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#12 withnews10周年

そのモヤモヤ、根源にあるのは「不快感」 相談するときに大切なのは

専門家ではない回答者も

10月19日に開かれたイベントで、「モヤモヤ」について語りました
10月19日に開かれたイベントで、「モヤモヤ」について語りました

目次

日々、モヤモヤすることはありますか? その思い、はき出せていますか? ポッドキャストなどで発信しているユニット「桃山商事」代表の清田隆之さんと臨床心理士のみたらし加奈さんが、10月に開かれたイベントで「モヤモヤのこれから」について語り合いました。「モヤモヤ」という抽象的な言葉をひもといていきます。

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清田隆之さん
1980年東京都生まれ。文筆業、桃山商事代表。ジェンダー、恋愛、人間関係、カルチャーなどをテーマに様々な媒体で執筆。朝日新聞beの人生相談「悩みのるつぼ」では回答者を務める。

みたらし加奈さん
1993年東京都生まれ。臨床心理士。大学院卒業後、総合病院の精神科に勤務。現在は国際心理支援協会に勤務しながら、朝日新聞デジタルRe:Ronの連載「みたらし加奈の味方でありたい」で回答者を務める。

水野梓(ファシリテーター)
朝日新聞withnews編集長・記者。1985年茨城県生まれ。2008年入社。大分総局、新潟総局、大阪編集センター、科学医療部、メディアデザインセンターを経て現職。

「モヤモヤ」って何?

水野:テーマは「モヤモヤのこれから」です。withnewsはこれまで「モヤモヤ」をテーマにした記事をたくさん書いてきました。

例えば「排除ベンチ」。ホームレスの人たちが寝そべったり滞在したりしないよう〝排除〟するアートやベンチの広がりについての連載です。

そのほか、仕事と子育てのはざまで悩む父親にフォーカスした「父親のモヤモヤ」。SNSで話題になった「息子とデート」というワードから考える親子関係などを取材して記事にしてきました。

「モヤモヤ」と言っても、様々な捉え方があると思います。おふたりが向き合ってきた「モヤモヤ」はどのようなものですか?

清田:「モヤモヤ」というのは、「んん?」と思ったり、受け流しづらかったりする感覚のことで、日常のあちこちにあるものだと思います。

僕の場合、大きなモヤモヤと向き合ってきたというより、日常のモヤモヤ、例えば、Instagramに流れてくる投稿などを見てモヤモヤが訪れる感じですね。

みたらし:「モヤモヤ」というとかわいく聞こえますが、個人的には〝不快感〟なのではないかと思っています。

人間は〝快〟と〝不快〟が感情の成り立ちの前に生まれてくるものと言われています。その感情になる前の〝不快感〟のようなものが、いわゆる「モヤモヤ」です。

私たちはその不快感をモヤモヤとして受け取った上で言語化できない場合もありますし、あるいは言語化できる場合もあるし、よく分からないもののように感じてしまいます。

根源にある不快感にはグラデーションがあって、我慢できる不快感もあれば、我慢できない不快感もあるのかなと思いました。
 

モヤモヤの言語化は難しい

水野:モヤモヤは言語化が難しい方もいらっしゃいますか?

みたらし:いると思います。感情ですら言語化できない方が多いのに、感情になる前の原始的な快・不快、モヤモヤを言語化するのはさらに難しいのではないでしょうか。

少し知識的な話になってしまいますが、喜びが一次感情であるのに対して、怒りは二次感情(何らかの感情・一次感情が発生したあとに生じる感情のこと)と言われています。一次感情までたどり着かないと、怒りが解体されていかないんですよね。

無理に解体する必要もありませんが、解体したいときは一次感情を見つけなければいけない。でも、自分がなぜ怒っているのか。寂しいから、悔しいから、不甲斐ないからなど複合的に合わさっているものをすべて言語化できるわけではありません。

水野:カウンセリングにいらした方で、自分のつらさなどを説明しづらい方はどうするのでしょうか?

みたらし:人によって異なりますが、例えば、「その場では話せないからお手紙を書いてきてもいいですか?」と言われる方もいらっしゃいますし、メモのようなものを書き合って2人で筆談する場合もあります。

私は芸術療法が専門なので、風景構成法という、今の自分の気持ちを絵で表現するというコミュニケーションを取ることもあります。
 
朝日新聞デジタルRe:Ronの連載「みたらし加奈の味方でありたい」
朝日新聞デジタルRe:Ronの連載「みたらし加奈の味方でありたい」 出典:朝日新聞デジタル

「聞く」と「聴く」

水野:清田さんの場合は、相談を受けるとなるとおたよりが一番多いのでしょうか?

