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闇医者からホルモン・手術…モカさんが「納得できる性」に出会うまで
24歳で性別適合手術を受け男性から女性になったモカさん(31)が開いたウェブの人生相談には、日々、生きづらさを抱える悩みが寄せられます。29歳の時には自殺未遂も経験したモカさん。3歳ごろから「女の子」になりたく、長らく自分の性のあり方を模索してきました。多様性が叫ばれる一方、性的マイノリティーへの偏見は根強く残る現代社会。モカさんに、今の時代に必要な性への向き合い方を聞きました。(朝日新聞記者・高野真吾)
東京・新宿2丁目にある女装バー「女の子クラブ」新宿本店。モカさんは2018年の新年を経営するこの店で迎えた。たる酒を鏡開きし、詰めかけた客と日本酒を味わった。
周りにいるのは、店長のくりこママ(33)やスタッフ、常連客など、気心の知れた仲間ばかり。時計の針が午前1時半を回っても、賑やだった。
「今年の抱負ですか? そうですね、私に求められていることをしたい。目の前や周りの人のことを考え、日々を過ごしたいです」
経営する店だが、モカさんはそう頻繁には足を運ばない。カウンター内に入るのは、基本的に月に1度だけで、ママ任せにしている。その時は普段よりしっかりとアイラインを引き、口紅も重ね塗りする。衣装も華やかで「女になった自分を最も意識する時間」だ。
「女の子クラブにくるお客さんは、全員が女装目的という訳ではありません。女装をするお客さんも毎回ではなく、その日の気分に合わせての方が多いです。女装しないお客さんに楽しんでもらうには、スタッフの接客は大切です」
「ここに来たら、やっぱりきれいでいたい。せっかく女になったのだから、華やかにし、お客さんに喜んでもらいたいですね」
2017年12月中旬、お店に取材に行くと、平日にもかかわらずカウンターは客で埋まっていた。
「いらしたのは初めてですか?」。18歳で別の女装バー、19歳で銀座のホステスをした経験があるだけに、モカさんは客のあしらいに慣れている。
男性客2人とスマホで写真を撮った際、「すごく可愛い!」とはしゃいだ。甲高い歓声に反応し、男性の1人から「それ(モカさんの声)って地声?」と聞かれた。すかさず「15歳の時から、(女性)ホルモンを摂取しているから」と応えた。
「3歳ごろから『女の子になりたいな』と、やんわりと思っていました。そんなに個性的な子どもでなく、遊ぶ相手も友人も普通に男の子ばかりでしたが、この思いだけはありました」
いじめの経験はないという。
「性的マイノリティーは、いじめを受けることが多いけど、私は小学校、中学校共にそういうこともなかったです。それはラッキーでしたね」
思春期になり、性への違和感が強くなっていった。
「思春期になると、男の子はゴツゴツしてくるじゃないですか。中学のプールの時間に発育の早い同級生男子の体を見て、『自分は同じようになりたくない』と嫌悪感を覚えた記憶があります」
「肉体的に大人の男になる時期にさしかかり、逆に『女の子になりたい』と思う気持ちが強くなった。ひそかに実行に移していきました」
モカさんは、中学を卒業する頃から女性ホルモンの摂取を始める。ネットで調べ、通販で錠剤を購入し、飲み始めた。「女の子になる」正しい道かは不明だったが、何もしない訳にはいかなかった。
その後、高校に進学したものの、ほとんど通わなかった。元来、興味がないことをしないといけない学校が苦手だった。その代わり、性的マイノリティーが集まる新宿2丁目に出入りするようになる。
女性ホルモン、メイク、ファッションの情報を集め、「女になることに熱中した」。
「全部が全部、自己流で進めようと思ったわけではありません。16、17歳の時、親にカミングアウトし、病院の精神科で性同一障害の診断を受けました」
そこで「男性脳」か「女性脳」か測るテストを受けたという。
「自分を知りたく、ちゃんと真面目に答えました。結果は『男性的でもあり女性的でもある。中間』でした。『えっ』ですよね」
「こうした結果が出ると、『中間』を受け入れ、男のままでいることを選択するのが普通かもしれません。ですが、私は『女になりたい』気持ちに素直に従うことにしました」
正規ルートで治療してもらえなかったので、「闇医者」で女性ホルモン投与を受けたこともあったと明かす。
「2丁目に出入りしていたので、情報は色々とありましたから」
18歳で新宿2丁目にある女装バーで働いた。その時、お店のママから二択で提示され、選んだ名前がモカだ。19歳になると、銀座のホステスになった。
「この頃には、見た目は女性として生活できていました。親も見た目が女性になると、私の個性として受け入れてくれました」
それでも、モカさんは性別適合手術を受けたかったという。
「ちゃんと女性になりたかったという気持ちがあった。また、男性特有の機能を持ちつつ、女性ホルモンを摂取するのは、体への負担が大きかったこともあります」
「高校はいかなくて、2丁目をフラフラしていたけど、経済的に自立することは念頭にありました。女装バー、ホステスの経歴だと、その先はどこかのお店のママになる可能性が高い。他の選択肢も欲しく、ウェブデザイナーの勉強を独学で始めました」
モカさんは、好きなことは、何時間でも集中し、できるタイプだ。ホステスの傍ら勉強を続け、20歳になるとウェブの会社に入社した。10カ月後、そこを辞めて起業し、新宿2丁目に出入りした経験を生かし、女装イベントを始めるなどした。
「起業は成功し、お金がたまりました。24歳の時、こうした手術が進んでいるタイに渡りました。約160万円かけ、肉体的に男性から女性になりました」
「戸籍ですか? その数年後に男性から女性にし、名前も変えています」
「手術をし、生まれ変わったことに安心したからかな、戸籍変更が手術の数年後になったのは。あと、会社の名義を変えるなど、色々と手続きが多く、先送りしたというのもあります。戸籍よりも肉体的に女になったことの方が、私には重要でした」
肉体的にも戸籍上も、女性になったモカさんだが、「男性らしい部分も女性らしい部分もあり、色々な部分で生かされている」と語る。
客が女性としての華やかなモカさんを求めている「女の子クラブ」では別だが、他で男性と話している様子は、かなりさっぱりしている。男友達同士の会話のようだ。女性も男性も恋愛対象になる。
「両性ともにバランス良く自分にあるのは便利だと思いますね。色々な物事が、フラットに見えますから。ただ、『男性として生きられるか?』と聞かれれば、ノーです」
モカさんが女性になる生き方を選んだ理由は「自由だから」だった。
「ズボンもスカートもはきたい。髪の毛は、ロングにもショートにもしたい。女性の方がそんな自由を選択しやすいから、私は女性になる生き方を選んだのだと思います」
「LGBTという言葉のうち、Lのレズ、Gのゲイ、Bのバイセクシャルというのは、性指向のことを指します。どんな性別の相手を好きになるかです。一方、Tのトランスジェンダーは、性自認、つまり自分の性別をどう捉えているかです」
「自分の性に納得できたら、生活上の問題はなくなっていくのでしょう。その納得を生むためにも、他者の性自認を否定する言葉は発して欲しくないですね。いじめは受けなかった私も、そうした言葉で傷ついた経験はありますから」
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