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尾瀬に伸びた開発の〝魔の手〟 「栃木ルート」たどって見えたもの

女夫渕駐車場から登山道を歩いて奥鬼怒温泉郷に向かう=2025年8月18日、栃木県日光市、岡本智撮影
女夫渕駐車場から登山道を歩いて奥鬼怒温泉郷に向かう=2025年8月18日、栃木県日光市、岡本智撮影

童謡で「はるかな尾瀬~」と歌ったことのある人も多いのではないでしょうか。しかし、大阪出身の記者にとっては「遠い存在」でした。栃木・宇都宮に赴任したのをきっかけに「栃木ルート」をたどってみると、開発の「魔の手」から何度も守られてきた歴史があると知りました。(朝日新聞記者・岡本智)

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宇都宮に赴任「近くに尾瀬がある!」衝撃

記者のような関東にゆかりのない関西人のなかには、埼玉・群馬・栃木・茨城・福島の各県が地図でどこにあるのかよくわからない……という人が多いのではないでしょうか。

それでも、そのあたりに「尾瀬」という、ミズバショウが咲き誇る場所があることは知っていました。学校で「はるかな尾瀬~」と歌ったことがあるからです。

この春、宇都宮に赴任し、ふと地図を眺めていたときに衝撃を受けました。近くに尾瀬がある!

しかも尾瀬国立公園には、面積はたった3%ですが栃木県が含まれ、登山道もありそうです。それが今回の尾瀬取材のきっかけでした。

【もっと読む】尾瀬、あまり情報のないルートの景色とは 大阪出身の記者が見た秘境

山小屋3代目 直訴して「魔の手」の建設中止

栃木から尾瀬に向かう「栃木ルート」を調べるうちに、栃木から群馬につながる「奥鬼怒スーパー林道」なるものが反対運動をはねのけ、建設が強行されたことを知りました。

さらに尾瀬で、東京電力によるダム建設、群馬県などによる道路計画が持ち上がるたびに、人々が立ち上がり、なんとか食い止めた歴史を知った。

初めて訪れた尾瀬は、期待通りのすばらしい自然の宝庫でした。

ただ、未舗装の車道が途切れていたり、完全に通行止めになっていたりと、開発が進んだ痕跡がいくつか見られました。

【栃木ルート2日目】鬼怒沼を経由して尾瀬沼へ ぜいたくな静寂、夕暮れに変化する燧ケ岳

特に、尾瀬を南北に貫き、群馬、福島両県を結ぶはずだった「沼田檜枝岐線」は、群馬側は尾瀬沼からかなり手前の一ノ瀬のすぐ先で行き止まり。福島側は沼山峠でストップしていました。尾瀬沼に開発が迫る「魔の手」のように見えました。

尾瀬最古の山小屋「長蔵小屋」の3代目で故・平野長靖(ちょうせい)さんが、当時の環境庁長官に直訴し、1971年に建設中止を勝ち取った成果だといいます。

このため、福島県によると、福島と群馬は隣接する都道府県(沖縄県を除く)で唯一、車道がつながっていないとのこと。

尾瀬国立公園の北東に位置し、栃木・福島県境にそびえる田代山は、山頂全体が湿原となっている=2025年9月7日午前9時28分、福島県南会津町、岡本智撮影
尾瀬国立公園の北東に位置し、栃木・福島県境にそびえる田代山は、山頂全体が湿原となっている=2025年9月7日午前9時28分、福島県南会津町、岡本智撮影

長靖さんは、自然破壊を見過ごせない一方、山小屋を営む「矛盾」を心に抱えていたそうです。

しかし、現地に足を運び、世界に誇れる自然があることを知ってもらわなければ、尾瀬は人知れずダムの底に沈んでいたかもしれないし、現在の姿とはほど遠いものになっていたかもしれません。

さまざまな矛盾に苦しみながらも信念を貫き、自然を守った先人たちには感謝しかありません。

【栃木ルート3日目】長蔵小屋で迎えた朝、いざ尾瀬のシンボルへ 感じた栃木ルートの価値

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