連載
#5 意識高い系をたどる
「意識高い系」で失ったもの ボランティア・政治参加、阻む無力感
「頑張る学生を『意識高い系』と批判して足を引っ張ることは、社会的な損失だ」。意識高い系という言葉にはいま、こんな批判が寄せられています。ボランティアや就活イベントに広まる「一人でやってくる現象」、社会は変えられないという無力感。一体、何が起きているのでしょうか。(朝日新聞 東京社会部記者・原田朱美)
〈意識高い系という言葉が、大嫌いです〉
子どもの貧困問題に取り組むNPO法人「キッズドア」の渡辺由美子理事長(51)は先日、自身のフェイスブックに、こう書き込みました。そして、こう続きました。
〈日々、子どもたちのために自分の時間をつかって頑張る大学生ボランティアが、この「意識高い系」という言葉で、どれほど心を折られてきたか〉
渡辺さんは、残念そうに語ります。
「うちでやってる無料学習支援のボランティアに来てくれる学生さんって、みんな一人で申し込んでくるんですよ。『意識高い系って言われちゃうから、友達には黙って来た』言うんです。本人は、すごく楽しそうに活動してくれる」
「でも、うちでイベントをやる時に『友達を誘ってよ』って頼むと、やっぱり『友達は誘いづらい』って。もったいないなあ。どうにかならないのかなあ」。
渡辺さんは2007年にキッズドアを立ち上げました。300人ほどの学生ボランティアが日々活動していますが、「意識高い系」が学生の行動に影響し始めたのは4~5年前からだといいます。
学生がボランティアを敬遠する現状を解決するべく、渡辺さんは、企業の人たちに「採用選考のエントリーシートにボランティア経験を記入する欄を作って」と提案しているそうです。
「就活のためのボランティアでいいんですよ! 何もしないより! ずっと企業セミナーだけに行くより、役に立ちますよ。どんな目的であれ、まずはやってみたら、感じることがあるでしょう? そこから考えるのが大事なんです」。
もう一人、話を聞きました。
原田謙介さん(29)。若者の政治参加を目指すNPO法人「Youth Create」の代表を務めます。
社会貢献やボランティア活動をする若者は「意識高い系」と言われやすいですが、最も言われる率が高いのが、政治です。
原田さんの活動も、「意識高い系」って言われるんじゃないですか?
「言われますね。元々は褒め言葉なのに攻撃的な言葉になっちゃって、違和感があります」。
渡辺さんと同じ「一人でやってくる現象」は、原田さんも経験があるそうです。
「若者と政治を考えるイベントに来る子って、一人で来るんですよね。地方から一人で、友達に黙って上京してくる子もいる」
「本当は、僕が学校に出向いて出前授業をやって『政治に参加しよう』って呼びかけるより、こういうイベントに来る子が学校に帰って友達に『楽しかった』って言う方が、はるかに効果があるのに。ああいう子を孤立させない方法が必要ですよね」。
原田さんは、一人でやってきた子には、自分の体験談を話すようにしているそうです。
大学時代、原田さんは20代の投票率向上を目指して学生団体「ivote」を立ち上げました。2008年。ちょうど、「意識高い系」が批判され始めた頃です。
当初は、やはり「意識高い活動やねえ」と、友達に引き気味に言われていましたが、そのまま数カ月続けたら「そういうキャラ」として「政治に関することは原田に聞こう」と認知されるようになりました。
ただ、今の若者に「思い切って友達に言えば」と提案すると、「え~」と半信半疑だそうです。メディアの取り上げ方にも、原田さんは注文を付けます。
「メディアが、政治に参加する若者をすごい人って祭り上げちゃうと、他の子が参加するハードルが高くなるので、アウト」
「普通の子なのに。あと政治や社会問題に関わっている子を『若者の代表です』っていう扱いで出すのもアウト。本人も周りも、若者代表だなんて思ってませんよ」。
たしかに取材中、意識高い系が嫌いだという学生からは、「私たちの代表みたいなスタンスで意見を言うのがムカつく。彼らの方が圧倒的に数が少ないんだからマイノリティじゃん」という声を聞きました。
