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コラム

髭男爵「一発屋」のプライド SNSに心ざわめき、今日も地方営業へ

「一発屋」山田ルイ53世さんは、SNSのエゴサーチに心をざわめかせながら、今日も日本全国を巡っています。強烈に時代を彩った芸人たちの「その後」とは?

「一発屋」として地方を営業する髭男爵。この日の会場は「ジョイマン」の2人も営業をしていた「ボートレース下関」
「一発屋」として地方を営業する髭男爵。この日の会場は「ジョイマン」の2人も営業をしていた「ボートレース下関」

目次

 仕事場は都内のスタジオではなく地方の営業先。「一発屋」山田ルイ53世さんは、SNSのエゴサーチに心をざわめかせながら、今日も日本全国を巡っています。「一発屋は人生のしおり」。強烈に時代を彩った芸人たちの「その後」について、寄稿してもらいました。

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【髭男爵の一発屋漂流記1】旬ではないもの代表「月収ネタ」「明日いける?」
【髭男爵の一発屋漂流記2】芸人たちのプライド SNSに心ざわめき地方営業へ
【髭男爵の一発屋漂流記3】自分のいない特番眺める正月、蘇る引きこもりの日々
【髭男爵の一発屋漂流記4】弁当なし・楽屋がトイレ…ドッキリな日常
「一発屋」を自称する山田ルイ53世さん
「一発屋」を自称する山田ルイ53世さん

一発屋芸人が集った奇跡の食事会

少し前の話になるが、「一発会」なるものが開かれた。

文字通り、世間から“一発屋”と呼ばれがちな芸人達が一堂に会し、その親交を深める食事会である。

発起人である、HG、小島よしおを筆頭に、テツandトモ、ダンディ坂野、スギちゃん、小梅太夫、レギュラー、天津・木村、ジョイマン、ゆってぃ(敬称略)・・・他にも数多くの“一発屋芸人”がそこに集った。

それぞれが、強烈に時代を彩った芸人達。

「大学に合格した!」とか、「結婚した!」とか、「子供が産まれた!」とか、人がその人生を振り返る時、「そういえば、“あの年”は、“あの芸人”の、“あのギャグ”が流行ってたな~!」と、人々の記憶に常に“寄り添って”いる、言うなれば、"人生のしおり”のような存在。

それが“一発屋”である。

レイザーラモンHGさんと、小島よしおさん
レイザーラモンHGさんと、小島よしおさん 出典: 朝日新聞

誰一人、タクシーなど止めなかった

大いに盛り上がった会も終了し、店から通りに出て、家路につく。

自分もその場にいたので、こういう言い方は少し口幅ったくなってしまうが・・・実に豪華な面子。

なかなか見れるものではない…あれだけの数の“タレントさん”が、一斉に“地下鉄”に吸いこまれていく光景は。

誰一人、タクシーなど止めなかった。

稼ぎがないわけではない。皆、それぞれたくましく仕事をしている。

芸能界という大海の怖さを知り尽くした、本物の海の男達の流儀。

ぽっかりと口を開けた、メトロの地上口に、次々と飲み込まれていく男達の背中を見つめながら、「束の間の、地上での“宴”を楽しんだ後、日が昇る前に、住み家へと帰っていく、“地底人類”」・・・そんな悲しい物語が僕の頭をよぎった。

ちなみに、この会は、キッチリ二時間でお開きとなった。

「もう一軒いこうよ!」とは、誰も言わなかった。

「テツandトモ」の2人と、ダンディ坂野さん
「テツandトモ」の2人と、ダンディ坂野さん 出典: 朝日新聞

我々の“職場”はテレビ局にはない

「一発屋」の朝は早い。

我々の“職場”は、都内のスタジオ、つまり“テレビ局”にはない。

そこは“売れっ子”で、すでに満席。

結果、我々の職場は、東京から遥かかなたの地点、すなわち“地方”となりがちである。

俗にいう、“地方営業”というやつだが、自然、起床時間も早くなる。

毎日というわけではないが、朝四時起きなんて日も少なくない。

もはや、築地で働いているかのような生活サイクル。

毎月、“東海道中膝栗毛”顔負けの移動が幾度となくある。

秋田に行って、“なまはげの着ぐるみ”と一緒に“しょっつる焼きそば”なるものを売り捌く日もあれば、静岡のス―パ―の店頭でお客さんに、ひたすらフランスパンを配る日もある。

