連載
#4 意識高い系をたどる
「意識高い系」広めた人、常見陽平さん「今、すごくネットに無力感」
2012年に「『意識高い系』という病」(ベスト新書)を出版し、「意識高い系」という言葉を広めてきた千葉商科大学専任講師の常見陽平さん(41)。就活や労働問題に詳しく、意識高い系な人々を批判してきました。「若き老害」というニックネームも自ら名乗っています。ただ、意識高い系を批判し笑うことについては、「頑張る若者の足を引っ張っている」という意見もあります。常見さんはどう考えているのでしょう。話を聞きました。(聞き手・原田朱美)
――いまや「意識高い系」は「口だけで成果のないイタい人」という使い方だけでなく、勉強とか部活とか何かを真面目に頑張っているだけで「意識高い系」と蔑むといった使い方にまで広がっています。
「確かに、頑張ってる前向きな人にまで『意識高い系』ってことになってて、なんでもかんでも『意識高い系だ』と批判をするのは僕の本の真意ではないです。でも世間的には『それは常見のせいだ』ってなってて(笑)。それはもう、この言葉を広げた者として、批判は受け入れるんですけどね」
――真面目に頑張ってる人を「意識高い系だ」と笑う人たちの心理ってなんでしょう?
「ひとつは『そんなに頑張るなよ、俺が置いていかれそうで不安になるから』という焦り。頑張れる人と頑張れない人の差なのかもしれない。もうひとつは『頑張っても無駄なのに』という無力感だと思う。『努力したって無駄なのに何やってんの?』っていう」
「『意識高い系』をめぐるバトルを見ていると、報われない世の中になっているから意識高い系を攻撃するのかなあと思います。まあ、あとは見ていて明らかにイタいというか、滑稽な人、他人を不愉快にさせる人もいるのですけどね」。
「やっぱり、この言葉が広がった背景には、社会の絶望や断絶があると思います。『あきらめちゃいけない』は正しいけど、『いやいや、やっぱ厳しいでしょう』と。昔は『無理に決まってる』はニヒリズムだったけど、今はそっちの方が冷静な人とうつる」
「一方で、『意識高い系』と言われる側の学生たちも不安でしょうがないから、頑張るんだと思います。とっくに安定した世の中じゃなくなってるし、真面目に頑張らないとという危機感に迫られてやっている」
――人間って完全無欠じゃなくて、誰でもダメな部分はある。でもネットではすぐに人の足を引っ張る人が現れて、結果若者がキャリアを築くことが難しくなっていませんか。
「そう。僕はネットの仕事をたくさんしてきたけど、いますごくネットに無力感をもってます。これがネットの限界なのかなあ。若い人を育てるにはお金や機会が必要なのに、ネット空間はそれを提供していませんよね。でもそれは企業の中でも同じこと。人を育てられなくなっている」
「社会全体を見れば、コミュニティが分断して、手を握れない社会になってますよね。20年以上前に社会学者の宮台真司が島宇宙化って言ったけど、それが過度に進んでいる。所得の差や雇用形態の差も進んでいる。希望が見つけにくい社会ですね」
――「意識高い系」という言葉の特異な点は、言われた方が嫌がるということ。言われても「意識高いのって良くない?」と気にしなければ、どうってことないわけで。学生に聞くと、「意識高い系」と言われたくなくて「違うよ!みんなと同じ普通の人間だよ!」とアピールしている人もいます。
「確かに『意識高い系』って、僕も言ったらすごく傷つけた気になるし、言われたら傷つきますね」
――意識高い系と言われる層ってリア充が多いですが、リア充に対してここまでの攻撃力をもった言葉を他に知りません。
「たしかに! いやーそんな言葉を広げた僕ってどんな罪深い人ですか(笑)。でも、そういうふうに攻撃的な方向に世の中が変わってきたんだと思う。僕自身は前より優しくなってるんだけどな(笑)」
――今年は参院選があり「18歳の政治参加」が注目を集めていますが、「意識高い系って言われたくない」と尻込みしてしまうことは、若者の社会参加を阻んでいませんか?
「そうなんです。相互監視社会なんて言われますけど、『意識高い系』という言葉の罪な部分は、『意識高い系って言われたくないから隠れて就活やってます』っていう動きがここ3年くらいで出てきたこと。そんな状態まで生まれてしまったんだと思った」。
――私も2010年前後から学生のいろんな活動を取材してきました。当時の学生団体って「個性のない学生のマインドを変革する」「地球をもっと元気に」「日本を維新し、輝かせる」など、かなり威勢の良いことを掲げてましたよね。
「00年代後半に『意識高い系』の学生が登場した背景には、その頃社会人の間で起きていたビジネス本ブームがあります。『会社が潰れても生き残れる人材にならなければ』という危機感を抱いた人が増えて、自己啓発本が相次いで出版された頃です」
「セルフブランディングやスキルアップ、朝活はこの頃に流行った言葉ですよね。『意識高い系』の学生たちって、こうした社会人のトレンドをいち早くマネした人たちだったんですよね。意識高い系の考え方には、ビジネス本のメソッドが入っていましたね」。
――就活支援系を中心に、たくさんあった学生団体も、「意識高い系」が笑われるようになってから減りましたよね。
「そう! 減った! 学生もイタい目標を掲げなくなった。他人からどう見られるか、どう書いたら批判されるかというのが分かってきたんだと思います。『頑張る人を『意識高い系』って攻撃するのはよくない』っていう批判が起こってくるのも、イタい学生が減った結果だと思います」。
「以前、ある学生から『就活っていろいろ揶揄されるけど、僕ら若者って就活くらいしか一緒に語れるテーマがないんじゃないか。求人が回復して就活が厳しくなくなった今、もうみんなで同じものを語るってことができないのかも』って言われました。深いなあってうなりましたよ」。
「意識高い系をたどる」は4月2日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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