原田さんは、若者と政治を遠ざけない工夫が、メディア側にも必要だと言います。
「一人でやってくる現象」は、たしかにあります。青森の大学3年のコウスケさん(20)は先日、就活で興味のある企業が開いたイベントに参加するため、単身東京にやって来ました。
上京前、何げなく友人に話すと、「え、それだけのためにわざわざ上京すんの?なんで?」と引かれてしまったので、他の人には「東京の友達のところに遊びに行く」とだけ言ってきたそうです。
「数人に言って引かれたので、あとの友達には説明を変えました」。少し寂しそうに、笑っていました。
岐阜の高校2年のホズミさん(17)は先日、NPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」が東京で開いた、高校生と国会議員が語り合うイベントに参加しました。やはりひとりで。
「こういう真面目な活動の話はフェイスブックに流してます。直接話すと嫌がる人もいる。SNSで流せば、特定の誰かにしゃべっているわけじゃないので」。
やっぱり、「意識高い系」を批判することは、社会的損失なのでしょうか。
大学4年のタツヤさん(21)は、こう言います。
「中身のないヤツが批判されるのは、仕方ない。問題なのは、普通の人。音楽とかスポーツとか、誰にだって真面目に頑張りたいことはあるわけで、誰にだって人生の中で『意識が高くなる』時がある」
「その時に『意識高いって言われちゃうかも』って尻込みして、一歩踏み出すはずが、0.5歩になるとか、そういうのが社会的な損失だと思う」。
批判が「社会的損失」だったとして。では、どうすればいいのでしょう。3月はじめ、国際基督教大学(ICU)で、大学生のトークイベント「意識高い系と呼ばないで」が開かれました。
「意識高い系」と呼ばれがちな社会活動をする学生と、その友人たちの計20人ほどが集まりました。
「ボランティアに一緒に参加しようと呼びかけても人が集まらない」。
「自分の活動のことを話すと『意識高い』って引かれてしまう」。
数人の体験談を元に、参加者全員で「意識高い系」という言葉について、語り合いました。
「結局さ、『意識高いね』って言われることってさ、『つまんない話で興味ない』って言われてるのと同じじゃん?」。
イベントの終盤、ユウトさん(20)が言うと、「確かに……」と、つぶやきが同時に挙がりました。
「『意識高い』ってさ、言われる側の活動に足りない部分があるって指摘してくれたようなものなんじゃない? つまんないって言われないようなアプローチを考えたらいいんだよ」。
明るく言うユウトさんに、周囲の学生がうなずきます。たしかに、「意識高いね」と言う側も、言われる側も、お互いを非難するだけでは、何も変わりません。
こんなデータがあります。2013年の内閣府の調査です。13~29歳の若者で、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」という設問に「そう思う」と答えたのは、30.2%でした。
同じ質問を欧米5カ国と韓国でもしたところ、日本が最も低いという結果でした。「社会を変えられるわけがない」という無力感は、若者の間に広がっています。
変えられないと思うからこそ、「変えよう」と訴える「意識高い系」に、「就活目当てなの?」「自己アピール?」と冷めた視線を送るのかもしれません。
最後に、この日を締めくくったのは、イベントを企画した鈴木洋一さん(30)でした。鈴木さんは、11年前から若者の社会参加を後押しする活動に関わっています。
「世間はね、君たちにすぐレッテルをはりたがります。でもね。『なんで、そんな風に言われるんだろう?』って背景を考えると、面白いですよ」
「社会がこうなってるからとか、人々がどういう考え方を持ってるからとか。で、背景が分かると、精神的に追い詰められなくてすみますよ」。
「意識高い系をたどる」は4月2日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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