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サドル低すぎ!福井の高校生「謎ルール」 おしゃれ?悪ぶってる?
福井県に転勤して1年半。県内各地をうろうろしていると、気になって仕方ないことがあります。自転車のサドルの「低さ」です。上げ方知らないの?っていうくらい、若者、特に男子高校生は、買ったままの一番低い位置で乗っている人がほとんどです。どうして? 乗りにくくない? ということで、調べてみました。(朝日新聞福井総局・影山遼)
高校生が集まる場所といえば、まずはJR福井駅です。今年北陸初出店という「バーガーキング」もできました。11月のある朝、7~8時の通学ラッシュの時間帯に、1人で調査開始です。
ターゲットは、駅の駐輪場で自転車に乗って学校に向かう高校生たち。中学生との区別は、ヘルメットをかぶっていない、ちょっとあか抜けているように見えるという2点で行うことにしました。
こちらはスーツにコート、手にはメモ用のボード。怪しい人に思われないことを祈るばかりです。
女子はもともとの身長もあって、サドルが一番低くても違和感はありません。けれど、男子はやっぱり謎。見るからに足が余っています。
1時間で数えた高校生の自転車が146台。男子は104台で、うち85台が、サドルを一番低くしているように見えました。80%ちょいですね。多い! サドル低い族と呼ぶことにします。
思い出すのは記者の地元・福島県です。いま25歳の自分が高校生の頃も、サドルを下げた男子はいたものの、多くは悪ぶりたい人でした。
自転車を改造してハンドルをカマキリのようにしたり(カマキリハンドル=通称カマハン)、荷台の後ろ部分をはね上げたりするのがセット。両手を高く挙げ、腰は低く据えたヤンキースタイルで国道を飛ばすのです。高く上げた方が手が疲れにくいというのが彼らの言い分でした。
福井での低いサドルとハンドルの関係を見てみます。85台のサドル低い族のうち、荒ぶる「カマチャリ」はわずか6台。朝の登校時間を守る不良がいなかったのかもしれませんが、少ないです。
一番多かったのが通常のY型ハンドルで57台、棒状のフラット型が22台でした。サドル低い×ハンドルそのままが標準といってよいでしょう。
後ろの車輪についている、巻き込み防止のドレスガードも見てみました。記者の地元では、買ったら外すのが鉄則で、つけている人は「お坊ちゃん」扱いだった気が。
福井の結果はというと、サドル低い族で、つけていたのは0台。一方、サドル高い族では、19台のうち3台が装着していました。ただし別な日に、低い族でガードをつけている人も見たので、議論の余地が残ります。
続いて低いサドルと、ズボンを尻まで下げる「腰パン」の関係です。まず、サドル高い族では3分の1がハイウエストで、足元から靴下がのぞくほど持ち上げています。
一方、サドル低い族はどうかというと、ハイウエストはゼロ。逆にお尻が見えるほどの腰パンもおらず、大体がちょい腰パンといった感じでした。
ここまでの結果だと、サドル低い族は、真面目には見られたくないけど、悪ぶっているというわけでもない……。よく分からなくなってきたので、別な日の夕方、学校帰りの高校生に直接、話を聞いてみました。
【福井商高1年・男子】
――なんで上げないの?
え?何がですか?あーサドル。そもそも上げるという発想がなかったですね。
【身長179センチの北陸高3年・男子】
――足余ってるように見えるけど大丈夫?
上げてるとダサくないすか?見た目第一なんで、今まで上げたことないです。
――何がダサいの?
ケツが上がって見えるんすよ。足短く見えちゃう気がするんで。周りの友達も上げてる人いないですよ。
――逆に上げてる人ってどんなイメージ?
うちの高校だと「腰パン」せずに、パンツ上げる人がサドルも上げますね。
カップルに聞きました。
【福井工大福井高3年・男子】
――低い方がモテるの?
別にそんなことないですけど、低い方がまだおしゃれな感じ。中にはサドルを上げるだけじゃなく、向きを逆にして荷台の方に先を向けてる人もいますよ。
――まじですか…。
理解はできないですがね。
【福井工大福井高3年・女子】
――ハンドルとの関係はどう?
ハンドル高くしてる人で、サドル高い人は見たことない……。バイクっぽい感じが格好良いんじゃ?
ここまで聞いても乗りにくそうだという疑問は消えません。
【先ほどの北陸高3年・男子】
――結局、乗りにくいんじゃ…?
こぎにくさはそこまで感じないですけどね。坂で走りにくいとか、急ぐときは立ちこぎ。気合っす。
周りの空気に合わせる高校生たち。部活で自転車に全力を傾けている人はどうでしょう。自転車競技でジュニア日本代表に選ばれた脇本勇希君(科学技術高3年)に聞いてみました。
脇本君の兄・雄太さん(27)は、リオデジャネイロ五輪に自転車ケイリンで出場しています。
脇本君が通学に使っているのは、普通のママチャリ。サドルはかなり高く、「言われてみると、周りは低いですかね……。そんなこと気にしたことなかったです。自分に適した位置にしてます。乗りやすいんで」。
駅前の調査で、おじさん世代の自転車は46台チェックしましたが、サドルの高い人が67%で、ミニチャリやスポーツサイクルの人も多かったです。
通勤中の会社員男性(52)は、これでもかというくらいサドルを上げて、止まった場合につま先立ちするくらいの位置に。
「これが私たち世代の標準じゃない? 力をしっかりと使ってこげる気がするし。若者は長い距離を乗る場合に、大変そう」
専門家にも聞いてみました。
福井の中心街にある「藤田サイクル」の男性店員(22)は、祖父の跡を継いでこの道に。
「私が高校生の頃は、サドル低くてハンドル高い人、周りにたくさんいました。アメリカのバイクっぽくて格好良いんでしょう」と分析。
「最近はハンドル高い人が減ってきた気もします。時代は変わってきてるのかもしれないですね」
ということは、元々は荒ぶる「カマハン×サドル低い族」が主流で、ハンドルだけ下ろして、ヤンキー度が軟化してきたのが今ということでしょうか。
ちなみに、サドルが低い自転車って、危なくないんでしょうか?
「サドルが低いと走りにくい! ハンドルを高くすると、いざという時にハンドルが切りにくく、危険回避に不利です。ああいう自転車に乗りたい気持ちは分からなくもないですが、安全面を考えると少し危険です」と忠告してくれました。
「うちのじいちゃんは、ああいう自転車が嫌いで、店に来たら全部適正な状態にしてましたね」
どれくらいがベストな状態なのですか?
「サドルだったら、とまったときに両足のかかとが地面からちょっと浮くくらいです。ハンドルは腕を伸ばしてちょっとゆとりがあるくらいにしましょう」
男子高校生にとって、自己主張できるアイテムは自転車とスニーカーくらい。年代による美意識の差は大きな気がしました。
福井や福島以外でも、若者ならばサドルは低いのか……。それとも田舎と都会の差?気になることが増えました。
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