ネットの話題
ここはなんのお店? 「カレーと国語」の不思議な看板が話題に
どういうことなんだ――。東京都豊島区のあるお店の看板がSNSで話題になっています。看板には「グリーンカレー&国語教室M」の文字が。どんなお店なのか、実際に訪ねてみました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
東京メトロ副都心線の要町駅から徒歩5分ほどのところに、話題のお店はあります。
グリーンカレーと国語教室という組み合わせに、SNS上では「カレーを食べながらの日本語教室?」など、どんなお店なのか推測する投稿もありました。
お店に取材を申し込み、実際に訪ねてみました。
午前11時半の開店直後に店に入ると、すでに記者の他にひとりのお客さんがいました。
店主の保科雅之さんが1人で接客と調理をしているそうです。
メニューはグリーンカレー(1100円)のみ。
営業は昼だけで、1日約15食限定だそうです。
「うちはグリーンカレー1択でやっています。プラス200円でご飯に半熟オムレツを乗せることもできます」
せっかくなので、オムレツも頼むことにします。
カレーを待っている間にも、お客さんが続々とやってきました。
「お待たせしました。グリーンカレーです」
チキンとシメジが入ったルウは、ココナッツミルクのまろやかさを感じる一方で、スパイスが効いていてしっかり辛さもあります。
かなり本格的なグリーンカレーです。
美味しいカレーでしたが、「国語教室」要素はどこにあるのでしょうか。
実はこのお店、夕方になると別の顔を見せます。
午後7時半すぎ。
再びお店を訪ねると、中学生が3人、ノートを広げて客席に座っていました。
視線の先には保科さん。
ホワイトボードに何かを書きながら、生徒たちに向かって話しています。
「俳句には季語が必要だと言ったけど、例外もあるんだ。『いれものがない両手でうける』なんて、季語もないし、五七五でもないよね」
保科さんの呼びかけに、何かを思い出したように中学生のひとりが反応します。
「それ聞いたことある。自由律俳句だ」
実はこのお店、夕方からは学習塾として営業しており、保科さん自ら小中学生に勉強を教えています。
講師は保科さん1人、教える科目は国語だけ。この日は中学1年生のクラスでした。
「勉強部屋よりもリビングで勉強する方がはかどるという子もいる。そんな子がリラックスして勉強できる塾にしたい」
そんなコンセプトで運営している塾の授業は、保科さんが講義しているというよりも、生徒たちと会話しているように進んでいきます。
「受験テクニックばかりを詰め込むのではなく、時に雑学的な話も交えながら教養を身につけてもらいたい。知識が多いほど文章を読んだ時に具体的なイメージがしやすくなり、読解力も高まる」と保科さんは話します。
学習塾で15年ほど講師として働いていたという保科さん。
約4年前、独立して自分の塾を持つ準備をしていましたが、ある問題があったそうです。
「学習塾って、生徒が来ない昼間はお店のスペースを生かせないんですよね。その時間を有効に使えないだろうかと考えていました」
そんな時、毎日のように通っていた銀座のグリーンカレー専門店が閉店することを知ったそうです。
「オーナーにレシピをもらえないか相談したら、『ただのお客さんには教えるつもりはありません。もし、ご自分でお店を構えるつもりがあるのならお教えします』と言われたんです」
この時、昼間はグリーンカレー、夕方は学習塾というスタイルのお店でやっていくことを決めたという保科さん。
もらったレシピを元に1カ月ほど試行錯誤を続け、2020年5月、オープンにこぎ着けました。
「グリーンカレー&国語教室M」のアルファベットは、保科さんの名前の「雅之」と閉店した店のイニシャルがともに「M」だったことからつけたそうです。
メニューはグリーンカレーだけ、教える科目は国語だけと、一点に特化した営業スタイルの理由を、保科さんはこう話します。
「1人でやっている店なので、あれもこれもとはいきません。できないことはやらない。できることを磨いていくスタイルでやっています」
開店から4年。今では常連のお客さんも増え、塾の方も募集枠がすぐに埋まるようになってきたそうです。
今でも「どんな店なのか気になって」と看板に興味を引かれてやってくるお客さんも少なくないそうです。
来客増に対応するためもっと多くのカレーを用意することも考えたそうですが、一度にたくさん作ろうとすると作業が滞ったり、カレーの味が変わってしまったりすることがあるため、断念したそうです。
看板が話題になったことについて「宣伝が得意ではないので、SNSなどで取り上げてもらえるのはとてもありがたいことです」と保科さん。
今後のお店の経営については「派手なことはせず、細く長くやっていけたらと考えています」と話しています。
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