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2018年09月30日

私が「納棺師」になるまで……きっかけは病院での「どうしたん?」

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鳥羽みゆきさんが「納棺師」になったのは、ある人との出会いがきっかけだった

鳥羽みゆきさんが「納棺師」になったのは、ある人との出会いがきっかけだった

 亡くなった人の最期の姿を整えて、家族や周囲の人とのお別れの時間を作り出す「納棺師」の鳥羽みゆきさん(43)。どうして、この世界に入ったのか? 孤独だった子ども時代、うまくいかなかった結婚生活、子どもととの別れと病。人生を変えたのは、ある人との出会いだった。(朝日新聞富山総局記者・吉田真梨)


「誰も本当の自分を見てくれない」

 両親と兄、双子の兄との5人家族で、埼玉県で育った鳥羽さん。ただ、家族との暮らしは「心に風が吹いて常に一人だと感じていた」という。

 両親に「そろばんをやりたい」などと言っても、「どうせやめるから」といつも頭ごなしに否定された。父親に言われたことができないと、すぐに暴力を振るわれた。気持ちを尊重されることがなく、モノのように扱われていると感じていた。小さい頃から、どうしたら家を出られるか考えていた。

 高校生になると「爆発しそう」な思いを発散させるため、夜な夜な自室を抜け出して、街を歩き回った。

 同級生に外見をからかわれ、ダイエットをしようとして拒食症になった。2カ月で体重が16キロ落ちた。見た目が変わると、ちやほやされ合コンに誘われるようにもなったが、「人は外見か」と嫌気が差した。

 心が落ち着かないまま、反動で過食症にもなった。「誰も本当の自分を見てくれないように感じていた」

自宅で勉強する鳥羽みゆきさん

自宅で勉強する鳥羽みゆきさん

「どうしたん?」声をかけられた

 高校卒業後、服飾関係の会社に就職し寮に入った。自分でお金を稼ぎ、好きなものを買えるようにはなったが、心は満たされなかった。

 会社の友達に誘われて富山に遊びに来て、そこで出会った男性と20歳で結婚。娘を出産した。しかし、新しい家族との生活も、うまくいかなかった。

 夫はパチンコばかりしていて、家に帰って来ない。姑はあれこれと用事を言いつけてくる。出入りの保険の営業の人に「あんた、家政婦みたいだね」と言われた。

 25歳で離婚を決意。娘を連れて、埼玉の実家に帰った。

散歩をする鳥羽みゆきさん

散歩をする鳥羽みゆきさん

 ある日の早朝、夫が突然乗り込んできて、娘を連れ去った。2年に及ぶ調停の結果、育児の環境が落ち着いているとして、親権は夫に渡った。

 悔しかった。自分が幼い頃、母親に向き合ってもらえず寂しい思いをしたから、娘にはそんな思いをさせたくなかった。

 気持ちはボロボロになった。でも、一緒に暮らしていなくても、子どもに胸を張れるお母さんになろうと立ち直ろうとした。

 何かあったらすぐに駆けつけられるよう、富山に住み、小学校の入学式やお遊戯会などは、遠くから見守った。

 その人に会ったのは、結婚前に富山に来て、たまたま向かった病院だった。

 風邪をひいて病院に来たものの、慌てて財布を忘れて保険証もお金も手元にはなかった。どうしたらいいのか焦っていると、「どうしたん?」と隣に座っていた人に声をかけられた。小柄でぽっちゃりとした、優しそうな女性。当時、60歳の鎮子(しずこ)さんだった。

 鎮子さんは柔らかな雰囲気をまとい、まるで知り合いのように話してくれた。これまで周囲にいた大人とは「違うな」と感じた。

偶然出会った鎮子さんの写真

偶然出会った鎮子さんの写真

「生き方が顔に現れるのかな」

 悩みを抱えた鳥羽さんは、クリーニング屋を営む鎮子さんに何でも相談した。結婚生活のこと。子育てのこと。鎮子さんはいつもしっかりと話を聞いてくれた。鳥羽さんの気持ちを尊重し「いいんじゃない」と背中を押してくれた。

 この頃は知らなかったが、鎮子さんは困っている人を放っておけず、近所の人や学生など、いろんな人の相談にも乗っていたという。

 母のようでも姉のようでも友達のようでもあった鎮子さん。鳥羽さんが初めて信頼できた人だった。

 鳥羽さんが25歳の時、鎮子さんは心筋梗塞で亡くなる。

 突然の出来事に、現実を理解できなかった。悲しんだり、これからのことを考えたりする余裕もなかった。亡くなったことをうまく理解できないまま対面した鎮子さんの顔は、とてもきれいで、優しかった。「生き方が顔に現れるのかな」と思った。

鎮子さんの写真

鎮子さんの写真

「命を削ってでもしたい仕事って?」

 鎮子さんは晩年、介護を受けながら生活をしていた。鎮子さんへの恩返しと思い、鳥羽さんは高齢者の介護の仕事を始めた。

 仕事にやりがいを感じていた2010年11月、進行性の子宮頸(けい)がんが見つかる。

 すぐに手術することになった。離婚をして身寄りはなく、心細かった。「なんで自分が」と泣き崩れた。死も覚悟した。だが、がん細胞は奇跡的に子宮の入り口でとまっていた。

 その4カ月後、東日本大震災が起こった。介護職員のボランティアとして、発生から約2カ月後に数日間、被災地へ派遣された。避難所で声をかけたり、マッサージをしたりしたが、壮絶な別れを経験した人に「何も出来なかった」。

 「死」を強く意識する出来事が相次いだ鳥羽さん。介護の仕事をしながら「何か違う気がする……」と満たされない気持ちに苛まれた。「自分の命を削ってでもしたい仕事って何だろう?」

 ある日、付き合いのあった鎮子さんの息子の錠治(じょうじ)さん(57)にその悩みを打ち明けた。その途端、錠治さんの顔色が変わった。「何?」と聞くと、戸惑いながら、鎮子さんから生前に言付かっていたことを教えてくれた。

鎮子さんの写真を見る鳥羽さん

鎮子さんの写真を見る鳥羽さん

「自分のやるべきことを思い出した」

 「あの子がそう言ってきたら伝えてあげて。『生まれる前から、納棺師になる道が決まってたんだよ』って」

 「のうかんしって何」と聞くと、錠治さんが「亡くなった人をきれいに整えてあげる仕事だよ」と教えてくれた。

 「信じてもらえるとも思わないし、信じてもらいたいとも思わないけれど」と鳥羽さんは前置きした上で「『あぁ、そうだった』。自分のやるべきことを思い出したという感覚でした」と振り返る。こうして鳥羽さんは納棺師の世界に飛び込んだ。

納棺師の仕事に密着 化粧道具・遺体用クリーム・白装束……
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