連載
#2 意識高い系をたどる
拡大する「意識高い系」 まじめに就活するだけで…強烈な同調圧力
普通に勉強して、真面目に就活するだけで「意識高い系」? 大学生の間で「意識高い系」のターゲットが広がっています。これまでは、アクティブだけど周りが見えてなくて成果が伴わない…くらいのイメージだったのが、今では普通にがんばっている人も「意識高い系」にくくられてしまう。なんでこんなことが起きているのか。学生たちの声を聞きました。
「スターバックスで、ドヤ顔でマックブックエアーを広げる」
「学生団体を立ち上げて、途上国の子どもたちを救おうと呼びかける」
「大学在学中に起業して、CEOという肩書の名刺を持ち歩いている」
あなたが「意識高い系」に抱くイメージは、こんな感じでしょうか。見た目は格好良いけれど、ミーハーで、口だけで、周りを見下していて、残念ながら成果のない人々。
ところが。「意識高い系」という言葉がどういう場面で出てくるのか、大学生と高校生に話を聞いて回ったところ、少し違う使われ方をしています。
例えば。
例(1) 福祉を学ぶ大学1年のナルミさん(19)「福祉を勉強してるって友達に話したら、偽善者って言われました。『へー意識高いんだー』って。昔、仲間はずれにされてた子に声をかけた時も、別の子から『は? 意識高い系?』って嫌がられました」。
例(2) 部活を頑張る高校2年のマヤさん(17)「部活で居残り練習してたら、そんなに仲良くない子から『意識高いよねー』って感じで言われました」。
例(3) 都内の私大に通うミサさん(21)「宿題がどっさり出て単位を取るのも難しい授業をあえてとる人は『意識が高い』って呼ばれます。なんでわざわざそんなことするの?って感じで」
すべて、相手は見下すような感じ、または引いた感じだったそうです。この3例は、「口だけで成果のない人」ではありません。全然、イタくない。ただ真面目に勉強や部活をしていただけです。
学生たちに話を聞くと、もともとの「成果がなくてイタい人」という使い方もするけれど、「真面目に頑張ってる人」を冷ややかに見るという、もうひとつの使い方が、増えているようです。
真面目な人を「意識高い系」と言う場面で最も多かったのは、就活でした。就活が本格化するのは3年生の後半ですが、1~2年のうちから頑張っていると、「意識が高い」と言われるようです。
たとえば、都内の私大に通うミホさん(19)が見た友人たちの会話事例。
「今日、あいつなんで授業来てないの?」
「就活。資格とるらしい」「ああ、あいつ意識高いからね」
また、企業インターンは3年生の夏に行くことが一般的ですが、それ以前に行くと、それも「意識が高い」と言われます。
就活で使われる場面が最も多いのは、すべての学生の最大関心事だからでしょう。「社会人になれるのだろうか」「自分は企業に選ばれる人間なのだろうか」という不安は、学生に共通です。
ただ、「本当に意識が高い人」は、就活だけを目的にしているとは限りません。
会社員のコトナさん(24)は大学時代、周囲が「将来は事務職でいい。玉の輿を狙う」という友人ばかりでつまらないと感じ、学外で多くの人に会っていました。企業で長期間インターンをして経営を学んだり、学生団体を立ち上げた学生たちと仲良くなったり。まさに「意識が高い人」です。
「大学の友達には、今からそんなに頑張らなくてもいいのに。なんで遊ばないの? なんでもう働いてるの? っていう感じで、理解されませんでしたね。私は就活は関係なくて、単に楽しかったからやっていただけ。すべてを就活というくくりで考える人にとって、私たちが何をやっても『就活のためでしょ。ダサい』としか映らないのは、仕方ないのかも」。
コトナさんは、少し悲しそうに振り返ります。
大学生活の一番最後には、就活という関門が待ち構えています。「多くの学生は、全てのことを就活に結びつけて『選ばれるために頑張ってるんでしょ?』って考える。でも本当は、就活って『自分で自分の人生を選ぶ』もの。こちらも会社を選ぶという立場のはずなのに」
たしかに、彼女が言うことは正論です。ただ、そんなに強い人は、多くない。大学3年のタツヤさん(21)が言っていた言葉が印象的です。
「ほとんどの大学生って、親と大学の先生以外の大人と会わないじゃないですか。授業に出るか、サークルに行くか。外の世界とは壁があるんです。意識高くなんてなれませんよ」。
ひとつ気になるのは、言われる側の心理です。「意識高いね」という言葉に、なぜ傷つくのでしょう。「ガリベンだね」とほぼ同じ意味なのに。
「『意識高いんだー』って言われると、なんか、ぱっと線を引かれた感じがするんです。私たちとは違う、向こう側の人みたいな。言われるのはあまり仲良くない相手だけど、やっぱり傷つく。仲間はずれにされた感じがして」(高校2年・マヤさん)
「『意識高いね』って言われそうな友達には黙ってます。みんなと同じ地平にいたい。『あいつは上の人間』って差をつけられたくない」(大学3年・コウスケさん・21歳)
そこにあるのは、同調圧力のようです。「真面目な話は、引かれないように言う相手を選んでいる」「言うのは仲が良い友達だけ」という声は多いです。
大学1年のダイキさん(20)は「日本の社会は同調圧力が強いって言われますけど、上の世代より僕らの年代の方がはるかに強い」と言います。また、大学3年のアツシさん(20)は、「『意識高いね』と言う側の方が、圧倒的に数が多い。だからまだ真面目な話は言いづらい」。
ただ、最近になって学生の間でこんな使い方も広がってきました。
「最近、授業中も企業研究してるわー」
「意識高っ。授業中までやらなくていいじゃん(笑)」
仲が良い友達同士で、冗談として使う。そこに悪意はありません。これまでの「意識高い系」は、仲が良くない相手に対して悪意を向ける言葉でしたが、ずいぶん気軽に使えるようになりました。
大学3年のミサさん(21)は「冗談として『意識高い系』を使うようになったのはここ1年くらいですね。前はネットで『ビジネスやってます』っていう誰かの投稿を見て『意識高いなー』って言ってたけど、最近は自分の生活レベルの話に使います。『意識高いからバイト週5で入れたわー』みたいに」。
ツイッターの投稿を見ると、「意識高い系」という言葉が入った投稿は、2014年後半からぐっと増えています。言葉を使う人が増えた結果、ネガティブ一色だった意味が広がり、ライトになってきているようです。
「意識高い系をたどる」は4月2日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
1/80枚