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2018年02月21日

「うつ」に寄り添う女装バー経営者 「大好きだからこの世にいて」

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会場の貸し出しの仕事をしていた元キャバレーの会場でポーズを取る=モカさん提供

会場の貸し出しの仕事をしていた元キャバレーの会場でポーズを取る=モカさん提供

 24歳で性別適合手術を受けたモカさん(31)は、仕事では成功しながら、精神的に追いつめられ29歳の時にマンション屋上から飛び降りました。奇跡的に生還した後に開いたウェブの人生相談には、日々、人には言えない悩みを抱えた声が集まります。孤立し、誰にも助けを求められなかった自身の経験が、今、多くの人を救っています。(朝日新聞記者・高野真吾)




【動画】ウェブで札幌にいる相談者と話をするモカさん=高野真吾撮影

20代、自分にムチ打ち仕事

※悩みを抱えている方へ、記事の最後に相談窓口の案内があります

 モカさんは、幼少期から正義感が強く、感受性も豊かだった。一方、自分の興味のないことをすることは苦手だった。

 中学を卒業すると、高校にはほとんど行かなかった。その代わり、性的マイノリティーが集まる東京・新宿2丁目に出入りするようになる。

 20歳ごろに独学でウェブデザインの基本を身につけた後は、イベントや会場運営の仕事をし、生計を立てていた。

 「物心ついた時から、世の中に対して不満がありました。ずるいことをしている大人が、お金をもうけている。子どもでも、そうした現実を察することってありますよね」

 「また、経済面や肉体面で恵まれている人が、自分より劣る人から利益を得ている。世の中の『弱肉強食』の側面も強く意識してきました」

 「私が仕事を頑張って成功し、力を得れば、少しはこうした社会を変えられるかもしれない。そんな思いがあって、20代はかなり自分にムチを打ち、仕事をしてきました」

次第に孤独深まる

 21歳で起業したモカさんは、女装イベント「プロパガンダ」を主催。多いときで、一つの会場に450人も集めたことがあったという。

 さらに別の仕事も手がけた。

 「新宿区歌舞伎町の『風林会館』ビルにあった元キャバレー『ニュージャパン』の会場を、イベントなどに貸し出す仕事もしました。2丁目に出入りしていた人脈を生かすと、うまくいった。24歳で年収が1000万円を超しました」

 経済的には成功する反面、「ずっと一人で人と違うことをやってきた」ことから、次第に孤独が深まっていく。

 「自分の発想や感性を頼りに、一人で動いていました。やりたいことや経営の相談ができる相手はいなかった。ほとんど休まずに働いていたので、疲れもたまりました。25歳ごろから、鬱病(うつびょう)が悪化。病院に行き、精神安定剤を飲む毎日でした」

女装イベント「プロパガンダ」の様子=モカさん提供

女装イベント「プロパガンダ」の様子=モカさん提供

「世界の残酷な部分ばかり目に入った」

 それでも、モカさんは前に進んだ。26歳になった2012年12月、女装バー「女の子クラブ」を新宿2丁目に開く。女装をしたい男性にスタッフがメイクをし、衣装も貸し出す。人気店になり、翌年には大阪にも出店した。

 しかし、精神面は上向かなかった。当時からモカさんを知る「女の子クラブ」新宿店の店長、くりこママ(33)は「病み期なんだよね」と愚痴をこぼすモカさんを記憶している。電話がなかなかつながらず、つながっても、ろれつが回らない時もあったという。

 「この頃、自傷行為をし、病院に運ばれたことが何回かありました。この世の中にいるのが嫌になってしまった。世界の残酷な部分ばかりが目に入り、絶望の積み重ねの上にまれに起きる奇跡には目が向かなかった」

 「話がかなり哲学っぽいですか? そうかもしれませんね。哲学関係の本を読むのは好きですし、こうした話ができる相手と語り合うことも好きです。出版したマンガ本も、タイトルが『迷いうさこの感じる哲学漫画』ですから」

