IT・科学
NHKフォロー外し、元「1号さん」胸の内 「一方通行になっちゃった」
NHKが、全ての公式ツイッターで、4月末をめどに外部のアカウントのフォローを外すと発表しました。NHK広報局の初代ツイッター担当者(1号さん)をつとめた浅生鴨さんは「昔の一方通行のテレビになっちゃった」と語ります。浅生さんは、2009年にアカウントを開設し2014年春まで担当、同年にNHKを退職し現在は執筆活動や広告の企画や制作をしています。元「中の人」の思いを聞きました。
――NHKのツイッターのフォロー外し、どう思いますか。
寂しいですよね。たくさんの方のご意見が目に入るよう、フォローをしていました。
もう一つは、「NHKが番組を作って放送して、視聴者の皆様から受信料をいただく」という関係は、一見「物を売ってお金をもらう」という単純な商行為に見えてしまうから、「視聴者とNHKはちゃんとつながっていますよ」ということを体感してもらうためでもありました。
「なんかNHKとつながった」と思ってもらえるように。
フォローされたらフォローし返すのを10万くらいまではやったんですが、震災の後一気に増えて追いつかなくなって。フォロー数とフォロワー数が、アンバランスになりました。
一般ユーザーの方は、好きな方をフォローして嫌いな方はフォローしない。NHKが10万人フォローしているというのは、好きな人だけフォローしているんだろうというご意見がくるのは、わからなくもありません。
――NHK内では「問題がある発言をするアカウントをフォローしているのはどうなのか」という声があったようです。
僕はいろんなご意見の方をフォローすることに関してはそんなに気にはしていませんでした。人間にはいろんな意見があるという前提で、公共放送ってあるわけですから。
「特定の意見だけをフォローしている」と言われたとしたら、本当だったら、そうでない意見の人たちも全部フォローしていくというのがいいのかなという気がします。
「フォローしていない人の意見はどうなるんだ」って言われたら、ややこしいけれど、紅白の観覧も全員ができるわけじゃないし、機会は公平であればいいと思うんですよ。
――たとえばヘイトスピーチばかりつぶやいている人でも、フォローしてきたら返すのもありだと思いますか。
ありだと思います。例外をつくること自体が何か公平性の担保から離れる気がするんですよね。
実際のところは分かりませんが、個人的には、今回のことは選挙が近いからじゃないかという気がしています。ネット選挙はまだ法律が整理されていない。
フォローしている方が立候補されるなど、いろんなケースが出てくると思うんですよね。リスクマネジメントとして、前もって外しているんじゃないかという気がします。
――アカウントを複数人で管理すると、「誰がこのアカウントをフォローしたか」という責任がわからなくなる、という意見もあったようです。
ちょっと腰が引けていますね。NHKって歴史的にアクセルとブレーキの繰り返しをしています。たまたま僕はアクセルの時期にいて、今はブレーキの時期で、またアクセルの時期が来るんじゃないかと思うんですけどね。常にぶれながら、最終的にはまっすぐ進んでいくということです。
今は、選挙とか、ご批判がいっぱいあるとか、会長がネットにあまりご興味がないとか、そういうことも含めてちょっとブレーキをふんでいるタイミングなんでしょう。
でも同時再送信をやるとか、アクセルの準備はできているから、時期が来たらアクセルを踏むんだと思います。
――フォローを全部外すのは、失礼なことではないのでしょうか。
NHKにフォローされたのを喜んでいらっしゃった方もいたので、はずされた時にがっかりするだろうな、と。
フォローしている人のツイートを常に見ているかというとできないんですけれど、「ちゃんとつながっています」と手を握っている感じがあったのに、その手が離れてしまうと悲しいんじゃないかなと。
ご意見を聞くだけだったら、NHKにはソーシャルメディア上のいろんな情報を収集して解析するチームがあります。1個のアカウントが見るより、はるかに多くの意見を集めているんです。単純に気持ちの問題なんですよね。
――フォロワーがある程度以上の数を超えると、気持ちのつながりは難しくなることはないのでしょうか。
一人一人を丁寧に見ていくのは難しいのですが、つながる瞬間はその人のことを考えてつながっているわけです。
何かあった時にその人のアカウントのプロフィルを見たら、「この人フォローしている、向こうからもフォローされている」と分かります。お互いに意志を持ってつながっているから、単純なマスではなく、ものすごく1本1本つながった形のマスなんですよね。
フォロー外しをいきなり発表せず、ネットでみんなに聞いてみてもよかったのではないでしょうか。
「フォローをはずそうという話になっているんですけど、どう思いますか?」と。意見を聞き、結果としてはずすことになったのなら、納得度は高かった気がするんですよね。
