コラム
髭男爵「一発屋」のプライド SNSに心ざわめき、今日も地方営業へ
「一発屋」山田ルイ53世さんは、SNSのエゴサーチに心をざわめかせながら、今日も日本全国を巡っています。強烈に時代を彩った芸人たちの「その後」とは?
コラム
「一発屋」山田ルイ53世さんは、SNSのエゴサーチに心をざわめかせながら、今日も日本全国を巡っています。強烈に時代を彩った芸人たちの「その後」とは?
仕事場は都内のスタジオではなく地方の営業先。「一発屋」山田ルイ53世さんは、SNSのエゴサーチに心をざわめかせながら、今日も日本全国を巡っています。「一発屋は人生のしおり」。強烈に時代を彩った芸人たちの「その後」について、寄稿してもらいました。
少し前の話になるが、「一発会」なるものが開かれた。
文字通り、世間から“一発屋”と呼ばれがちな芸人達が一堂に会し、その親交を深める食事会である。
発起人である、HG、小島よしおを筆頭に、テツandトモ、ダンディ坂野、スギちゃん、小梅太夫、レギュラー、天津・木村、ジョイマン、ゆってぃ(敬称略)・・・他にも数多くの“一発屋芸人”がそこに集った。
それぞれが、強烈に時代を彩った芸人達。
「大学に合格した!」とか、「結婚した!」とか、「子供が産まれた!」とか、人がその人生を振り返る時、「そういえば、“あの年”は、“あの芸人”の、“あのギャグ”が流行ってたな~!」と、人々の記憶に常に“寄り添って”いる、言うなれば、"人生のしおり”のような存在。
それが“一発屋”である。
大いに盛り上がった会も終了し、店から通りに出て、家路につく。
自分もその場にいたので、こういう言い方は少し口幅ったくなってしまうが・・・実に豪華な面子。
なかなか見れるものではない…あれだけの数の“タレントさん”が、一斉に“地下鉄”に吸いこまれていく光景は。
誰一人、タクシーなど止めなかった。
稼ぎがないわけではない。皆、それぞれたくましく仕事をしている。
芸能界という大海の怖さを知り尽くした、本物の海の男達の流儀。
ぽっかりと口を開けた、メトロの地上口に、次々と飲み込まれていく男達の背中を見つめながら、「束の間の、地上での“宴”を楽しんだ後、日が昇る前に、住み家へと帰っていく、“地底人類”」・・・そんな悲しい物語が僕の頭をよぎった。
ちなみに、この会は、キッチリ二時間でお開きとなった。
「もう一軒いこうよ!」とは、誰も言わなかった。
「一発屋」の朝は早い。
我々の“職場”は、都内のスタジオ、つまり“テレビ局”にはない。
そこは“売れっ子”で、すでに満席。
結果、我々の職場は、東京から遥かかなたの地点、すなわち“地方”となりがちである。
俗にいう、“地方営業”というやつだが、自然、起床時間も早くなる。
毎日というわけではないが、朝四時起きなんて日も少なくない。
もはや、築地で働いているかのような生活サイクル。
毎月、“東海道中膝栗毛”顔負けの移動が幾度となくある。
秋田に行って、“なまはげの着ぐるみ”と一緒に“しょっつる焼きそば”なるものを売り捌く日もあれば、静岡のス―パ―の店頭でお客さんに、ひたすらフランスパンを配る日もある。
はたまた、沖縄で、初対面の新郎新婦の結婚披露宴に登場し、「ルネッサ~ンス!!」と乾杯の音頭をとって帰る日も。
山口着。
#髭男爵 pic.twitter.com/lng3hbT6Mf
— 髭男爵 山田@ヒキコモリ漂流記 重版決定 (@higedanshakuY53) 2015, 11月 23
移動時間が長いため、読書をしたり、何か作業をしてみたり、時間を有効に使おうと努力するのだが、そこは凡人。
止めときゃいいのに、ついついSNS等を覗いてしまう。
“エゴサーチ”というやつだが、そこには、色々な“声"が飛び交っている。
好意的な“声”も勿論多い。
が、思わず目に止まってしまうのは、やはり、“悪意”が込められた“声”である。
極一部ではあるが。
「悪貨は良貨を駆逐する」・・・人間の心模様もしかり。
今からまさに訪れる、イベント会場周辺に暮らす若者が、
「今日、髭男爵が、俺の地元に来るらしい・・・こんな“ど田舎”にまで来ないと仕事がないなんて・・・終わってるな!」とつぶやく。
自分の“故郷”を犠牲にしてまで、我々を“ディスろう”とするそのモチベーションは一体どこから来るのか。
「今日、髭男爵が○○に来ているらしい・・・あたしは行かないけど!」
“髭男爵などには興味がないあたし”を“わざわざ”アピールすることで、自分の属する小さな社会で、一目置かれたい・・・よくいるタイプではある。
“肉を切らせて骨を断つ”かたちとなって無念だが、そもそも“髭男爵ごとき”をスルー出来た程度のお手柄で、評価が上がるような、そんなしょうもない友人達とは、今すぐに縁を切った方がいい。
「君が駄目になるよ?」と言ってあげたい。
他にも、「髭男爵消えた」とか「面白くない」とか、随分とお手軽に言ってくれる、その極一部の方々に問いたいのである。
「はたして君達は、我々に向ける、その“根拠、実績のない上から目線”を、自分自身の人生に向ける勇気があるのか?」と。
「そんなの“有名税”だから仕方がない」という人もいる。
しかし、少なくとも僕は、そんな高い“税金”を払わなければならないほど、その意味での“収入”や“優遇”もない。
“顔”や“存在”が知れ渡っており、心ない言葉をぶつけられる・・・これはもう「指名手配の逃亡犯」となんら変わりがないのである。
いずれにせよ、この手の不満はお門違いも甚だしい。
毎日テレビで見るような“売れっ子”が自分の住む町に来て欲しい・・・それは理解できる。
が、少し考えれば分かることだ。
“毎日テレビで見るような人”は、“毎日テレビ局にいる”のだ。
あなたの町には来ない。
少なくとも、“売れっ子”は、あなたがいつも買い物をするお店で、フランスパンを配ったりはしない。
語弊を恐れず言うなら、詰まるところ、“営業”とはそういうものだ。
髭男爵で我慢して欲しいのである。
夜空を見上げる。そこには、瞬く星々。
僕達の目に、その光が届く頃、何万光年も離れたその星は、すでにもうそこにはない。
“あなたの町”に“スター”が訪れる頃には、“テレビの世界”には彼らはもういないのである。
そうして、仕事を終え、家に帰ると、家族はもう寝静まっている。
妻が作った手料理をレンジで温めて飯を食い、風呂に入り、綺麗な無菌状態になってから娘の寝顔を見て寝る。
「今世はもうこれでいいのかもしれない」と思う瞬間もあるが、なにせ、生来、妬み嫉みの激しい人間で、厄介なことに上昇志向だけは人一倍ある。
ましてや、来世、また人間に生まれ変われるほどの善行も、振り返ってみると積んでいないようなので、もう少し頑張ってみるしかない。
◇
やまだ・るい53せい 本名・山田順三。兵庫県出身。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる。2015年8月、真の一発屋芸人を決定する「第1回 一発屋オールスターズ選抜総選挙 2015」で最多得票を集め、初代王者に選ばれた。自身の経験をまとめた『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版。ラジオ番組「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)などに出演中。
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