はたまた、沖縄で、初対面の新郎新婦の結婚披露宴に登場し、「ルネッサ~ンス!!」と乾杯の音頭をとって帰る日も。


止めときゃいいのに、ついついSNS

移動時間が長いため、読書をしたり、何か作業をしてみたり、時間を有効に使おうと努力するのだが、そこは凡人。

止めときゃいいのに、ついついSNS等を覗いてしまう。

“エゴサーチ”というやつだが、そこには、色々な“声"が飛び交っている。

好意的な“声”も勿論多い。

が、思わず目に止まってしまうのは、やはり、“悪意”が込められた“声”である。

極一部ではあるが。

「悪貨は良貨を駆逐する」・・・人間の心模様もしかり。

スーパーで開かれた「元気です!一発屋の豪華三連発」ステージの看板
スーパーで開かれた「元気です!一発屋の豪華三連発」ステージの看板

「髭男爵消えた」「面白くない」

今からまさに訪れる、イベント会場周辺に暮らす若者が、

「今日、髭男爵が、俺の地元に来るらしい・・・こんな“ど田舎”にまで来ないと仕事がないなんて・・・終わってるな!」とつぶやく。

自分の“故郷”を犠牲にしてまで、我々を“ディスろう”とするそのモチベーションは一体どこから来るのか。

「今日、髭男爵が○○に来ているらしい・・・あたしは行かないけど!」

“髭男爵などには興味がないあたし”を“わざわざ”アピールすることで、自分の属する小さな社会で、一目置かれたい・・・よくいるタイプではある。

“肉を切らせて骨を断つ”かたちとなって無念だが、そもそも“髭男爵ごとき”をスルー出来た程度のお手柄で、評価が上がるような、そんなしょうもない友人達とは、今すぐに縁を切った方がいい。

「君が駄目になるよ?」と言ってあげたい。

他にも、「髭男爵消えた」とか「面白くない」とか、随分とお手軽に言ってくれる、その極一部の方々に問いたいのである。

「はたして君達は、我々に向ける、その“根拠、実績のない上から目線”を、自分自身の人生に向ける勇気があるのか?」と。

髭男爵の2人による地方営業の日々。「一発屋」の朝は早い
髭男爵の2人による地方営業の日々。「一発屋」の朝は早い

これはもう「指名手配の逃亡犯」

「そんなの“有名税”だから仕方がない」という人もいる。

しかし、少なくとも僕は、そんな高い“税金”を払わなければならないほど、その意味での“収入”や“優遇”もない。

“顔”や“存在”が知れ渡っており、心ない言葉をぶつけられる・・・これはもう「指名手配の逃亡犯」となんら変わりがないのである。

“毎日テレビで見るような人”は、“毎日テレビ局にいる”

いずれにせよ、この手の不満はお門違いも甚だしい。

毎日テレビで見るような“売れっ子”が自分の住む町に来て欲しい・・・それは理解できる。

が、少し考えれば分かることだ。

“毎日テレビで見るような人”は、“毎日テレビ局にいる”のだ。

あなたの町には来ない。

少なくとも、“売れっ子”は、あなたがいつも買い物をするお店で、フランスパンを配ったりはしない。

語弊を恐れず言うなら、詰まるところ、“営業”とはそういうものだ。

髭男爵で我慢して欲しいのである。

今日も日本のどこかで「ルネッサ~ンス!」を披露している髭男爵
今日も日本のどこかで「ルネッサ~ンス!」を披露している髭男爵

夜空を見上げる。そこには、瞬く星々。

僕達の目に、その光が届く頃、何万光年も離れたその星は、すでにもうそこにはない。

“あなたの町”に“スター”が訪れる頃には、“テレビの世界”には彼らはもういないのである。

そうして、仕事を終え、家に帰ると、家族はもう寝静まっている。

妻が作った手料理をレンジで温めて飯を食い、風呂に入り、綺麗な無菌状態になってから娘の寝顔を見て寝る。

「今世はもうこれでいいのかもしれない」と思う瞬間もあるが、なにせ、生来、妬み嫉みの激しい人間で、厄介なことに上昇志向だけは人一倍ある。

ましてや、来世、また人間に生まれ変われるほどの善行も、振り返ってみると積んでいないようなので、もう少し頑張ってみるしかない。

     ◇
やまだ・るい53せい 本名・山田順三。兵庫県出身。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる。2015年8月、真の一発屋芸人を決定する「第1回 一発屋オールスターズ選抜総選挙 2015」で最多得票を集め、初代王者に選ばれた。自身の経験をまとめた『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版。ラジオ番組「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)などに出演中。

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