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ちょいダサの「裾すぼまった」ジャージ 主流だったのに…一体どこへ
田舎・都会を問わずに小中学校で着る体育着、通称ジャージ。長ズボンの裾(すそ)、キュッとすぼまっていませんでしたか? そして、そのことを少しだけ恥ずかしく思ったことはなかったでしょうか。どんなお金持ち校でも平等のダサさ…。なぜあの微妙なフォルムが一般的だったのかをメーカーに聞きました。
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田舎・都会を問わずに小中学校で着る体育着、通称ジャージ。長ズボンの裾(すそ)、キュッとすぼまっていませんでしたか? そして、そのことを少しだけ恥ずかしく思ったことはなかったでしょうか。どんなお金持ち校でも平等のダサさ…。なぜあの微妙なフォルムが一般的だったのかをメーカーに聞きました。
田舎・都会を問わずに小中学校で着る体育着、通称ジャージ。長ズボンの裾(すそ)、キュッとすぼまっていませんでしたか? そして、そのことを少しだけ恥ずかしく思ったことはなかったでしょうか。どんなお金持ち校でも平等のダサさ…。なぜあの微妙なフォルムが一般的だったのかをメーカーに聞きました。さらに、街中で10代に尋ねるとアラサー記者には驚きのジャージ事情が明らかになりました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
27歳の記者。地元の福島市で中学生だった時、周りの学校のジャージの長ズボンの裾はすぼまっていまいました。学校で禁止されていたとのうわさもありますが、すぼまっている部分を切った「切りパン」やまくり上げた「7分パン」がはやっていました。呼び名は適当にこちらで考えました。関係ありませんが、今時はズボンと言わないのでしょうか。長パンツ?10代の言葉が分かりません。
そんな中、私の学校だけはストレートタイプの長ズボン。流行の最先端だと思っていました。他の学校でも購入する生徒がいたほどです。
あの頃は、ストレートタイプの長ズボンを腰まで下げて、学区内のSATY(現イオン)に繰り出すのがトレンドでした。今考えると格好良くないのですが、ちょっとカスタマイズして、街(=SATY)に繰り出しただけで「かっけー」となっていた現象、本当に不思議です。
それでも、うちの学校のジャージを買いに来る生徒が後を絶たなかったためなのか、弟の時代にはデザインが変更され、よりダサくなっていました。
裾への思い、全国共通だろう。よし、街中で声を聞いて思いを共有したい。そう考えましたが、どこにでもジャージ姿の学生がいる福島と違って、東京ではどこを歩いて見回しても制服姿の学生しかいません。
話を聞こうと向かったのは、東京都足立区にある東武伊勢崎線・竹ノ塚駅。同僚の野口みな子記者(29)の助けを借りて、不審者に見られないよう細心の注意を払いました。
港区の私立中学校からの帰りだという河内諒人さん(15)は「僕らの学年は緑色のジャージで、下はラインが入っています。裾?別にすぼまってないですね。すぼまっているのがダサいというよりも、ファッションを意識してるんでジャージはそもそも部活でしか着ないです」と大人びた返答をしてくれました。
野口記者の地元・岐阜では10年以上前、ロンT(長袖のTシャツ)の上から半袖を着る、もしくはそれらが最初からセットになっているレイヤードスタイル(重ね着)が最先端だったとのこと。それに触発されたのか、女子が制服のスカートの下にジャージをはくのも流行していました。その現象について問うと、河内さんは「はいている人見たことないです…」と困り顔。
もう1人、答えてくれたのは榎本理巴(りは)さん(16)。豊島区の高校に通う1年生ですが、中学校は足立区内。「裾ですか、普通の太さでしたね。私はくすんだ赤という色が特に許せなかったです。本当に色がダサい。校則が厳しくて、スカートの下にハーフパンツを見えないようにはくくらいはしていましたが、そもそも長い下を着る機会があまりなかったような…」。すぼまったジャージは絶滅危惧種になっているようです。
取材で訪れた石川県小松市でも聞いてみると、会社員男性(32)は「そういえば、中学校の時は裾がキュッとなっていた気がします。今思うと格好良くはないですが、当時は周りも全員同じのを着ていたので、そこまで感じませんでした。それよりもワックスをどうやって学校につけていくかばかり考えていましたね」。たしかに、髪形も中学生時代は(ほとんど変わらないのに)みんな異様にいじっていました。
制服メーカーの「トンボ」(本社・岡山市)に話を聞きました。スポーツウェア専門の工場を1971年に新設しており、約半世紀にわたって体育着の製造と販売をしています。
事業開発推進部の佐藤望さんによると、裾がすぼまっているタイプは「1980~90年代の流行のデザインです。体にフィットしたシルエットの方が運動性に優れています」。記者が生まれたのは91年。小学校は98年、中学校は2004年に入学しました。たしかに裾がすぼまっていなかったのは自分の小中学校だけだった気がします。あくまで狭い世界の話ですが。
そして、佐藤さんは「ここ20年はストレート型が主流です」。
デザインはどのように選ばれるのでしょうか。デザインはカタログに掲載されている定番と、学校ごとのオーダーメイドがあるといいます。「学校が望む限り、何年でも同じものを供給しています」
他にもこだわりとして「3年間の着用にも耐える強度や肌触りの良い風合いにしています。反射パーツで登下校の安全性にも配慮です」。記者としては、あの反射する部分が微妙だなと思っていた時期もありましたが、今思えば必要なものでした。
そもそも体育着とジャージの違いって何なのでしょうか。記者の普段の会話では、体育着でなく体操着と呼んでいた気がします。佐藤さんは「ジャージは通称です。会話では使っていますが、正式名称としては体育着になります」と話します。
さらに「これまではニット素材(いわゆるジャージ素材)が主流でしたが、2年前からピステスタイルのトレーニングウェアを展開し、好評です」と佐藤さんは教えてくれました。テレビなどで見るアスリートの格好が導入されていたとは驚きです。
ピステスタイルは、サッカーやハンドボールなどの競技者がよく着ています。「シャカシャカ」とした素材が特長で、記者のやっていたハンドボールで着ている人は強そうな感じを醸し出していました。トンボなどによると「ジャージ素材は通気性に富んでいるので、風に弱い。身体を温めるまで時間がかかります」といった理由から、防風性に優れたピステ素材が注目されています。
ただ、キーパーの記者の場合、スライディングするとひざの部分が破れやすいのが悩みです。
変遷を見ていきます。70年代にはカラーのジャージが登場し、パンツに足かけ用のゴムがついたタイプもありました。白のラインが入ったものや無地といった地味目なものが多かったようです。
80年代になると裾すぼまり族の全盛です。ファスナーつきのものが多く、上にはワンポイントで色が入っています。
90年代、派手なものが増えました。これはJリーグの影響も考えられるのだそう。裾すぼまりは続きつつ、ファスナーがないタイプも登場し始めました。記者が一番見慣れたタイプのものです。
2000年代にはシンプル回帰です。下がストレートのものが多くなります。ブランド体育着の採用が増加したり、前述のピステタイプが出てきたりと多様な展開を見せています。
ストレッチ性や吸汗、防風などの機能も徐々に強化されているようです。最近では保温性も重視されているとか。夏場の体育着も変わっているようですが、その変遷は、また別の機会に取り上げられればと思います。
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