われました。小学6年生になり、担任教師は交代しましたが、「このままでは学校に通わせない方がいいのかもしれない」と感じたほどです。
このように特別支援学級でも、評判の良い学校に入学すれば6年間安心というわけではありません。
「他傷行為をして、人に迷惑をかけてしまうことが一番怖かったです」
地域の小学校で一緒に学ぶ取り組みには、地域差があるものの、「交流」や「共同学習」という形で少しずつ進んでいます。一方、通常学級での学びや集団登校の際、多動の障害がある子どもが他の子どもをけがさせてしまったらどうするのか、突然道路に飛び出して事故にあったら誰が責任を取るのか、といった不安を親たちは感じています。
障害児の保護者も、大きく分けると、いくつかのタイプあると言う人がいます。
「障害児の親も考え方はそれぞれで、障害がある=どうせできない=放置(または学校が何とかしてくれると思っている)という親も少なくないのです。そういう親に限って『公平に』『権利がある』などと強く主張されます」
「きれいごとではないのです」
一方、障害がない子どもの親たちはどう考えているのでしょうか。
兵庫県内で学習塾を経営する小川文さん(47)には、小学生と中学生の子どもがいます。特別支援学級で学ぶ障害児のほか、障害とまでは言えないけれど「グレーゾーン」とされる子どもも地域や学校で見てきました。
「障害児とひとくくりにするのはよくありません。家庭ごとのあるべき姿こそ、一番大事な点だと思います」
障害を持つ子どもの親も、「心から悩んで今後を模索している親」と「障害児なんだから優先されて当たり前という親」がいると言います。小川さんは、前者の親子には寄り添えても、後者の親子には距離を感じてしまうという意見です。
学校に後者の親が多いほど、「ただ普通に子育てをして環境を整えてあげたいと思っている人たちの妨げになってしまうので、という気持ちになるのではないでしょうか」と問いかけます。
夏場の車での送迎や、他の子どもの教科書を破っても階段から引きづり落としても謝罪がないなどといったこと、つまり日常生活で起こったり感じたりすることの積み重ねが背後にあるからです。
「個人的には、子どもは子ども。障害児であろうとなかろうと、一個人として平等に尊重され、人間関係を築くべきだと思います」
「クレーゾーン」と呼ばれる同級生とトラブルになったという東京都の主婦(47)から、メールが届きました。小学生の息子が、この同級生から1年間で2回、殴られ、蹴られ、罵られたというものでした。教師の目の前で殴られ、廊下に張ってあった絵を破られたことがあったそうです。
「保護者の間で『グレーゾーン』と呼ばれている子がいます。授業中、大声で歌い騒ぐ、気に入らないと暴れて物を投げる、登下校は自分の気持ち次第……。多くの保護者は、この児童は情緒障害だろうという認識を持っていますが、その児童の保護者から明確な説明がないため、誰も対応ができないままです」
この児童の保護者からは電話でトラブルへの謝罪があったと言います。しかし、話し合いでは「学校や他の保護者の協力はいりません。放っておいて下さい」と言われてしまったそうです。後日、学校で行われた双方の保護者と学校側との3者面談も、物別れに終わりました。
「個性」と言われたそうです。
「私は障害児を差別するつもりはありません。しかし、差別が生まれる原因の一つに障害児を持つ保護者の対応もあるのではないかと思います。傷つくのはお互いです」
放課後、障害児に対して生活能力の向上のために必要な訓練や交流の場を提供する「放課後等デイサービス」が、各地に広がってきています。障害児の保護者の悩みも受け付けています。
山形県内にある放課後等デイサービスの事業所を経営する佐藤広明さん(38)は、こう指摘します。
「障害がある子どもたちが、スキルアップの訓練をしてがんばっています。けれど、正直、いくらがんばっても周りの理解が得られなければ、社会で生きていくのはかなりつらいと思います。障害のある子どもの成長50%、周りの理解50%の合計100%で、その人らしく暮らせるのではないかと思います」
地域で社会生活をしていくには、周囲の理解が不可欠だということです。その一方、全国どの地域でも同じように、障害がある子どもでも、通常学級で学ぶ小学校や交流する機会や頻度が多い小学校に就学できる選択肢が、平等にあるのかというと、そのような環境にはまだなっていません。
インクルーシブ教育については、「最初から無理という白旗をあげているのではないでしょうか」と指摘します。
特別支援学級に在籍し、通常学級と交流があるといっても、通常学級には「友だち」と呼べる人がおらず、特別支援学級にしか「友だち」がいないという子どもが多いと感じているからです。
「通常学級に1人でも友だちと呼べる同級生がいれば、学校生活は大きく変わると思います」
そんな子どもたちの社会の中で、放課後を過ごす場は、自宅や塾以外に「学童保育」と「放課後等デイサービス」があります。佐藤さんはいつもこんなことを思っているそうです。
「放課後等デイサービスが学童保育に吸収され、障害に関係なく、子どもたちを一緒にみられたら……」というかたちです。
「LGBT、外国人労働者、様々な障害、貧富……。今の社会は多様性に満ちあふれています。インクルーシブ教育は結果的に障害のある子どもだけではなく、障害のない子どもたちの心を成長させ、将来的には社会に出て必要になる多様性を認め合う力を早いうちから身につけることが可能になるのではないでしょうか」
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