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NHKフォロー外しから考える「中立おばけ」 信念があれば怖くない?
NHKは4月、全公式ツイッターで、原則、外部アカウントのフォローをやめた。公式発表では「公平公正という公共放送の基本姿勢を堅持するため」といい、関係者は「過激な発言をフォローしていたら『支持しているのか?』という問い合わせもあり、中立性を保つために致し方なかった」と打ち明けた。記者の職場で議論するうちに、何だか寒気が走った。「『中立』を意識しすぎると、萎縮しちゃう感じがしない?」「そもそも真ん中だって誰にわかるの?」。まるで、姿が見えない「おばけ」に振り回されているみたいだ。(朝日新聞文化くらし報道部・後藤洋平 高重治香)
まず会いに行ったのは浅生鴨(あそう・かも)さん。2009年にNHK広報局のツイッター(@NHK_PR)担当を始め、14年に退局した後は小説の執筆などをしている。
大勢の人をフォローしたのは、NHKと視聴者のつながりを「放送を流して対価として受信料をいただく」という関係から一歩進めたかったからだという。「公共放送は人間にはいろいろな意見があることを前提にしている」ので、多様な意見の人をフォローすることに抵抗は感じなかった。
浅生さんの考える中立は、「ある程度の人が『一理あるよね』と言える明確なルールを作り、ブレないこと」。NHKのアカウントのフォローにも、説明のつくルールがあればよかった、と。ツイッターは感情をやりとりするメディア。「中立」のために突然一方的にフォロー外しを宣言したのは、「握っていた手をぱっと離す」ようで冷たく感じた。
何につけ怒られることを避け、間違わないことに固執するいまの日本の雰囲気も、冒険をしにくい一因ではないか、と言った。
浅生さんは「中立と聞くとスイスを思い出す」そうだ。東京・広尾にある永世中立国・スイスの大使館を訪ねると、文化・広報部長のミゲル・ペレス=ラ プラントさんが、「ジャーナリズムと国の中立は別の話じゃない?」と苦笑しながら対応してくれた。
国際的に中立(ニュートラル)を認められてから200年。国際情勢に合わせて政策は柔軟に変えているが、八方美人と指さされることはない。「交戦国間の対立を利用しない」など中立のルールを守り続け、信頼を積み重ねたからだという。
響いたのは「中立とは必ずしも『間にある』ことではなく、どの側にもつかないということ。対立の外にいることができること」との立場だ。
何度も強調されたのは、「中立は外交の手段であり目的ではありません」。
身近な「ニュートラル」といえば、「無印良品」の商品デザインが頭に浮かぶ。いまや世界的ブランドは「真ん中」をどう考えているのか。良品計画の本社を訪ねた。
家具も衣料品も、誰もが手を伸ばしやすいことを狙って作るのかと思いきや、広報・IR担当の大栗麻理子課長は「違います。社内にマーケティング部もありません」。
よりどころを聞くと、「IDEA PARK」という、消費者と交流するサイトや、店舗に寄せられた意見が商品の開発や改良につながるという。
「永遠の『定番』を探して、まだ答えは見つかりません。消費者がいま何に困って、何を望んでいるかを形にしてきました」。
個々の要望に向き合うことを重ねた結果、外からは「真ん中」に見えるのかもしれない。
あらためて朝日の公式ツイッターの管理役である藤谷健・ソーシャルメディアエディターに聞くと、英国の公共放送BBCの姿勢にならっているという。
「ルールは端的に一つ。『BBCの公平性、公正性、中立性に疑念を抱かせるようなことはしてはいけない』と」。だからツイッター記者に「社の姿勢が疑われるようなことだけはナシね!」と求める。
あるべき「中立性」や「真ん中」の輪郭がハッキリしたわけではないけれど、話の点と点を結んで見えてきた――中立は目的じゃない。人とつながり、対話をし、信頼を積み重ねる道筋そのもの。手間はかかるが、信念を持って道を進めば、「中立おばけ」なんか怖くないのだ。
「中立ってなんだ」は5月7日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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