連載
#95 「きょうも回してる?」
バケツが〝内蔵〟でいっぱい…膨らむガチャ、発想の発端は「低価格」
キタンクラブらしい「ギリギリの遊び心」
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#95 「きょうも回してる?」
キタンクラブらしい「ギリギリの遊び心」
くだらない、でもどこかクスっと笑えるようなガチャガチャにまたまた出会いました。
今回は、キタンクラブから発売された「水に入れると大きくふくらむ 人体模型フィギュアマスコット(以下、人体模型フィギュア)」を紹介します。
水に入れると膨らむ……。どういうこと?
よくわからないまま、ガチャガチャのカプセルを手に入れ、あけてみると、現れたのは手のひらサイズの「内臓」。
まるで理科室の棚に並んでいた人体模型のような雰囲気のフィギュアですが、このアイテムはただの「飾り」ではありません。
水に入れて放置すると、ぷるぷると柔らかく膨らみ、1週間ほどで倍以上のサイズに育つという驚きの「育成型ガチャガチャ」です。
キタンクラブは、以前からオリジナル商品の開発に定評があり、「くだらないけれど、思わずクスッと笑ってしまう」ユニークなアイテムを数多く生み出してきました。今回の人体模型フィギュアも、まさにキタンクラブならではの発想とセンスが詰まった一品と言えます。
この、不思議でちょっと不気味、それでいてクセになる魅力を持つ商品を担当したのが、鈴木博信さんです。
人体模型フィギュアの商品化のきっかけについて鈴木さんに尋ねると、「普段はまずアイディアから考えるのですが、今回は『どうやったら安く作れるか』という逆の視点から出発しました」。
近年、ガチャガチャの価格は原材料の値上がりなどで全体的に高騰しています。10年前は、100円や200円が当たり前だったのに対し、今では400円、500円や800円といった高価格帯の商品が増えてきました。もちろんその分クオリティは高まっていますが、鈴木さんは「もっと手軽に、もっと多くの人に遊んでもらいたい」という思いから、あえて300円という低価格で面白いものを作ることに挑戦したそうです。
コストを抑えるには、着色をしない、形状をシンプルにするなどの工夫が求められます。そんな中、鈴木さんが着目したのが、子どもの頃に遊んだ「水で大きくなる恐竜のおもちゃ」でした。塗装が不要で、インパクトもあり、しかも育てる楽しさがある。この体験を、ガチャガチャに応用できないかと考えたのです。
問題は「中身」です。恐竜や怪獣では、ターゲットである大人には物足りなく映る可能性があります。鈴木さんは「気持ち悪いけど見たくなる、触ってみたくなる」ような題材をリストアップしていきました。カエルの卵、ナマコ、イソギンチャク…… そして最終的に企画が採用されたのが、「人体模型」だったのです。
理科室の隅に置かれていたあの人体模型は、無機質でちょっと不気味なのに、なぜか強く印象に残っている人も多いはず。鈴木さんは、そんな記憶を思い起こさせる存在こそ、大人の心に刺さるのではないかと考えました。
ラインナップは脳、心臓、胃、肺の4部位に、それぞれ赤、青、桃の3色で全12種類。この色展開にも理由があるそう。
鈴木さんは「着色ができない分、成型色で動脈や静脈、筋肉、皮膚といったイメージを表現したかった」。たとえば青い心臓や桃色の肺など、現実には存在しない色合いでも、「なんとなくサイエンスっぽさ」が感じられる工夫がなされています。
最大の魅力は、「買って終わり」ではないところ。
水に入れて数日から1週間ほどかけて、じわじわと膨らんでいくという「育成体験」が用意されているのです。1日ではほとんど変化は見られませんが、1週間も経つと手のひらサイズだったフィギュアがむっちりと大きくなり、触るとぶよぶよとした独特の質感を味わえます。少しホラーっぽさも感じますが、その成長の過程を見守る楽しさは、まさに育てるガチャガチャといった趣です。
鈴木さんがバケツに複数のサンプルを入れたところ、数日後にはバケツが内臓でいっぱいになってしまい、キタンクラブのスタッフも驚いたそうです。
形が崩れないかどうかについても、テストを繰り返したとのことでした。
気持ち悪すぎるとお店(問屋や専門店)が仕入れてくれない。可愛すぎると大人には響かない。この中間地点を狙うバランス感覚が、キタンクラブらしい「ギリギリの遊び心」と言えるかもしれません。
実際に商品を手にしてみると、表面はぷにぷに、ぬめっとした質感で、思わず何度も触ってしまいます。飾ってもよし、触ってもよし、誰かを驚かせる小道具としても使えます。たとえば、今年はもう終わってしまいましたがハロウィンや文化祭、ちょっとしたイベントで、心臓を手渡して驚かせてみる、なんて使い方もできそうです。瓶に入れてホルマリン漬け風にして飾れば、部屋のアクセントにもなります。
こうしたユニークな発想の背景には、「買った後の余韻を楽しんでほしい」という鈴木さんの哲学がありました。子どものころ、ガチャのカプセルを開けるときのドキドキ感。それを、商品を手に入れた後の数日間に引き延ばして、さらに楽しい体験に変える。そんな狙いが人体模型フィギュアには込められています。
300円という価格の中に、見て楽しい、育てて楽しい、触って楽しいという三重の仕掛けが詰め込まれている人体模型フィギュア。そこには、鈴木さんの情熱と遊び心が、ぷるぷると水の中で膨らんでいるように感じられました。
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