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ロングコートダディ、『KOC』優勝で有終の美 上位3組を振り返る

「暗転」を巧みに使う

お笑いコンビ「ロングコートダディ」の堂前透(左)と兎=2023年、大阪市北区
お笑いコンビ「ロングコートダディ」の堂前透(左)と兎=2023年、大阪市北区 出典: 朝日新聞社

目次

今月11日に『キングオブコント2025』(TBS系)決勝が放送され、ロングコートダディが第18代王者となった。彼らが優れていたものとは何か? 上位3組を中心に今大会の特徴を振り返る。(ライター・鈴木旭)

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目を引くトピックスが多い大会

昨年、ラブレターズが17回目の挑戦、5度目の決勝進出で悲願の優勝を飾った『キングオブコント』(以下、『KOC』)。今年も手練れのファイナリストたちが、多様なコントで火花を散らした。

今年決勝に駒を進めたのは、青色1号(初)、うるとらブギーズ(4年ぶり4度目)、元祖いちごちゃん(初)、しずる(9年ぶり5度目)、トム・ブラウン(初)、ファイヤーサンダー(3年連続3度目)、ベルナルド(初)、や団(4年連続4度目)、レインボー(初)、ロングコートダディ(2年連続 4度目)の10組(五十音順)だ。

ライブシーンを沸かせてきた青色1号が芸歴11年目で初の決勝進出。中堅芸人の大将とハギノリザードマンが今年1月に正式結成したコンビ・ベルナルドが早々にファイナリスト入りを果たし、しずるが9年ぶりに返り咲くなど、目を引くトピックスが多かった。

加えて、昨年2位のロングコートダディが2年連続、3位のファイヤーサンダーが3年連続、4位のや団が4年連続で決勝に進出し、常連組のネタ巧者による戦いが注目される大会でもあった。

審査員は昨年と同じく、東京03・飯塚、バイきんぐ・小峠英二、ロバート・秋山竜次、かまいたち・山内健司、シソンヌ・じろうの5名。彼らが評価するのは、初出場の勢いか、経験値の高さか。筆者が固唾をのむ中でファイナルステージへと勝ち上がったのが、ロングコートダディ、や団、レインボーだった。

では、上位3組は何が突出していたのか。審査員と本人のコメントを含めて、それぞれのネタを振り返ってみたい。

※以下、ネタバレを含みます。

「ロングコートダディ」の堂前透(左)と兎=2021年
「ロングコートダディ」の堂前透(左)と兎=2021年 出典: 朝日新聞社

女性芸人のディテールの細かさ

まずは、3位のレインボーのジャンボたかおと池田直人。彼らの強みである「女性役の池田に振り回される男性役のジャンボ」が2本のネタに集約されていたように思う。

とくに1本目の「女性芸人との合コンに戸惑いながらも魅了されていく男性」を描いたネタは、ふたりの魅力が詰まっていた。

入店して間もなく、女性芸人(池田)が「どうも初めまして。テトラポットチューリップのタカダ通天閣言います」と流暢に自己紹介すると、その勢いのまま場を回し始める。これに田中(ジャンボ)は圧倒されつつも、やり取りのうまさに感銘を受け、みるみる女性芸人の魅力にハマっていく。

後半で田中が率直に「俺と恋人という名のコンビ、組んでくれないか」と思いを口にすると、異性にはにかむ一面を見せ始めた女性芸人が「アカン」と言いながら歩み寄って行き、「うちの立ち位置こっちや」と茶目っ気を出して笑わせる展開もうまかった。

得点は464点。審査員の山内は、演技力の高さと同時に「本当に若手の芸人が持ってるスーツケース」を手に提げて登場する女性芸人のディテールの細かさ、「ちょっと関西の芸人バカにしてる感じ」が面白かったと自身の最高得点である97点をつけた。

94点と高評価したじろうも、観客にウケるためにテンポの良いやり取りばかりを意識しがちだが、「ジャンボが、その間を表情の演技とかで細かくリアリティーが出るようにつないでるところがすごい良かった」と称賛した。

SNSで「似ている」と賑わっていた通り、レインボーのふたりはカーネーション・吉田結衣が女性芸人のモデルであることを明かしている(大会終了後に配信された『キングオブコント2025 生・大反省会』(U-NEXT)より)。このリアリティーがキャラの説得力につながったのだろう。

大食いのジャンボ、メイク術に長けた池田など個々のキャラでも知られるレインボーだが、今大会で“コントあってのコンビ”であることが広く伝わったのではないだろうか。

「あと1個残すのみですよ!」

惜しくも準優勝となった、や団の本間キッド、中嶋享、ロングサイズ伊藤。ネタ2本は、どちらも彼ららしい“日常と狂気との落差”がよく出ていた。より高い評価を受けたのが、1本目の「中華料理店に現れた新規客の驚くべき言動」を切り取ったネタだ。

常連客(本間)がラーメンと餃子を注文すると、店の大将(中嶋)から「お客さんで餃子売り切れ」だと伝えられる。どうやら餃子はこの店の名物らしい。後から新規客(伊藤)がやってきて、餃子が売り切れたと知ると「(定価の)5倍出しましょう」と交渉し大将を手なずける。

これに常連客が「俺は6倍出してやるよ!」と応戦すると、新規客が「私、降ります」などとかき回し、最終的に無料で餃子を食べることに成功。その後も常連客や大将に駆け引きをふっかけ、こぼれるラーメンをYシャツでキャッチして麵をすするなど、終始狂気じみた行動を見せて会場を沸かせた。

得点は473点。審査員のじろうは、伊藤のキャラに「もともとポーカーにハマって、生計立てられなくなって家族も全員失って、町中華にきてああいう常連客をたぶらかして楽しんでる」背景が想像できて奥深さを感じたと96点の高評価。