握っていた手を離す時に、ぱっと離すのではなくて、これから私は手を離さなくてはいけません、離してもいいですか、ごめんねといって離す。
ワンクッション気持ちが入ることで世の中の反応は違ったんじゃないかと思いますね。
番組は相当気持ちをこめて作ることもあるのに、ことインターネットに関しては、あまり気持ちが入っていかないのが不思議です。
――NHKはツイッター上でも公平性が求められるんでしょうか。
求める人は求めるでしょうね。一番大事なのは明確なルール。
万人が納得できるルールは存在しないので、どんなルールを作ってもご意見はいただくことになると思うけれど、ある程度の人が「なるほど、その考えは一理あるよね」といえる明確なルールをちゃんと作ること。
ブレず、ある時は拡大したりやめたりということではなく、決めたルールはちゃんと守る……それが多分、「中立」ということだと思うんですよ。
僕はいつも中立と聞くとスイスを思い出すんです。スイスって、別に「真ん中」の国ではないじゃないですか。一応「西洋組」の中にいて、ある程度西洋の政治的ポリシーを持っている。でも永世中立国ということで、回りもそう見ている。それは、周りからの影響で動かず、「ブレない」からじゃないかなと思うんです。
たぶん「中立」というから分かりにくい。「独立」という言い方をすればいいんですよ。中立というと、真ん中にいなければならない気がするけれど、「真ん中って、どこ?」ということになる。
明確なポリシーを持ち、何人にも影響されませんということが、たぶん求められている中立だと思うんです。
それが極端なポリシーであれば、多くの支持を得られなくなりますから、独立していられなくなるので、ある程度隔たりのないところにポリシーを持ってこなければいけない。
ただ、ポリシーをゼロにして、周り全部の意見の真ん中を探るようじゃ、どこにもいられないような気がします。
――NHKのアカウントは、今後どうすればいいんでしょう?
どうすればいいんでしょうね(笑)。これまでは何となく、ラジオで届いたはがきを読んで、リスナーに電話をかけて、というDJに近いことをやっていたのが、本当に、テレビみたいになっちゃったな、と。
最先端のネットとつながっているテレビではなく、昔の一方通行のテレビになっちゃった。テレビ番組の放送自体はどんどんネットとつながって双方向になっているのに。
何とかこのまま気持ちの上では関係性を保ち続けられれば、と思いますよね。「フォロー出来なくなるけど、PRのことは嫌いにならないで下さい」と言うとかね(笑)。
たぶん中では、すごく葛藤していると思うんです。本当はフォローを増やしたいだろうに、そうさせてくれない環境が出てきたのかなあ。ツイッターが「世間そのもの」になったんだな、と。
世間そのものになると、これまでのテレビと世間の関係を、同じように求められてくる。もっとポジな世間であれば、また反応は違ったんでしょうけれど、いまどうもネガな世間ですし、否定から入ることが多い。
経済状況とか人口問題を考えると、単純にただただ明るくはならないんだろうけれども、もうちょっとみんなが「いいね!」「楽しいね!」という世間になってきたら、「そろそろフォローしようかな」となってくるかもしれませんね。
NHKもまたアクセルを踏む時期がくれば、また何かを始めるでしょう。みんながビックリするような「なんでそんなことするんだ!」「おい!ちょっと待て!」と言われるような踏み込んだことを是非やってほしいです。
――NHKの現場は萎縮しているように感じることがあります。
NHKに限らず、日本全体が怒られることを避けている。若い国は冒険をしてどんどん踏み外していく人たちがいるのでしょうが、国として年をとっているのだろういう印象があります。
間違わないんだ、ということに固執している。間違うことが許せない、回りも許さない、そういう傾向にある。やり直せる社会にならないと、萎縮しちゃう気がしますよね。僕もあんまり怒られたくはないですけれど。
浅生鴨(あそう・かも) 1971年生まれ。ゲーム会社、レコード会社などを経て、2004年からNHKに勤務。「週刊こどもニュース」のディレクターや、CMやポスターの制作など番組広告を担当した。09年にNHK広報局のアカウント「@NHK_PR」を開設、14年春まで担当。引退時のフォロワーは60万人以上だった。同年にNHKを退職し、現在は執筆活動や広告の企画や制作をしている。「NHK_PR1号」名義の著書に「中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?」。新潮社の季刊誌「yom yom」に連載した小説「終焉(しゅうえん)のアグニオン」が、8月に同社から刊行予定。
「中立ってなんだ」は5月7日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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