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#106 夜廻り猫

「中身は育てられなかった」 30代息子の〝子育て卒業〟 夜廻り猫

社会のことに関心を持ってもらおうと、息子に精いっぱい話しかけてきた母親ですが…
社会のことに関心を持ってもらおうと、息子に精いっぱい話しかけてきた母親ですが… 出典: 夜廻り猫

息子に社会問題に関心を持ってほしくて「このくらいの世間話、付き合いなさいよ」と言ったら、「チャットGPTにしゃべれば」と言われてしまい……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、SNSで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、〝子育て卒業〟と語る女性のエピソードです。

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「埋め合わせしたくて子育てしていたのかも」

食卓を囲む、母親と息子。母親が「お隣の解体工事、白人系の人たちだった。どこの国から来たんだろう」と口にすると、息子は「さあ……オーストラリアとか?」と答えます。

母は「オーストラリアの人が日本に出稼ぎに来ると思う!?」と仰天。

それでも「わかったわかった」とさして興味がなさそうな息子のようすに、「これ面白いから見よう」と、世界中を旅する人のYouTubeチャンネルを勧めます。

しかし息子は「ごちそうさま」と席を立ってしまいます。母が「世間話、これくらい付き合いなさいよ」と言うと、「チャットGPTにしゃべれば」と返されてしまうのでした。

夜、猫の遠藤平蔵が街を回っていると、涙の匂いに気づきました。母親は、子猫の重郎にミルクを用意しながら、これまでを振り返ります。

「母子家庭で昼夜働いて、宿題も見てやらなかった。息子の学費は稼いだけれど、中身は育てられなかった…」と肩を落とします。

「埋め合わせしたくて、息子が30過ぎても子育てしてたのかも。でももう終わり、出て行かせたの」と語る母。

「遅くなったけど、子育て卒業」と言う母親に、遠藤は「おつかれさま」と伝えるのでした。

「いつの間にか分かっている」は、自分にはない

作者の深谷かほるさんは、自身の中学時代の思い出を振り返りながら描いたそうです。

1年生の最初の社会の時間、先生が紙を配って、深谷さんたち生徒に「何も見ずに日本地図を描きなさい」と言いました。

深谷さんは「えー!?どんなんだったっけ……」と思いながら、間違いだらけの地図を提出したそうです。

卒業間近になって、同じ先生がまた紙を配って「何も見ずに日本地図を描きなさい」と指示しました。

みんながそれぞれを描き終わったところで、先生は入学時に描いた地図を配ったのだそうです。

「先生は、笑って『進歩したっぺ』とおっしゃって、みんな盛り上がったんですが……私はほとんど進歩がなく、函館も下北半島もない調子でした」

「中学1年生と違わない中学3年生……。『いつの間にか分かっている』ということは自分にはない、と心に刻みました」と言います。

「そのせいか、今もわからないことは気になります。米価が倍になる理由がわからない、憲法を変えることのよさがわからない。日々、新聞を読むたび、分からないことが分かってくるぞ、というのが嬉しいのです」

【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。

     ◇

深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本11巻(講談社)が2024年12月23日に発売。講談社「コミックDAYS 編集部ブログ」で月・金曜夜に連載中。スピンオフ「居酒屋ワカル」は講談社「コクリコ」で連載した単行本が11月22日に発売。

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