清田:直接聞くこともありますが、「悩みのるつぼ」はおたよりです。

テキストの場合、追加質問ができません。書かれてあることがすべてなので、深読みしようとはせず意味通りに読みます。

「悩みのるつぼ」では、「この人は今こういう状態なのだろう」ということを「現在地」と表現しています。

その上で、「ここから先は想像になりますが」と話を展開していくことはあります。書かれている内容をきちんと意味通りに捉えることは大事ですよね。

水野:相手の意図を読み取るのは大変ではありませんか?

清田:そうですね。臨床心理の世界では当たり前のことかもしれませんが、臨床心理士の東畑開人さんが、「きく」という字を、門構えに耳の「聞く」と、耳編の「傾聴する」の「聴く」に分けて捉えていました。

「聞く」は文字通りに聞く。行間を読んだり奥にある感情を読み取ったりするのが「傾聴」の「聴く」だと。

奥深そうなのは「聴く」ですが、まずはその言葉通りに「聞く」ことが大事というようなことを著書に書かれていました。

みたらし:確かにそうだと思います。みなさんおそらく「聴く」のほうでやろうとしますが、結局は自分のバイアスがかかってしまう。まずは「聞く」が大事です。

水野:私も「聞く」つもりでいるのに自分の考えをバシバシ入れて、そのまま聞けていないことは結構ある気がします。
 
朝日新聞の連載「悩みのるつぼ」
朝日新聞の連載「悩みのるつぼ」 出典:朝日新聞デジタル

増える〝お悩み相談コンテンツ〟

水野:おふたりに聞いてみたかったのが、最近のお悩み相談コンテンツについてです。個人のSNSでも相談を受けつけるサービスがありますし、コンテンツがすごく増えていると思います。

YouTubeやポッドキャストでも視聴者やリスナーの方からのおたよりを受けて相談に乗ることが多くなっていると感じます。コンテンツ化の流れをどう捉えていらっしゃいますか?

清田:ショート動画でも視聴者から来た声に答えるコンテンツがたくさんありますね。

向こうからやってくるお題に打ち返すだけですから、作りやすいのだと思います。

ただ、人生相談はずっと昔からあるコンテンツです。それ自体は新しい現象でもなく普遍的なコンテンツで、人々の些末なモヤモヤとか、今までは全然取り上げられなかったものが、SNSやメディアが多様化することで見えてきたのはすごくいいと思うんですよ。

水野:ずっとニーズがあるということでもありますもんね。

清田:ただ、「モヤモヤ」などひとつのフレーズが流通すると、今度はその反動のようなエネルギーが生まれてしまうとは思います。

「モヤモヤ」というフレーズが誰かの気に障るくらい広まったから、「モヤモヤってよく聞くけどどうなの?」となったんじゃないかな、と。しかし、そこには負けないでどんどんモヤモヤを言っていこうという気持ちはあります。

連続テレビ小説「虎に翼」では「はて?」という言葉がありましたが、あれだって「モヤモヤ」と同じことですよね。

水野:心の引っ掛かりですもんね。「はて?」というのは。
 

回答者の資質が問われる

清田:いろんな言葉でひっかかりや不快感、言語化や感情未満の感覚を外に出せるのはいいことだと思います。

一方、回答する側がどのようなことを伝えるのか。言い切ったり、あおってしまったり、専門家でもないのに軽率な助言をしてしまったり、そこに問題はあると思うので難しいですよね。

みたらし:本当におっしゃる通りです。モヤモヤがコンテンツ化されて、いろんな人が自分の思いを吐露できるようになるのは私もすごくいいことだと思います。

共感できる人同士で支え合うことが日本では意外と足りないので、ピアサポートのような文脈でSNS上でも広まっていくといいなぁと。

その一方で、清田さんが指摘された通り、回答する側の〝暴力性〟を忘れてはいけないと思います。

特に文字媒体での質問への回答は、相談者さんが反論できません。回答者がものすごく力を使って想像して答えていく必要がありますが、多くの人がそれをできているかというと、言い切ってしまったり、決めつけてしまったり、自己責任論のように回答してしまったりするケースもあると思います。

カウンセリングはSNSにあふれているお悩み相談と同じことをしていると思われやすいんですよ。聞いてるだけのように捉えられてしまう。

「カウンセリング」は名称独占ではなく誰でも使える言葉なので、臨床心理士・公認心理師ではなくても使えてしまうんですよね。

水野:うーん。なるほど。

みたらし:あいまいなものなので、やはり専門家に相談したほうがいいこととそうでないことの線引きは、回答する側も、相談を投げる側も判断できるようになるといいなと思いますね。
 

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