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「障害は武器だ」 発達障害の大学生、もがきながら前へ
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障害への理解を深めるイベントを開催している団体「Ledesone」の代表で大学生のTenさん(20、大阪府在住)が、発達障害があることを告げられたのは小学生の時でした。とっさに漢字を書くことができなかったり、衝動的に感情を爆発させてしまったりする自分に感じる生きづらさ。それでも、前を向こうと模索を続けています。
左右の目印は右腕にする腕時計。とっさに漢字が書けず、授業中に配布されその場で提出が必要なものはひらがなだらけ……。Tenさんは、幼い頃から「みんなができることが、なぜ自分はできないんだろう」と悩んでいました。
理由は特に告げられず、小学3年生で特別支援学級のある学校に転校。しかし、周囲に溶け込めない、クラスメートから悪口を言われる、などの悩みを抱え、教室の窓から飛び降りようとしたこともありました。そのときは先生に制止され事なきを得ましたが、この一件後、母親から「学習障害がある」と知らされました。「いま思えば、このとき、自分が周りと違うことに納得でき、少し落ち着いた」。
中学進学後も、周囲とうまくなじめず陰口を言われるなどのいじめを受けましたが、友人や、相談に乗ってくれる教師と出会うこともできました。
文字を書くことが苦手なTenさんのため、友人のノートをコピーさせてもらえるよう学校に掛け合ってくれた母親、じっくり話を聞いてくれた友人……「多くの人に支えられながら生きてきたんだと思います」
高校2年生のとき、大学のAO入試に必要だったため、視覚障害者の外出を支援する同行援護従事者の資格を取得しました。当事者の話を聞くうちに、自分の障害についてもはっきり自覚するようになったといいます。
「それまで『障害がある』という事実は理解していたけど、どのようなもので、どうしたらいいのかなんて考えたことがなかった」と話すTenさん。その頃から「障害は武器だ」を自分のモットーにするようになりました。
その言葉の意味についてTenさんは語ります。
「障害イコールなにもできないと思われがちなところがあると思います。でも、僕は、ADHDの特性である『多動』があるからこそいろんな人に会いにいける、ディスレクシアという字を書きにくい症状があるからこそ、文章を書くときにいかに自分が書きやすい文章にできるか考えることができるし、障害がなかったら同行援護従事者の資格をとっても、障害について人生が変わるほどの興味を持つことはなかった」
「だから僕は、障害は様々な可能性を生み出す武器だと思うんです」
ただ、全てがうまくいっているわけではありません。自分の思い通りにいかないと、抑えきれない怒りや悲しみを友人たちにぶつけてしまうこともあります。「どうすればコミュニケーションをうまくとれるのかわからなくて、しんどい」。自分が嫌いになってしまいそうなこともあるといいます。
Tenさんはそんな日々を、「障害は武器だ」という言葉と共にもがいています。「無理やりにでも『こうありたい』という言葉で、自分に向き合いやすくし、前を向こうとしている面もあるのかもしれません」。
現在は、アルバイトで障害者の支援をしたり、Tenの名前で障害に関する考えをネットで発信したりしています。
代表をつとめるLedesoneでは、「障害者の可能性を広げられるような活動をしたい」とTenさん。幼い頃から物作りに興味があり、アイデアを形にすることに関心があります。大学でも、医療福祉の現場で活躍するロボット開発など学ぶ学部に在籍していて、来春には発達障害当事者の「集中力が続かない/続きすぎる」、「管理能力が低い」などの特徴をエンジニアと共有し、その特徴を解決するツールを考えるイベントを企画しています。
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