連載
#3 意識高い系をたどる
「意識高い系」標的、Tehuさんの本音「僕は遊び道具なんですよ」
「意識高い系」として常に標的にされるTehuさん。「ビッグマウス」「権威主義者」。会ったこともない人から、毎日のように攻撃されています。「僕は遊び道具なんですよ。ゆがんだ愛の形」。いたって冷静な本人ですが、この書き込みの衝動はどこから沸いてくるのでしょう。書き込みまとめサイトの管理人、Tehuさん本人、アンチの人々の声を聞いて考えました。「意識高い系って嫌われているの?」
「意識高い系」と聞いて、あなたは誰を連想しますか?
「意識高い系速報」というウェブサイトがあります。著名人の意識高い系っぽい言動を取り上げた「2ちゃんねる」のスレッドを転載・配信していて、当然のことながら、批判や悪態がそれはもうたくさん書き込まれています。1年前にできた個人サイトながら、月間60~70万PVと、一定のファンがついています。
この「意識高い速報」で、他の人を引き離すアクセス数を集める「人気者」がいます。慶応大学生でwebの仕事をしているTehuさん(20)。サイト内の全3000本の記事のうち、約700本がTehuさんに関する記事です。彼がインタビューでこう答えた、何をリツイートした、どのウェブサービスを批判したと、一挙手一投足でスレッドが立っています。
サイトの管理人に会ってきました。
管理人は都内の男子大学生(20)。「僕自身も意識高い系だし、別に意識が高くてもいいと思ってますよ。むしろ『意識高い系』という言葉が広まって欲しくてこのサイトをやってます」とのこと。
Tehuさんってそんなに有名なんですか?
「僕の周りでは、意識高い系と言えばTehuさん、っていうイメージをもっている人が多いですね。Tehuさんはそんなにテレビに出てるわけじゃないのに、学生の間では知名度高いですよ」。
ただ、記事は基本的に悪口がほとんど。書き込む人々はTehuさんの何がそんなに気にくわないんでしょう。
管理人を通し、Tehuさんのアンチだという方々に聞いてみました。〈自分を大きく見せるためのビッグマウスや虚言が病的〉〈人を見下した発言が見ててかんに障る〉〈権威主義者てきにおいがする〉
うーん。会ったこともない人に、そこまで言わなくても……。
Tehuさんにも聞いてきました。こんなにたたかれてるの、どう?
「いやあ、正直もう慣れました。気にしてません」。あっけらかんと笑います。Tehuさんは、中学3年生の時に作った健康管理アプリがヒットし、その後も「スーパーIT高校生」と呼ばれて注目を集めました。高校生の頃から様々な大人とwebの仕事を手がけてきましたが、ツイッターでの発言が「人脈自慢だ」「人を見下している」と「しょっちゅう炎上してきた」そうです。
ただ、意識高い系だと言われ始めたのは、1年半ほど前から。「今思い返すと恥ずかしくて消したいような高校時代の調子に乗った発言」を掘り返され、それで火が大きくなりました。
「意識高い系」と言われ始めてから、批判の内容が変わったといいます。それまでは、Tehuさんの実際の言動に対しての批判だったのに、「意識高い系」のラベルによって、デマが出始めました。「虚像のTehu像がアンチの間で作り上げられて、それがネット空間でひとり歩きを始めましたね。いま2ちゃんねるに上がってる僕の高校時代や大学でのエピソードは、ほとんどがデマですよ」。
デマに対して、Tehuさん本人が否定しても、信用されないのだとか。一方で、2ちゃんねるで匿名の誰かが「Tehuはこういうやつだ」と書くと、「そうなんだ」と疑わない。「こうあってほしいTehu像があるんでしょう。誰が書いたかより、何を書いたか」と、Tehuさんは言います。
では、「虚像のTehu」はどんな人物なんでしょう。
「自己愛性人格障害(自らの存在を特別だと思い込む)、キモくて女の子にガチで嫌われている、才能がない、プログラムが書けない」
