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コラム

ドッキリ?現実? 弁当なし・楽屋がトイレ…「一発屋」髭男爵の日常

「“ドッキリ”を仕掛けられるというのは、”売れっ子”になった証し」。「一発屋」髭男爵の山田ルイ53世さんは、そう語ります。

楽屋での髭男爵の山田ルイ53世さん。ワイングラスの向こうに見える相方のひぐち君
楽屋での髭男爵の山田ルイ53世さん。ワイングラスの向こうに見える相方のひぐち君 出典: サンミュージック提供

目次

 「“ドッキリ”を仕掛けられるというのは、“売れっ子”になった証し」。「一発屋」髭男爵の山田ルイ53世さんは、そう語ります。知名度のある有名人としてのステータスでもある「ドッキリ」ですが、「一発屋」には声がかからなくなります。テレビの露出が減り、楽屋での扱いが雑になり「ドッキリ」並の理不尽さが、日常となる日々。そんな中、久々に訪れた「ドッキリ」に、思わぬリアクションを取る羽目に……。

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【髭男爵の一発屋漂流記1】旬ではないもの代表「月収ネタ」「明日いける?」
【髭男爵の一発屋漂流記2】芸人たちのプライド SNSに心ざわめき地方営業へ
【髭男爵の一発屋漂流記3】自分のいない特番眺める正月、蘇る引きこもりの日々
【髭男爵の一発屋漂流記4】弁当なし・楽屋がトイレ…ドッキリな日常

「書いたサインを目の前で捨てられる」

「我々にだけ、弁当が出ない」
「新人ADの若者が“タメ口”」
「メイクさんが、顔半分しか塗ってくれない」
「用意された楽屋がトイレ」
「書いたサインを目の前で捨てられる」
「初対面のスタッフが、何の断りもなく、僕のシルクハットをかぶり、ワイングラスを持ち、記念撮影をする」

人生では、実に、様々なことが起きる。
その主人公が、芸人、とりわけ、“一発屋”ならなおさらのこと。
そう・・・我々の人生は、“ドッキリ”で満ちあふれ過ぎている。

控室に貼られた写真付きの案内
控室に貼られた写真付きの案内 出典: サンミュージック提供

異変の兆候「“ドッキリ”が減る」

毎年のことだが、あれほど「暖冬」と騒いでいたのが噓のように、寒い日が続く。
“数十年に一度”という、大層な触れ込みの大寒波。
その絶大なる威力で、南国、沖縄に、観測史上初の雪をもたらした。
連日の、厳しい冷え込みで、体調を崩した方も多いだろう。
 
咳、鼻水、寒気といった、風邪の初期症状。
異変の兆候は人それぞれだが、芸人が、“一発屋”という病を患う、その“ひきはじめ” にも、いくつかの初期症状がある。
「“ドッキリ”が減る」というのも、その一つだ。

そもそも、「“ドッキリ”を仕掛けられる」というのは、“売れっ子”になった証しでもある。
日本中、誰でも知っている、おなじみの存在。
十二分な知名度を獲得したことへの“勲章”、“ステータス”に他ならない。

初めての“ドッキリ”、その“ネタばらし”の瞬間、
「ちょっと、なんなんですか、これ―――――!!」
不満げに叫んではいるものの、心の中では、
「俺も、やっと、こういうのやられるようになったか―!やった―!売れたー!!」
そんな感慨深さがわずかに勝り、少々、顔がにやけた。
「芸能界へ、ようこそ!」というわけである。

著書「ヒキコモリ漂流記」にサインをする山田ルイ53世さん
著書「ヒキコモリ漂流記」にサインをする山田ルイ53世さん 出典: サンミュージック提供

やがて“仕掛け”の一部に

いつの時代も、安定した人気を誇る、各局の「ドッキリ番組」。
趣向を凝らした大仕掛けで、芸能人を罠にかけ、驚き、慌てふためく姿を、お茶の間のみなさんに楽しんで頂く。
もちろん、道行く一般の方に、いたずらを仕掛け、その反応を楽しむのも、味わい深く面白い。

だが、やはり、「ドッキリ番組」の“華”、その“ターゲット”と言えば、“売れっ子”の人気者たちであろう。
“ドッキリ”によって、垣間見える、“売れっ子”たちの意外な一面。
愛敬たっぷりの、人間味あふれる素顔。
視聴者が見たいのはおおむね“それ”であって、けっして、慌てふためく“一発屋”の姿態などではない。

“ターゲット”となる機会が激減する一方、“ドッキリ”の装置、仕掛けの一部となる役回りは増加傾向である。
「街角に私服でたたずみ、行き交う人々に“気付かれるか”?」
「喫茶店の店員になりすまし、お客さんに“気付かれるか”?」
・・・もはや、“ウォーリー”。
その昔、流行した、「紅白縞々眼鏡」の青年。
彼からバトンを受け取ったのは、我々“一発屋”である。

“失踪”扱いでケリがつく存在

そんな我々に対して、
「最近、全く見ないな!」、「消えたな!」、「終わったな!」、「死んだか?」
SNSなどで、散見される、“極一部の方々”のつぶやき。
いくらネットで、誰かをたたいたり、“ディス”ったりした所で、自分の人生が好転するわけでもない。
何のメリットもない、無償の行為。
“当事者”さながらの熱意で、律義に悪意を振りまく、ボランティア精神に富んだ人々。
頭が下がる。