自著「迷いうさこの感じる哲学漫画」を手にする=モカさん提供

自著「迷いうさこの感じる哲学漫画」を手にする=モカさん提供

「生きなさい」と説得されても…

 そんなモカさんを、両親や親しい人は、心配してくれた。

 「でも、『生きなさい』と説得されても、その言葉は私の中には響いてこなかった。私の中では、生きたくない理由ができあがってしまっていたからです。理屈ではダメなんですよね」

 「むしろ、感情面で寄り添ってくれる、『大好きだからこの世にいて』という気持ちをぶつけてもらえたら、私も殻を破れたかもしれません」

 20代後半は、自宅にこもることが多かった。ベッドから抜け出せなくなり、人と会うのがおっくうになった。一人でいると、余計に答えのない「人生問答」を繰り返す。ますます自分を追い詰めた。

自宅ベッドに寝転がる=ツイキさん撮影

自宅ベッドに寝転がる=ツイキさん撮影

「感情で引き留めて」

 29歳の時、マンション屋上から飛び降りた。奇跡的に助かった後、地元の友人に会った。彼はモカさんに「何で言ってくれなかったんだ。俺だったら、何日も家に座り込んで、ずっと一緒に居たのに」と語ったという。

 「四の五の言わずに、理屈でなく、感情で相手を引き留める。皆さんの周囲に追い込まれている人がいたら、大事な人を失うかもしれない場面に出くわしたら、ぜひこうして下さい」

入院から自宅に戻っても、しばらく松葉杖を使っていた=モカさん提供

入院から自宅に戻っても、しばらく松葉杖を使っていた=モカさん提供

立ち直り、悩み相談開始

 モカさんが人生に前向きになれたのは、飛び降り後の入院生活を経てからだ。鬱病を克服した経験は、今最も力を入れている「モカのお悩み相談」(http://nayami.uni-web.jp/)で大いに役立っている。性別適合手術も経験したため、性的マイノリティーへの理解や共感が深いのも武器だ。
 
 40代のある相談者は、1年ほど前、ツイッター上で悩み相談を知り、連絡した。職場でのストレスなどから不眠症になり、心の支えにしていた音楽ライブに行く回数が減り、鬱状態になっていた。さらに性別は男性だが、女性ホルモンを摂取し、女性の格好で仕事をしたいという希望があった。
 
 しかし、当時の東京での職場では認めてもらえず、生活も苦しかったことから、モカさんの提案に従い昨春、札幌の実家に戻った。生活が落ち着くまで、モカさんは何度も不安を聞き、生活上のアドバイスをしたほか、行政窓口にも付き添った。
 
 「世間一般では、鬱病への理解はまだまだ進んでいません。心が弱いからなる、怠け者だからなるという誤解があり、打ち明けにくい。さらに、LGBTなどの性的マイノリティーも、いまだに差別や笑いものの対象になっています」
 
 

ウェブで悩み相談に乗る=高野真吾撮影

ウェブで悩み相談に乗る=高野真吾撮影

相談者「頼りにできるし尊敬できる」

 2017年12月上旬、モカさんは、相談者とパソコン上にお互いの映像を映しながら、久しぶりに会話をした。相談者の顔色が良いことや「新しい仕事を探したい」と前向きに語る言葉を聞き、ほっと胸をなで下ろした。

 取材に応じた相談者は、モカさんを「自分の悩みを一番分かってくれる人」と表現した後、こう続けた。

 「年下だけど、すごい頼りにできるし尊敬できる。やっぱり色々な経験をしてきているのが大きいと思う」

PC画面上で相談者と話をするモカさん。左上に相談者が写る=高野真吾撮影

PC画面上で相談者と話をするモカさん。左上に相談者が写る=高野真吾撮影

行政なども、複数の相談窓口を設けています

・いのち支える窓口一覧(自殺総合対策推進センターサイト)
http://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php
・24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)
・こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06112210.htm
 

女装バー経営者が描く「人生を救う」マンガ 飛び降り…奇跡の生還
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