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おそらく日本一力持ちの営業マン、世界へ ベンチプレス300キロ

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ベンチプレスで300キロを持ち上げる、「おそらく日本一力持ちの営業マン」がNTT東日本にいます。企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援の営業活動の傍ら余暇を利用してパワーリフティングで日本一になり、世界大会の出場権を獲得。世界一の営業マン兼パワーリフターをめざして努力を重ねています。
おそらく日本一力持ちの営業マンだと思われるのは、NTT東日本神奈川事業部の堀口耀介さん(32)です。今年の全日本パワーリフティング選手権大会105キロ級で優勝しました。
横浜のオフィスを訪ねました。普段はICTを活用した企業のDX支援などに取り組んでいるそうです。職場での姿からは300キロのベンチプレスを挙げる姿は想像できません。しかし、試しにジャケットを脱いでもらったところ、ワイシャツの上からでも分かる三角筋や上腕二頭筋の充実ぶりに、トレーニングの激しさを垣間見ました。
パワーリフティングは、ベンチに寝た状態でバーベルを持ち上げる「ベンチプレス」、バーベルを担いだ状態からしゃがんで立ち上がる「スクワット」、床に置いたバーベルを背筋を使って引き上げる「デッドリフト」の3種目の合計重量を競う競技です。
装備なしで行う「クラシック」と、専用の補助シャツなどを着用する「エクイップ」の2部門があります。堀口さんが優勝したのはエクイップ部門で、スクワット342.5kg、ベンチプレス275kg、デッドリフト267.5kgでトータル885kgを挙げました。
この規模の大会で優勝するのは、学生時代以来で、10年ぶりでした。「社会人になってなかなか両立が難しい中、なんとか自分をコントロールして10年ぶりに優勝できたというのは、自信になりました」。この優勝で、11月にルーマニアである「世界エクイップオープンパワーリフティング選手権大会」の出場権を得ました。
仕事と競技を両立するために重要なのは、「時間」と「疲労」の二つを計画的に管理することだといいます。「両立のためには、スケジュール管理と状況に応じた柔軟な調整が不可欠です。限られた時間をどうマネジメントしていくか。そして肉体的な疲労も精神的な疲労も含めてトータルでどのようにケアしていくかが重要だと考えています」
競技でも営業でも、常に「PDCAサイクル」を頭に置いているといいます。
競技でいえば、今の実力を踏まえた仮説として計画(Plan)を立て、実行(Do)は練習。評価(Check)されるのが大会。大会の結果を踏まえて次の目標を立てるのが改善(Action)にあたります。こうしたサイクルは、仕事と似ているといいます。
「これは本当に営業にもジャストフィットしていて、営業でも最初に仮説に基づいてお客様にご提案し、ニーズに合うのはどのようなプランなのかというアクションに向かっていく。競技で培った計画・実行・検証・改善のサイクルは、営業としてのお客様への提案活動にも直結していると実感しています」
堀口さんが競技を始めたのは高校時代。バレーボール少年でしたが、入学した高校に、たまたま「パワーリフティング部」があり、見学にいったところベンチプレスでいきなり80キロを挙げました。
「君、素質あるよ」と言われて入部しましたが、入部後の練習ではどうやっても60キロしか挙がらない。おかしいなと思っていると、実は見学時は「接待ベンチプレス」で、挙げるときに先輩が助力していたことが判明しました。
しかし、積み重ねた努力が記録という形で明確に現れるパワーリフティングの魅力にはまり、大学でも競技を継続。ジュニアの国際大会で優勝するほどの実績を残しました。
陸上競技や水泳と違い、パワーリフティングはオリンピック種目に含まれていません。ちなみに、よく間違われるのはウェイトリフティングですが、こちらはオリンピック種目。ウェイトリフティングは頭上まで一気にバーベルを持ち上げるのに対して、パワーリフティングは頭上までは持ち上げません。
パワーリフティングは他のスポーツのようにプロや実業団チームのような存在はなく、一般の学生と全く同じ土俵で就職活動を行い、2016年にNTT東日本に就職しました。
練習は仕事に左右されます。「平日は18時に退勤して19時から21時までトレーニングするのが理想」ですが、「正直、そんなにうまくいくことはあまりない」。
NTT東日本は、1カ月の基準労働時間(7.5時間×勤務日)の範囲で、個々のライフスタイルに応じて日々の勤務時間や始終業時刻を設定することができるフレックスタイム制度を導入しています。この制度を活用し、商談のない時間に練習を入れることもあるそうです。日によっては、練習が23時台にまで及ぶこともありますが、翌日の仕事に穴を開けないようケアに努めています。
日々の食事では筋肉のために大量のたんぱく質を摂取しなければなりません。プロスポーツ選手なら鶏のささみを常食するところですが、堀口さんは鶏の胸肉を愛用しています。「ささみだとちょっとお値段が高くなっちゃう。実は胸肉でもささみと同等ぐらいのたんぱく質が摂取できるので、そこはコストパフォーマンス重視でやっています」
営業先へタクシーを使わず歩いていくのも、エレベーターを使わず階段を使って出向くのも広い意味でのトレーニングだといいます。
高いパフォーマンスを維持するためには、体が発する「声」に敏感である必要があります。例えばベンチプレスで記録を出すために重要なのは、筋力は当然ながら、「肩甲骨の柔軟性」が問われるそうです。
階段を使うのは、筋トレというよりは、「体の動き具合のチェック」。「階段で少し歩幅を広げたり狭めたりして体の動きを確認し、当日のコンディションの良しあしを図っています」。交差点で立ち止まっているときには、無意識に足首の硬さを確認しています。
学生時代は週6で練習していましたが、今は3~4回です。しかし、練習の質は学生時代より上がっていて、パフォーマンスもむしろ向上しているといいます。
「週6で練習してしまうと、疲労管理が間に合わない。疲労がたまってしまうとどうしてもパフォーマンスが落ちてしまう。学生時代と比べて、肉体的な疲労に比べて精神的な疲労も増えていますが、疲労とうまくつきあう術が身についてきています。練習量は学生時代より少ないですが、質は相当上がっている自負があります」
3種目の中で、最も得意なのはベンチプレスです。現在の自己ベストは300キロ。日本記録が305.5 kg、世界記録が325.5kg。「正直にいえば、更新はなかなか難しいレベルの高い記録です。しかし、全くめざせない記録でもないと思っています」と、さらなる高みを目指していきます。
「世界大会では、種目別なら上位を狙える自信があります。ベンチプレスで世界記録を更新すれば、優勝できる可能性も出てくると思うので、メダルをめざして全力を尽くします。これからも競技だけでなく仕事においても常に挑戦を続けていきたいと思います」
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