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ピストルでスタートできる? 足音や声が聞こえない、陸上選手の思い
努力の積み重ねが「勘」に
聴覚障害がある人は、ピストルの合図でスタートできるの――?来年11月から初めて日本で開催される「デフリンピック」の1年前を節目に、都内でイベントが開かれました。デフリンピックは、聴覚に障害がある選手の国際スポーツ大会です。現役選手のトークセッションでは、足音や選手の声が聞こえないなか、リレー競技でバトンパスするときの難しさについても語られました。
デフリンピックは、4年ごとに開かれる聴覚障害のアスリートの世界規模の大会です。
次の夏季デフリンピックは、来年11月15日から12日間にわたって東京・福島で開催されます。陸上やサッカー、バドミントンなどの世界各国・地域の選手団約6千人が熱戦を繰り広げます。
1年前の機運を盛り上げようと、都内で15日に開かれたイベントでは、メダルのデザインが発表され、手話を交えた応援「サインエール」も披露されました。
イベントでは、デフリンピックで活躍する陸上・山田真樹選手と元短距離走日本代表の朝原宣治さんが語り合うトークセッションもありました。
会場では、山田選手の手話を日本語にする通訳者や、登壇者の言葉を手話に変換する通訳者もいて、スムーズに対談が進行しました。
山田選手は、2017年にサムスン(トルコ)で開催されたデフリンピックで、200mと4×100mリレーで金メダル、400mで銀メダルを獲得。
朝原さんは2008年の北京オリンピックで陸上男子4x100mリレーで銀メダルを獲得しています。
山田選手は、聞こえる人たちと一緒に一般の大会に出場することもありますが、その際のスタートの合図は、ピストルの音です。
聴覚障害のある山田選手は「みんなの反応を見てから自分も出る」ことになります。スタート時の遅れを取り戻すのに一生懸命になることがたくさんあり、「選手としてはやはりモヤモヤが残るし、もどかしさがある」と語ります。
デフリンピックでは、スタートの合図は、「スタートランプ」です。ピストルと連動し、オン・ユア・マークス(位置について)が「赤」、セット(よーい)が「黄」、号砲(どん)が「緑」で出走します。
デフリンピックでは、全員が補聴器を外しての出場。「平等な状況でスタートすることができ、これでやっと本当の勝負が始まると感じます」と話します。
ともにリレー競技のメダリストである山田選手と朝原さん。
リレー競技ではバトンパスの際、バトンを受け取る側の走者は、バトンを渡す走者の「はい」の合図で、前を向いたまま手を出し、バトンを受け取る準備をします。
朝原さんは「僕たちも大歓声の中で走ることがあります。その時は、『はい』が聞こえない状況にはなるんですよね。そういうときは、勘で手を出すこともあります」と言います。
山田選手は「朝原さんも勘でもらうんですか?」と驚いた様子。「実はデフ陸上選手である僕も勘でもらうことがある」と語ります。
聴覚障害のある選手の場合、バトンを渡す選手の足音や合図となる声が聞こえない状況で、バトンを受けとることになります。
山田選手は「最初はお互いの距離感もスピードもわからないので、簡単な話ではないです」と話します。
バトンパスを成功させるまでの練習では、選手同士がぶつかってしまうことや、バトンパスが可能なゾーン内では渡せずに走りすぎてしまうこともあるといいます。
朝原さんは「僕たちは聞こえること前提にやっていて、聞こえなかったら最悪『勘』ということ。でも、聞こえない前提でやっていくのはかなり難しいと思います」と語りました。
山田選手は「技術だけでなく選手同士の信頼関係も大切」と強調しました。朝原さんも「信頼関係がないと、もらう人が『この人はちゃんと渡してくれるか』と思ってしまって、怖くて出られません。そこでスピードが落ちたりしてしまいます」といいます。
山田選手は「リレーは信頼関係を争う競技といえると思うし、それが魅力だと思います」と話しました。
また来年に向けての意気込みを、「ライバルも一生懸命練習してくると思いますので、負けないように練習を積み重ね、世界記録、金メダルを取れるようにがんばっていきたい」と語りました。
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