随分、御心配をおかけしているようだが・・・無理もない。
ただでさえ、少なくなったテレビ出演。
その絶好の機会に、こともあろうか、“ウォーリー”、あるいは、“隠れミッキー”状態。
彼らを見失えば、人々は必死で捜索するだろうが、“一発屋”の場合、早々に“失踪”扱いでケリがつく。
もっとも、“極一部の方々”の、その狭い視界の中にしか、我々の仕事がないわけではないので、正直、一向に構わない。
僕の世界は、彼らの住む“井戸”よりはいくぶんか広いのである。

ケーキをもらって喜ぶ髭男爵の山田ルイ53世さん
ケーキをもらって喜ぶ髭男爵の山田ルイ53世さん 出典: サンミュージック提供

久しぶりの「何なんですか、これー」

先日。
急きょ決まった仕事で訪れた、都内のスタジオ。
打ち合わせを済ませ、衣装に着替え、メイクをする。
いつもなら、何の滞りもないそのルーティンを、寸断するように、頻発する“おかしなこと”。
戸惑い、困惑、憤り・・・胸を去来するいくつかの感情。
徐々に満たされていく“コップ”。

その表面張力も限界に達し、
「あれ?もしかしてこれって・・・?」
あふれそうになるその刹那、カメラ数台を引き連れ、突入してくる“仕掛け人”。
「ちょっとちょっと!何なんですか、これーーーーー!!!」
それは、久しぶりの“ドッキリ”であった。
だまされておいて、妙な物言いになるが・・・ありがたい。

“ドッキリ”するほどの理不尽じゃない

「お疲れ様でした!」
帰り支度をする僕に、ディレクターが声をかける。
「いやいやいや!もう、びっくりしましたよー!!」
だました方も、だまされた方も、どこか誇らしげ。
不思議な仕事である。

すると、
「“あれ”は、おかしいと思いませんでした?ちょっと分かり辛かったかなー!?申し訳ない!」
突然の謝罪。
一瞬、何のことか分からず、シルクハットの中に、靴下やネクタイ、ベストなどを詰め込む作業の手を休める。
“コスプレキャラ芸人”特有の大荷物。少しでもコンパクトに収納するための知恵。
そんなことはどうでもいい。
しばし考え込んだ後・・・背筋が凍りついた。

詳細は伏せるが、“あれ”とは、その日の“ドッキリネタ”の一つで、「髭男爵が、理不尽な目にあう」というもの。
眉をひそめ、不満げなため息を一つ・・・それくらいの“リアクション”はあってしかるべき所である。
なのに、僕は無反応。

いや、気付いてはいた。
気付いていながら、僕の“脳”は、それを“おかしなこと”と認識しなかったのである。
「そんなの、“ドッキリ”するほどの理不尽じゃない・・・いつものことだ・・・」
門前払い。結果、完全なるスル―。

重なり合う“ドッキリ”と“現実”

そう、実際、理不尽は、“一発屋”にとっていつものこと、“日常茶飯事”である。
冒頭で書き連ねた数々のトピックス・・・あれは、“ドッキリ”の“過去ログ”ではない。
“一発屋”という病の諸症状、理不尽や“失礼”、すなわち、「雑な扱いを受ける」、その“カルテ”の一部である。
全てが実体験・・・実話なのだ。
 
苛酷な現実に打たれ過ぎたか。
網膜剥離のボクサー
伸びきったゴム。

とにかくである。
“ドッキリ”と、“現実”という、二つの世界。
本来、同時には存在し得ない、もしもの世界・・・“パラレルワールド”。
それが、今や、ゆっくりと重なり合い、お互いを侵食しはじめた。
“現実”には“ドッキリ”の、“ドッキリ”には“現実”の風味、スパイスが加わり、新たな“一皿”が生まれる。
だが、僕にはもう、その味の違いを感じることは出来ない。

東京タワーの前で「ルネッサ~ンス!」
東京タワーの前で「ルネッサ~ンス!」 出典: サンミュージック提供

2組の芸人に水1本、ドッキリの突入は…

増える一方の理不尽。その根本、“震源地”の記憶。
数年前。
とあるショッピングモールで催されたお笑いイベント。
“髭男爵”と“ヒロシ”。2組の“一発屋”による地方営業。

この手の営業の楽屋には、通常、ちょっとしたお菓子や飲み物、そして弁当が用意されている。
しかし、その日は何もなかった・・・水の“1本”以外は。
机の上に、無造作に置かれた、500mlのペットボトル。
砂漠なら、殺し合いである。

誰もそのことを話題にしなかったし、水を手に取ることもなかった。
そうしたが最後、まだかろうじて分岐している未来、揺れている確率が、“一本化”され、“固定”される。
おそらく、「我々にとって好ましくない方」に。

“ドッキリ”であれば、いずれ、誰かが突入してくる。
このどうしようもない現状に、終止符を打ちに。
しかし、この人生・・・どうやら、ただの現実のようなのだ。

     ◇
やまだ・るい53せい 本名・山田順三。兵庫県出身。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる。2015年8月、真の一発屋芸人を決定する「第1回 一発屋オールスターズ選抜総選挙 2015」で最多得票を集め、初代王者に選ばれた。自身の経験をまとめた『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版。ラジオ番組「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)などに出演中。

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