すらすらとTehuさんは挙げていきます。こちらは、メモをしながら苦笑するしかありません。実際の彼は、明るくて話を盛り上げるのがうまく、女性の友達も多いです。プログラムも書けます。
でも本人は「本当の自分は面倒だから出さなくてもいいんです。仕事に実害ないし、どうせ言っても信用されないし」と気にしません。
「意識高い系速報」にあるTehuさんの記事700本のうち、今までに管理人に記事の削除を求めたのは3本だけ。いずれも友人や知人が巻き込まれたものです。「僕がたたかれるのはいい。でも友達を傷つけるのはアウト。酷いものは法的措置をとります」。
執拗な「アンチTehu」は、一体どんな人たちなのか。Tehuさんも気になって、アンチのツイートを調べてみたことがあるそうです。
「また怒られるかもしれないけど、最初は『執拗な人=オタク』と思っていて、秋葉原に行ったら街の人が全員敵に見えた時期があります(笑)。でもアンチの普段のツイートを追っていくと、社交的で明るくて、スポーツが好きな大学生や高校生っていう人物像の人も多かった。意外です」。
「意識高い系速報」の管理人によると、サイトへのアクセスは、毎月約60%が常連の「固定客」。そして、大半が検索サイトで「Tehu」と検索してやってくるそうです。サイトの立ち上げ時から固定のアンチたちが書き込みを続け、それを見た新しい訪問者がマネして批判に加わり、輪が広がってきたそうです。
そして、管理人はこんなことを言い出しました。「たぶん、Tehuさんは本当に嫌われているわけじゃないと思います」。
「意識高い速報」のとある記事に、こんな投稿があります。
〈書き込み半分tehu学者で草 お前もうtehuの事大好きやろ〉
「tehu学者」とはTehuさんに詳しすぎる執拗なアンチのこと。「草」とは「笑う」。
これに対し、こんな投稿が続きます。
〈むしろ、ワイはTehu好きを常にアピールしてるぞ〉
〈tehu君のテレビ出演をしっかり保存してるファンの鑑やぞ〉
また、こんな投稿もあります。
〈Tehuスレ半分テンプレ化してて楽しみやすくなってるよな ついつい居座ってしまうわ〉
Tehuさんへの批判には、決まり文句、決まったパターンまであるそうです。もはや予定調和です。
〈1~2年くらい前までの調子に乗ってグイグイ知り合い自慢してた時期よりも今のTehuの方がいぶし銀で味わい深いから熱心なファンがつくんやぞ〉
不謹慎ながら、なんだか楽しそうです。
Tehuさんって結局、嫌われてるのか、なんなのか。
ご本人は、「ああ、僕は遊び道具なんですよ」と、さらり。「ゆがんだ愛の形(笑)。僕がデマにいちいち対処しない最大の理由はそこです。虚像の僕を作りあげて、みんなで遊んでる感覚なんでしょう。みんな、共感できるコンテンツに飢えてるのかもしれないですね」。
ああ、わかってるんですね……。
「ただ、心から思うのは、彼らは損してるなあということ。世の中はもっと面白いことがたくさんあるのにね。僕で遊ぶ時間でほかのことをすればいいのに」。
この奇妙なTehuさんとアンチをめぐる関係性。ある男子大学生が、面白い分析をしてくれましたので、最後に紹介します。
「アイドルと同じ構造ですよ。アイドルのファンは、こうあってほしいという良いイメージの虚像を作って、それをファン仲間と共有する。Tehuアンチも、こうあってほしいという虚像を共有してる。ただ、虚像のイメージが悪い方向の『こうあってほしい』になっている」
「アイドルファンは、憧れの虚像に手を伸ばそうとするけど、Tehuアンチは虚像を嘲笑してたたくことで、『こいつよりマシだよね』と自分たちを肯定したいのかも」。
「意識高い系をたどる」は4月2日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
1/80枚