一方で、飯塚は設定の面白さを称賛しつつも、「伊藤くんが変な人過ぎた」「もうちょっと人間味というか、その人自体の面白さが出てれば」とリアリティーの部分で減点し93点に留まった。

伊藤は『チャンスの時間』(ABEMA)や『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)などで活躍し、ラーメン好きの中嶋や格闘技好きの本間は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の企画でスポットが当たり、この4年でジワジワと個々の面白さも浸透しつつある。

前述の『大反省会』の中で、本間が「唯一の誇りとしては、2、3、4、5(筆者注:位を『KOC』決勝で)とってますんで。あと1個残すのみですよ!」と語っていた通り、来年に期待したいところだ。

無駄な言葉が1個もない

そして、今大会の頂点に立ったのがロングコートダディの堂前透と兎だ。『M-1グランプリ』3位、昨年の『KOC』、今年の『ダブルインパクト』準優勝という無冠の帝王がついに王者の座を射止めた。

1本目は、「少年が地底人のモグドンと出会い、交流を深めて去っていくまで」を追ったネタ。ある日、少年のヨウスケ(堂前)は「地上に修業にきた」というモグドン(兎)と出会い友だちになる。やがて親しくなるも、ヨウスケが“モグドンの会話が「いや」「でも」と否定から入ること”を指摘した途端、関係性に亀裂が入ってしまう物語だ。

途中、ヨウスケが「ママが言ってたことなんだけどね、(筆者注:否定から入るのは)『自信のなさの表れ』なんだって」と芯を食った言葉で追いつめたり、モグドンが地底人のイメージを払拭しようと友人に電話するも「いや」と返されてメンツ丸つぶれになったりするシーンが秀逸だった。

また前半、ふたりが仲良く暮らす日々を表現するために何度か暗転を使うシーンでも腕を見せた。昨今、ネタ中の暗転は低評価につながるイメージが強かったが、軽快なBGMとともに否定から入るモグドンの特徴をうまく見せ、審査員の小峠らを唸らせていた。

この点については、『大反省会』の中で堂前が「審査員の人、暗転嫌いなんで暗い時間を極力少なくしてください」と決勝のリハーサル中にスタッフに依頼したと語っており、万全の“暗転対策”で臨んだことが窺える。結果的に、や団と僅差の474点でファーストステージを1位で通過した。

2本目の「自信満々のロジカルな女性と、ひったくりに遭った気弱な警官」を描いたネタも抜群に面白かった。ベンチで泣く警官を励ます女性は、面倒見がいい一方でおごった態度や「言語化して」といった言い回しがいちいち鼻につく。

ブラウスを脱ぎ、「ほら、これ何かしらの罪でしょう?」とポーズを決めるのも然りだ。自分を逮捕させ警官に自信を持たせようとする言動だが、ちょっと常人には理解しがたい。そんな矢先、警官が「ありがとうございます!」と女性に発砲する。まさかの展開ではあるものの、先ほどまでの蓄積から足を撃たれアタフタする女性が滑稽に見える。

これは、ドラマや映画で腹立たしい悪役が痛手を負っても悲壮感に駆られないのと同じ原理だ。たびたび彼らのネタが「無駄な言葉が1個もない」と評されるのは、こうした緻密なキャラ設定に裏打ちされたものだろう。気弱な人間が思い切った行動をとるリアリティーもあり、5分という短い時間に立場が逆転してしまう痛快さもあった。

ロングコートダディは、このネタで471点を獲得。2位につけていたや団の合計得点937点と8点差となる945点で優勝した。

(写真左から)青色1号の上村典弘さん、榎本淳さん、仮屋想さん=スギゾー撮影
(写真左から)青色1号の上村典弘さん、榎本淳さん、仮屋想さん=スギゾー撮影

「賞レースはこれで終わり」

そのほか、青色1号は「先輩の話にうまく返せない後輩と異常に乗っかる後輩との対比」を描いたサラリーマンコントを披露し4位。「凄惨な事件を起こしたタレントの復帰に戸惑う法律バラエティーの司会者」というブラックなネタで勝負したファイヤーサンダーがこれに続いた。

しずるは「B'zの『LOVE PHANTOM』が流れる中でギャングのふたりが結党し、片方を裏切るまで」を追ったネタ、トム・ブラウンは「犬のおできが自我を持ち、困惑する飼い主」というパンチ力の強いネタを披露し、うるとらブギーズは「熱くなるほどに言い間違えるミュージシャン志望の息子と対峙する父親」のネタで会場を沸かせた。

元祖いちごちゃんは「スーパーでブリーチ剤を販売する気の抜けた潜入捜査官に振り回される一般客」という特殊な関係性のネタ、ベルナルドは自作の小道具を使った「写真館で人間とカメラとのハーフ“カメラマン”と遭遇し翻弄される男性」のネタをコミカルに演じて存在感を示した。

ファイナルステージが始まる前、審査員の飯塚が「前半けっこう洗練されてる感じはしたけど、後半別の大会みたい」「交ざって順番になってたら、もっと良かったのかもしれない」と語っていたように、後半で80点台が目立ち始めたのはネタ順による影響もあるだろう。

とはいえ、昨年に続いてトップバッターを務めたロングコートダディが優勝していることを考えると、そんな要因さえ小さなことに思えてしまう。

今年の『KOC』予選の段階で堂前は「今回の結果がどうあれ、賞レースはこれで終わり」と兎に伝えていたようだ。基本的に賞レースは若手が知名度を上げるチャンスの場で、自分たちのように芸歴を重ねた芸人が「争いに行くのはちょっと違う」と感じるようになったという(前述の『大反省会』より)。

結果的に彼らは、最後の挑戦で優勝し有終の美を飾った。

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