連載
#1 キャラクターの世界
後ろ向きキャラ勢ぞろい…なぜ人気?「すみっコぐらし」作者が語る
最近あちこちで見かける「すみっコぐらし」。なぜこんな後ろ向きなキャラが登場したのか、少しネガティブなデザイナーに聞きました。
連載
#1 キャラクターの世界
最近あちこちで見かける「すみっコぐらし」。なぜこんな後ろ向きなキャラが登場したのか、少しネガティブなデザイナーに聞きました。
最近あちこちで見かける「すみっコぐらし」知っていますか。東京駅にあるショップには中年世代も足を運ぶなど、子どもだけでなく幅広い世代に人気のキャラクターです。27歳の私も顔に似合わず、キャラの中の「ぺんぎん?」が好き。「ぺんぎん」ですらなく「ぺんぎん?」。少しあざといゆるキャラがあふれる中、なぜこんな後ろ向きなキャラが登場したのか、少しネガティブなデザイナーに聞きました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
(2019年11月8日追記)
「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」が、11月8日から公開されています。
特別上映イベントもあり、11月13日にある「ぼくらもすみっコ応援団!上映会」では上映後に、この記事の筆者・影山遼が、映画の脚本家・角田貴志さんと魅力について語り合います。新宿ピカデリーシアター5(東京都新宿区)で、午後7時40分からの開催です。
まず、少しだけ主要キャラを説明します。「ぺんぎん?」は自分が本物のペンギンなのか自信がない黄緑色の存在。「しろくま」は北から逃げてきた寒がりの人見知り。「とんかつ」は脂っこいから残されたトンカツの端っこ。体形を気にする「ねこ」や捕まらないようとかげのふりをしている「とかげ」もいます。書いていて思いましたが、全員の説明が後ろ向きです。
製造元の「サンエックス」は東京・神田のオフィス街にあります。アポイントをとって訪問しました。この会社、「リラックマ」も抱えている結構な強者です。
「すみっコ」の作者であるデザイナーのよこみぞゆりさんが出迎えてくれました。最初に雑談をした感じでは、人見知りの記者よりは少なくとも会話が上手なような…。本当にあの後ろ向きキャラたちを考え出した方なのでしょうか。
当初から、子ども向けというよりも、幅広い世代を対象に作ったそうです。
私の家にも巨大ぬいぐるみがあるぺんぎん?は、原案からいます。よく考えると、キャラの名前に「?」があるのも珍しい。様々なボツ設定を経て、現在の形に落ち着いたといいます。ちなみに、このキャラを呼ぶ時のアクセントは、普通の生き物の「ペンギン」と同じで良いということも教えてくれました。どうでも良いですが、疑問系で今までずっと呼んでいました。
どうして、ここまで表情がないのでしょうか。よこみぞさんは「無表情の方が感情移入しやすいと思いました」と話します。キャラを練る時、「どんな人なら現実ですみっこに集まるだろうと考えました」。ちょっとした過去を持っていたり、ネガティブだったり…。キャラごとに性格を設定していった結果、中心にはいないであろうキャラたちが集まりました。
よこみぞさんは「アイデアを考えついた時、自分がネガティブだったのかもしれません」とほほえみます。しろくまとねこといった動物だけでは普通。変なものも入れたい。その思いから、食べ残しの選抜を行い、「とんかつ」と「えびふらいのしっぽ」が採用されました。
対照的に「ざっそう」や「ほこり」は元から隅にいるので良い顔だそう。しっかり設定が詰められています。
絵本では電話に出るのが怖い…という場面がありますが、よこみぞさん自身も「本当に社外からの電話に出るのが好きじゃないです」などと、自分の経験を元にしている部分もあるそうです。
現在は25人ほどのチームを組んで、すみっコに関する商品展開をしています。自分の出したキャラではない他のメンバーもかなりの愛を込めて仕事をしています。素晴らしい話です。うちの新聞にそこまで愛を注げません。
広報宣伝担当の桐野朋子さんは取材中、何度も「大人にも火がつきました」と強調しました。本当に私以外の大人にも好きな人がいるのでしょうか。気になって、東京駅の地下にある「すみっコぐらしshop東京駅店」で買い物をしていた人に話を聞いてみました。
和歌山から出張で訪れたという会社員男性(39)は、髪をガッチリと固めたダンディーな感じで、あまりキャラショップにはいなさそうな感じです。4千円ほどのグッズを買ったという男性は「これは8歳の長男と6歳の長女に頼まれて買いました。一人一個ないと取り合いでけんかになるので、大量です」と話します。
それだけでなく、やる気のないキャラたちに自分も少しはまっているそうです。「とんかつが一番好きですね。残されたとかその可哀想な感じ、働いているお父さんに通じる悲哀さがあります。なんかいとおしい」
この年代の人も興味を持つんだ、と不思議な気持ちになるとともにうれしくなりました。
「すみっコ」は、東京・上野の国立科学博物館で10月14日まで開かれている「恐竜博2019」で、恐竜とコラボしています。北海道むかわ町で発見された全長8メートルを超える巨大なハドロサウルス類の新種「むかわ竜」や謎の恐竜「デイノケイルス」の実物化石が展示されます。
むかわ竜やデイノケイルスに扮したタピオカのぬいぐるみ(各1500円)や恐竜に成り切ったすみっコたちのクリアホルダーセット(500円)なども会場限定であるようです。とかげのふりをしているとかげは、グッズ内でそわそわしています。
とかげ以外につながりのない無理やりなコラボだったのかと思いきや、よこみぞさんは大の恐竜好き。動物園も水族館もと、とにかく生き物を愛するよこみぞさんは「コラボは以前からずっと願っていました。(よこみぞさんとは別にデザインを担当した)メインのデザイナーも恐竜が大好きで、2人で好き勝手に楽しみながらデザインを作りました。 ポイントは、実は恐竜であることを隠しているとかげがビクビクしているところです。他にも、マネをするのが好きなたぴおかが、色々と変身しています」と話してくれました。
心配なのは「すみっコ」と「恐竜」のファン層がかぶっているのかということ。どちらかに興味を持って訪れ、もう片方の魅力に気づくことを期待しています。
1/36枚