連載
#153 鈴木旭の芸人WATCH
Netflix『罵倒村』1位 佐久間宣行がヒット作を連発する理由
人生の恥部をさらけ出し、全身で向き合う芸人たち

連載
#153 鈴木旭の芸人WATCH
人生の恥部をさらけ出し、全身で向き合う芸人たち
5月13日から配信を開始し、すぐに日本のNetflix週間ランキング1位を獲得したドラマ型バラエティー番組『罵倒村』。企画演出・プロデュースを担当する佐久間宣行は、なぜヒット作を連発することができるのか。番組の見どころを追いながら、佐久間が手掛ける作品の魅力を考える。(ライター・鈴木旭)
※以下、ネタバレを含みます。
「芸人たちを乗せたロケバスがある場所へ向かっている……」。『罵倒村』は、そんなナレーションからスタートする。
この村に迷い込んだのは、アンジャッシュ・渡部建、錦鯉・渡辺隆、シソンヌ・長谷川忍、ダイアン・津田篤宏、ニューヨーク・屋敷裕政、ぱーてぃーちゃん・すがちゃん最高No.1、きしたかの・高野正成の7名。Netflixの人気番組『トークサバイバー!』のスピンオフ企画だと聞かされてやってきた、という導入がいかにも昨今のバラエティーらしい。
彼らをけん引するのは、ルポライター役の笠松将。〝罵倒する者の挑発に乗り、怒ってしまった時点で即脱落〟というシステムを端的に説明し、ドラマらしい緊張感とバラエティーの緩さを織り交ぜながら、村長(古田新太)の家などキーとなるスポットへと導いていく。
序盤で語られる罵倒村のあらましはこうだ。結界が何者かによって破壊され、〝オヤユビ様〟の怨念が解き放たれた。オヤユビ様に呪われると〝腐り人〟となり、生きている者を手当たり次第に攻撃するようになってしまう。その呪いを封印するためには、村長が所有するもの以外に3つの呪具を集めなくてはならない。
その役割を果たすべく今回のメンバーが罵倒村を巡るのだが、早い段階から村人たちの罵詈雑言に感情を揺さぶられる者が現れてしまう。
まずは、「ぶっかー」ばかりを口にする謎の男(TKO・木本武宏)を引き連れてやってきた占い師と思しき女(平田敦子)が、渡部に「不貞した男。どれだけ謝罪しても地上波復帰できず」、津田に「婿養子なりし男、ドッキリ仕事しかこず」、すがちゃんに「特になし。マジで何もなし!」などと参加メンバーたちを次々と〝口撃〟していく。
その後やってきた村人たちの挑発に、「うるせぇよ!」などと怒りを爆発させた高野が即脱落。道すがら子役で活躍する永尾柚乃に「(テレビに)出てるだけ芸人」「唯一の代表作はM-1(グランプリ)の『最悪や』だよね?」とイジられ、村長が家で飼っている腐り人(とろサーモン・久保田かずのぶ)から「(イジるネタが少ないため)もっと事件起こせ、問題起こせ!」と言われて声を上げた屋敷も早々に脱落した。
程なく、彼らは腐り人たちに悪臭漂う泥の桶に投げ込まれ、連れ去られてしまう。ツッコミばかり集められたのは、条件反射で思わず言い返してしまう習性が狙いだったと想像される。
各所で辱めを受けながら呪具をゲットし、キングコング・西野亮廣まで仲間に加わって呪いを封印すべく参加メンバーたちは奮闘する。
呪具がある場所への移動中にも障壁はあり、いずれのポイントでも〝ドM〟を自称する渡辺と〝風船爆破男〟こと渡部の活躍が目立っていく。人生の恥部をさらけ出し、全身で『罵倒村』に向き合う姿は、「どこまでを見せればエンタメとして成立するのか」という駆け引きの戦いのようで妙な臨場感があった。
クライマックスは、最後の呪具である聖剣を引き抜くシーンだ。残ったメンバーが、恥やプライドを捨てて聖剣を引き抜こうとするも一向に動かない。そんな中、最後の最後にフィニッシュを決めたのは――。
本作の企画演出・プロデュースを手掛けるのは、元テレビ東京のプロデューサーで数々の話題作を世に送り出してきた佐久間宣行だ。配信間もなく日本のNetflix週間ランキングで1位を獲得。現在も首位をキープしている。
佐久間はエピソードトークの面白さを競い合う前述の『トークサバイバー!』シリーズ、星野源とオードリー・若林正恭によるトークバラエティー『LIGHTHOUSE』とNetflixで制作した作品を軒並みヒットさせてきた。その高い信頼度は、どこからくるのだろうか。
そもそも『罵倒村』の元ネタは、佐久間のYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』から生まれている。
佐久間とみりちゃむ(大木美里亜)が口ゲンカで張り合った動画「第1回口ゲンカ最強女子オーディション」(2021年11月17日配信)が注目を浴び、その後も「罵倒大喜利」や「罵倒食レポ」といった派生企画が人気を博した。
昨年5月には、同チャンネル内で大型ロケによる3話構成の動画「罵倒村~もしも日本に住民全員が罵倒してくる村があったら~」を公開。総再生回数1500万回超えを記録し、今回は満を持してNetflixで制作・配信された形だ。
バラエティーの大型ロケと言えば、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)から誕生した「笑ってはいけないシリーズ」や『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)の壮大なドッキリ企画が思い浮かぶ。こうしたバラエティーのノウハウを、ストーリー性の強い世界に落とし込むのが佐久間の特徴だ。
それは彼自身のキャリアからも見受けられる。2013、2014年に『ゴッドタン』(テレビ東京系)の企画「キス我慢選手権」を映画化し、2022~2024年に『NEO決戦バラエティ キングちゃん』(テレビ東京系)の企画「ドラマチックハートブレイク王」をNetflixの『トークサバイバー!』シリーズへと飛躍させた。
いずれも演技派の役者が脇を固め、ドラマチックな演出の中でお笑い芸人のポテンシャルを引き出している。映画・演劇・漫画といったサブカルチャーに精通する佐久間ならではの演出と言えるだろう。
今回の『罵倒村』においても、自身のバラエティー企画のタネを〝口喧嘩最強ギャル・みりちゃむ〟という新たなスターの発掘とともにYouTube動画で形にし、その世界観をさらにNetflixでスケールアップさせていると感じてならなかった。
芸人の嫌がるところを突く点で言えば、『ゴッドタン』の「マジ嫌い1/5」(手厳しい指摘をしてくる5人のタレントのうち、誰が本当に自分を嫌いかを当てる企画)や「腐り芸人セラピー」(心の闇を抱えてしまった芸人を救うべく、インパルス・板倉俊之、平成ノブシコブシ・徳井健太、ハライチ・岩井勇気が辛辣なアドバイスを送る企画)といった企画でも要素は垣間見える。
〝腐り人〟という名称を見て、〝腐り芸人〟を想起した視聴者も多いことだろう。人気バラエティーの骨組みを踏襲しつつ、これまでのキャリアで培ってきたオリジナル要素を盛り込み、見応えのある世界を構築し、企画に相応しい芸人を放り込む。こうした丁寧な準備が、高い信頼を獲得しているように思えてならない。
1/9枚