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連載

#7 平成B面史

AIRWALKのシャカシャカパンツ「まだ本気出していない感」の呪縛

あの頃みんな持っていた、ナイロン素材のシャカシャカパンツ。

AIRWALKのロゴ
AIRWALKのロゴ 出典: AIRWALK事務局提供

目次

 シャカシャカ…シャカシャカ……。歩く度にこすれる音が特徴的な、七分丈のナイロン素材のパンツ。そのはきやすさや90年代の「ストリート系」の流行から、よく身につけていたという人も多いのではないでしょうか。小学生だった私が、特に目にしていたのが「AIRWALK」です。あの七分丈が醸し出す「まだ本気を出していない」感。それを本気で求めた酸っぱい記憶。そんな「AIRWALK」、今はどうなっているのか。「横乗り系」ファッションの栄枯盛衰を追いました。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子=平成元年・1989年生まれ)

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あの頃、よくはいていた「シャカシャカパンツ」

 筆者(29)が小学生の頃、よくはいていたのがAIRWALKの七分丈パンツ。グレーのシャカシャカ素材で、Tシャツに合わせるだけで”様”になるので、すりきれるくらいはいていました。

 なぜ急にそんなことを言い出したかというと、テレビでお笑いトリオ「ロバート」のコント、「ナイロンDJ」を見たからでした。秋山竜次さんが「ナイロンDJ」と称し、DJのスクラッチのようにナイロン素材の上着をこする、というものです。その音を聴いた途端、走馬灯のように過去の思い出とあの七分丈パンツが脳内をかけめぐったのです。

ロバートの3人。右から馬場裕之、秋山竜次、山本博=2014年3月
ロバートの3人。右から馬場裕之、秋山竜次、山本博=2014年3月 出典: 朝日新聞

 私の心を奪ったAIRWALKのこと、もっと知りたい! 気付くと、AIRWALKを日本で展開する伊藤忠商事の会社に来ていました。

 「AIRWALK」は1986年にアメリカ・カリフォルニアで生まれたブランドです。スケートボード用の靴を開発・販売したことがはじまりで、ブランド名はスケーターの技の名前からとっているそうです。Tシャツやパンツをよく目にしていたので、靴のブランドだったというのは意外でした。

 スケートボードの有名選手がAIRWALKの靴をはいたことで、彼らにあこがれる若者たちの間で広がっていきました。またスケートボードに限らず、「横乗り系」と呼ばれるサーフィンやスノーボードなどのスポーツブランドとして、支持されるようになったそうです。

 日本で伊藤忠商事がアパレルブランドとして展開されたのは、1997年のことでした。中心になったのは、服やアクセサリー。当時、靴は取り扱っていなかったそうです。

1990年代初頭に発売された「ONE」の復刻商品
1990年代初頭に発売された「ONE」の復刻商品 出典: AIRWALK事務局提供

かっこいい「ダボッと」感

 伊藤忠商事・繊維カンパニーの西村宣浩さんは、「当時、日本でも横乗り系やストリート系が流行り始めていたことがマッチし、アウトローなイメージのかっこいいアメリカ文化にあこがれる10代の若者たちに浸透していった」と振り返ります。

伊藤忠商事・繊維カンパニーの西村宣浩さん
伊藤忠商事・繊維カンパニーの西村宣浩さん

 当時よく売れていたというのが、ダウンジャケットやダボッと着る大きいサイズのパーカーやトレーナー。そして、我らが「ナイロン素材のパンツ」です。

 なぜ、どうして、ナイロン素材だったのでしょうか。「当時ナイロンが特別新しくて、珍しい素材ではなかった」と西村さんは話します。

 「スポーツと言えばジャージ。でも、学校のポリエステルや綿素材の運動着はダサいと感じていた層にささったのではないでしょうか。野球などの、いわゆる『主流』じゃないカルチャーを求めていた人たちでしょう」

AIRWALKで過去に販売されていたナイロンのカーゴパンツ
AIRWALKで過去に販売されていたナイロンのカーゴパンツ 出典: AIRWALK事務局提供

 大きめのサイズをゆるく着るのがかっこいいから、ハーフパンツではなく、膝が隠れる七分丈が支持されたのでは、と分析します。

 確かに、「腰パン」が流行り始めたのも90年代後半頃でしょうか。服をあえて着崩すことで、「まだ本気を出していない」感じが出て、かっこいいと思っていました。本当はめちゃくちゃ本気出してるのに。

AIRWALKのダボッとサイズのパーカー
AIRWALKのダボッとサイズのパーカー 出典: AIRWALK事務局提供

ブランドの「原点」に立ち返る

 では、現在のAIRWALKはどうなっているのでしょうか。

 2000年代前半は好調に売り上げを伸ばしていきましたが、次第に「ファッション」としての横乗り系の流行が落ち着いていきました。大衆に広く受け入れられたAIRWALKですが、日本のブランドオーナーとして更なる魅力を広げていくことが重要でした。

 「ブランドのコアの部分をしっかり押さえて、クオリティを高めていく必要があった」という西村さん。2015年からは、AIRWALKの「原点」である靴の展開も始めます。90年代後半に、AIRWALKに夢中になった30代前後の層をターゲットに、セレクトショップなどとのコラボレーションをすすめているそうです。

1990年代初頭に発売された「ONE」の復刻商品で、「24karats」とのコラボレーションモデル
1990年代初頭に発売された「ONE」の復刻商品で、「24karats」とのコラボレーションモデル 出典: AIRWALK事務局提供

 スポーツの振興などアスリートへのサポートも続けており、スノーボード日本代表チームのオフィシャルサプライヤーに。平昌オリンピックのハーフパイプで銀メダルを獲得した平野歩夢選手が身につけていたのが、AIRWALKのユニフォームでした。

AIRWALKがオフィシャルサプライヤーを務めるスノーボード日本代表チームの選手たち
AIRWALKがオフィシャルサプライヤーを務めるスノーボード日本代表チームの選手たち 出典: AIRWALK事務局提供

 そしてここに来て、追い風が吹いています。10~20代の間で、90年代のファッションやカルチャーに注目が集まっているのです。DA PUMPの「U.S.A.」の歌詞よろしく、「かっこいいアメリカ」文化のリバイバルです。

 西村さんは「AIRWALKとしても、ブランドの魅力を広めるチャンス」と期待も大きいです。AIRWALKの過去のシューズを復刻版として再販も始めており、「当時のコンセプトの発信に努めたい」と話しています。

AIRWALKに影響を受けすぎた私

 そういえば、私はスポーツをほとんどしないのですが、パーカーは大きめサイズを選びがち、パンツは裾を緩ませがち……。西村さんの話を聞きながら、「ダボッとした服かっこいい説」が今でも自分に影響していることに気付きました。それに、ビビって焦ってばっかりでも、「本気を出してない感」をかもし出したいのは今も変わりません。思ったより、大人になれないものですね。

 器の小さな自分を、大きく見せてくれたシャカシャカパンツ。体は大きくなったけど、心ではまだまだお世話になりそうです。

 

withnewsでは、平成が終わりを迎えるにあたって、平成を象徴しているのに普段は忘れられがちなアイテムや出来事を「平成B面史」と名付けました。みなさんの中で「そういえば……」とひらめいたものをハッシュタグ「#平成B面」をつけてツイートしてくれませんか? 編集部が保存に向けた取材にかかります。

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