お金と仕事
「プレーン味」は何味?無印良品のこだわり「真ん中とは思ってない」
NHKの公式ツイッターが、公平公正、中立性の担保などを理由に外部アカウントのフォローを外すと発表した。「中立」や「真ん中」、「スタンダード」……そんなイメージで記者の頭に浮かんだのは生活雑貨のブランド「無印良品」だった。お菓子のプレーン味、定番のシャツ、どれでも無印良品らしい商品ばかり。運営会社、良品計画の広報・IR担当、大栗麻理子課長に、記者が思いをぶつけてみると、きっぱりと「真ん中とは思っていません」との返答だった。(朝日新聞文化くらし報道部記者・後藤洋平)
――無印良品の「無印」は、どういう意図でつけたのでしょう?
「ブランド主義に対するアンチテーゼの意味合いです。ブランドができたのが1980年なのですが、普通のシャツにブランド名が付くだけで値段が違うのはいかがなものか、我々はノーブランドだけど、良い品を、という意図でした」
――「無印」というのは「どこにも属さない」「中立」というイメージと重なる気がします。確固たるポリシーとは?
「商品に大きな三つの『わけ』がありまして、①素材の選択、②工程の見直し、③包装の簡略化。これがずっとブレずに持ち続けている物作りのわけです」
――真ん中とは? スタンダードとは? というテーマで取材しています。たとえば“無印”の“プレーン味”とは何か? 「てんさい糖のくまビスケット」のパッケージ説明には『プレーン』という表記はありますが……。
「無印良品では食品に化学調味料は使わず全て天然素材を使っています。無駄な味付けをしていない。そういう意味でプレーンと表現しています」
――でもココア味もあると書いている。「プレーン味」は何の味?
「ココアも天然素材です。プレーンは砂糖とか小麦粉の素材そのものの味を生かした状態ですね」
――シャツのサイズ感も「見直した」と店舗にポスターが貼ってありました。これってつまり、「スタンダード」も変わるということですよね。どのような考えで変わるのでしょうか?
「無印良品は常に『永遠の定番』を探しているのですが、答えはないと思っています。完成はありません。だから、その時代に合わせて仕様を変えます。シャツなど衣料品はシーズンごとに入れ替わるので、その都度見直しています。シャツは今回、裾のもたつきを取り、裾脇のラインをなだらかに。そして無印のジャケットに合わせた収まりのよい襟にしました」
――他にも見直したものは?
「最近でいえば『体にフィットするソファ』ですね。SNSで話題になってブレークし、1年近く欠品が続きご迷惑をおかけしていたのですが。2002年に初めて売り出して、11年に生地の見直しをしました。使っているうちにへたって伸びすぎないような素材に。でも、そもそも伸びて包み込むような体感が心地よい商品なので、伸縮性は残しつつ、へたりを改良するのは難しかったと聞いています」
――常に変わることで、「変わらないこと」を維持している?
「そうですね。『脚付マットレス』という商品も、改良に改良を重ねています。直近では14年にリニューアルしました。木製だったフレームがスチールになるなど。1991年の発売当時は外側の生地が張られていたのですが、今では取り外してクリーニングもできます。内部のコイルスプリングも変更を重ねてきました。念頭に置いているのは、廃棄する際に分別しやすいかということです」
――いわゆる、誰もがアプローチしやすいところを狙っているんですよね? 商品として
「いや、違いますね。結果的にそうなっているのかもしれないですが、誰にでも、という訳ではないのです。実は弊社にはマーケティング部という部署がありません。『自分たちでマーケティングしなさい』と言われています。社員同士で実際に使ってみた感想などをフィードバックしていますし、お客様からの声を集める仕組みがネット上で運営する『IDEA PARK(アイデア・パーク)』というサイト(http://idea.muji.net/)にあります」
――どんなサイトですか?
「消費者の誰もが書き込めて、『こういう商品が欲しい』という意見に他の人から『いいね!』をつけていただける。販売中の商品についてもご意見を受け付けて、「いま見直し中です」とか「実際にこうなりました」という報告もしています」
――かなり前から消費者と双方向性の関係が出来ている?
「90年代からネットで意見を聞く仕組みがありました。もちろん、個人の方の意見を全て反映する訳ではないですが、多くあがってくる意見は蓄積されます。自分たちには無かった意見からは特に刺激をもらえます。だから、新しい商品を作るというよりも、見つけるということでしょうか。消費者が何に困っているのか、何を欲しているのかを見つけ、それを形にするという考え方です」
――誰もが欲しがるものを作っているわけではない、というのは?
「こうしたら売れるだろう、と思って作っているわけではないのです。売れているからとか、売れそうだからという物作りでは、結局トレンドに流されてしまうのではないでしょうか。そうではなく、生活者として本当に欲しいかどうか。売ろうと思って作っている訳ではなく、役に立とうと思って作る視点を大事にしています」
――では、誰もが興味を持ちそうな「真ん中」を意識して商品を考えている訳ではないのですね。
「ええ。ですから、この取材をお受けしようかどうか、最初は迷いました。ただ、真ん中とは思っていないのですが、『無印良品は空っぽの器』という考え方もあります」
「以前はガラスのコップを『ガラス器』という商品名で販売していました。コップにするのかペンを立てるのか、花瓶にするのかも使う方のご自由ですから」
「中立ってなんだ」は5月7日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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