連載
#36 小さく生まれた赤ちゃんたち
母乳バンク「内容を知っている」は3割弱…医師「安全性を周知する」
「ドナーミルク」について知らない人ほど「抵抗感」を持っているという結果に
母乳バンクについて「言葉も内容も知っている」と答えたのは27.9%ーー。ベビー用品メーカーの調査で、母乳バンクの認知度が直近3年間でほぼ横ばいになっていることが分かりました。仮に自身の赤ちゃんへ、寄付された母乳「ドナーミルク」を使う必要があると判断された場合でも、「抵抗を感じる」という声が54.5%ありました。関係者は「引き続き安全性を説明していく」と話しています。
母乳バンクは、早産などで1500g未満で小さく生まれ、なんらかの事情でお母さんの母乳が得られない赤ちゃんのために、ほかの母親から寄付された母乳(ドナーミルク)を提供しています。
1500g未満で生まれた赤ちゃん「極低出生体重児」は、腸など様々な器官が未熟です。より早く小さく生まれるほど、命の危険や感染症、病気のリスクが高くなります。
十分な体重で丈夫に生まれた赤ちゃんは、牛乳由来の粉ミルクや液体ミルクを問題なく消化吸収できますが、小さく生まれた赤ちゃんは成分をうまく消化できず、負担になってしまいます。
母乳を与えた場合、ミルクと比べて、腸の一部が壊死(えし)する「壊死性腸炎」にかかるリスクを3分の1に減らす効果があるそうです。
ベビー用品大手のピジョン(東京都中央区)が2024年6~7月、プレママとプレパパ、3歳未満の子どもを持つママ、パパ(いずれも20~49歳)の計1032人にインターネット調査をしました。
ピジョンは、2020年から日本母乳バンク協会の支援を開始。「日本橋母乳バンク」はピジョン本社の1階に開設されています。
調査では、プレママ258人とママ258人の計516人の回答を分析。母乳バンクについて、「言葉も、内容も知っている」が27.9%、「言葉を聞いたことがある」が39.9%でした。いずれも、過去3年間でほぼ横ばいです。
属性別では、「言葉も、内容も知っている」と回答したママは31.0%だったのに対し、プレママでは24.8%と、約6ポイント差がありました。
「言葉を聞いたことがある」でも、ママが43.0%に対してプレママは36.8%で、出産前の認知度の低さが明らかになりました。
認知度が低い一方で、「母乳バンクについて、どの時期までに知っておいた方が良いと思いますか」という質問には、プレママとママの計81.2%が「出産前(妊娠前・妊娠中)」と回答しました。
ピジョンによると、実際にドナーミルクを使った家族からは「事前に知っておきたかった」という声が寄せられるそうです。
〝「急な出産だったため、色々なことに気持ちも頭も追いつかず混乱した状態の中判断しなくてはならないので、少しでも事前に(ドナーミルクの)存在を知っていたかった」
「母乳があまり出ないことがショックだったので事前に(ドナーミルクについて)知っていたら心が軽かったと思う」〟
「自身の赤ちゃんが1500g未満で生まれ、医師からドナーミルクが必要と判断され利用することになった場合」を想定した質問には、54.5%のプレママ・ママが「抵抗を感じる」と回答しました。
プレパパとパパも含めた調査では、「抵抗を感じる」と回答したのは、母乳バンクの内容について知っている人で32.6%だったのに対し、母乳バンクについて知らない人は53.5%にのぼりました。
ピジョンによると、主な理由として最も多かったのは「自分以外の母乳を与えることに抵抗があるから」(48.5%)。
次いで、「母乳は血液からできているため、感染症など病気がうつる不安があるから」(17.5%)、「ドナーミルクに安全上の不安があるから」(16.2%)となりました。
自由記述では、「他の人から分泌されたものを我が子が口にすることに、少し嫌悪感がある」「産後のメンタルは不安定なため、自分から母乳が出ないことや子供を小さく産んでしまったことに対して、なんだか自分がダメな人間のように感じてしまう気がするから」といったコメントがあったそうです。
ピジョンは、「母乳バンクの認知・理解の向上がドナーミルク利用時の抵抗感低減につながると考えられる」としています。
「ご自身の母乳をあげたいという気持ちは自然なもので、とても大切な気持ちです」と担当者は話します。
一方で、「調査からは、すぐに母乳がでない・母乳を与えられない環境の場合、1500g未満の赤ちゃんには、ミルクよりも壊死性腸炎などの重い病気にかかるリスクや重症化を低減してくれる『ドナーミルク』が必要だということがまだまだ知られていない現状が見えてきた」といいます。
「感染症」への不安に関しては、低温殺菌処理や細菌培養検査を経て「無菌」となったドナーミルクのみが赤ちゃんに届くため、安全性について「引き続き伝えていきたい」としています。
日本母乳バンク協会の代表理事で小児科医の水野克己さんは、ドナーミルクは、あくまでも母親の母乳が出るまでの「つなぎ」であると説明します。
「ドナーミルクを与える前に、お母さんの乳首ににじんでくる母乳を綿棒に染みこませ、赤ちゃんの口に塗ることもできます。『母乳を諦める』ということではなく、一時的に母乳が出ないときの『つなぎ』という前向きなメッセージを伝えていきたいです」
さらに、安心してドナーミルクを使ってもらうために、「しっかりとしたエビデンスを含めて、判断材料になるような情報がまとまったパンフレットを今後出す予定です」と話します。
「ドナーミルクを使うことが、お子さんの未来をどのようにいい方向に変えるのか、引き続き周知していきたい。安全性に関しても、根拠をもとに説明していきます」
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