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〝注射ぎらいのウシ〟に朗報?採血せず血液検査する新技術を開発

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採血せずに血液検査ができる。そんな注射嫌いのウシにとっては夢のような技術が開発されました。血液成分の分析で、80%以上の予測精度を実現したそうです。どうやって注射針を使わずに血液検査をするのでしょうか。研究者に聞きました。
人間の健康診断には採血がつきものですが、乳用牛や肉用牛として飼われているウシの健康管理にも血液検査は欠かせません。ウシの血液検査は「代謝プロファイルテスト」と呼ばれ、血液を分析して栄養状態や代謝のバランスを評価します。健康管理や病気の予防に有効だとされています。
検査を実施するには、ウシに注射針を刺して採血しなければなりません。大きなウシを動かないように留めておくには大変な労力がかかります。採血した血液は専用装置で分析します。費用や時間もかかるため、全てのウシが検査を受けているわけではないそうです。
これらの課題を解決するために、北里大学獣医学部の鍋西久准教授、東京理科大学先進工学部の相川直幸教授らの研究グループが、マルチスペクトルカメラを使った新手法を開発しました。
マルチスペクトルカメラは、一度に数百の異なる波長(スペクトル)の光を撮影できるカメラのことです。赤外線や紫外線のように人間の目では見えないような光も含めて、特定の波長ごとに画像を取得し、さまざまな分析に活用されます。例えば、マルチスペクトルカメラを搭載したドローンで上空から森林を撮影し、病害虫の被害に遭っている木を発見しようという試みなどが行われています。
グループは、マルチスペクトルカメラでウシのしっぽの裏側にある尾静脈付近を撮影。得られた血管の画像データから、波長に応じた複数の値に関する特徴量を取得し、人工知能による機械学習で血液成分の濃度(範囲)を推定するという手法を開発しました。
どのように血液成分の濃度を推定するのでしょうか。
例えば血液検査の項目の一つに「グルコース」がありますが、尾静脈に光を当てることでグルコース特有の波長を捉えることができます。そうすると、血管の中にあるグルコースの範囲が分かるので、そこからグルコースの値を推定できるそうです。
また、200個の波長域における吸光度(光が物質を通過した際に、どれくらい光が吸収されたかを示す度合い)のデータの組み合わせと実際の血液成分濃度との関連もAIが解析しているそうです。
測定した血液成分値のデータは携帯端末に送られ、その場で確認できます。
血液成分のうち、ウシの健康管理で重要なビタミンAやコレステロールなど12項目を測定することをめざしています。現時点において、12項目の全てで 80%以上の予測精度を実現したといいます。
グループは、この技術が実用化できれば、ウシの負担の軽減につながり、重労働だったウシの採血をしなくてよくなるため労働力不足にも対応できるとしています。また、データをWEB上で管理できるため、飼養管理の精密化にも寄与できると期待しています。
この技術は、北里大学と東京理科大学との共同で特許出願済みで、北里大学発ベンチャーの企業で、事業化に向けた検討が進められています。
鍋西さんによると、すでに、マルチスペクトルカメラのデータがスマホに転送され、12種類の血液成分値を表示するアプリのプロトタイプは出来ているそうです。
「今後、測定精度の更なる向上を図りながら、WEBプラットフォーム上にデータが蓄積されるような仕組みに仕上げます。実装の時期は来年度中を想定しています」
余談ですが、私もウシと一緒で、健康診断の採血が苦手です。せっかくなので、今回の技術は、人間の血液検査にも応用できる可能性があるのか聞いてみました。
「ヒトでは、研究レベルでの報告(論文)がありますが、普及技術ではありません。ヒトの場合、より高い精度が求められると思いますが、多くのサンプルで解析をすることができれば、可能性はあると思います」とのことでした。
この研究成果は9月に開催された日本獣医学会学術集会で発表され、講演要旨集に論文が掲載されました。
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