連載
#254 #withyou ~きみとともに~
「キミは、いたほうがいいよ」 しんちゃんの広告、8月末掲載の意図
学校からも問い合わせ
「キミは、いたほうがいいよ」
そんなメッセージが、現在公開中の映画「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜」の広告として、8月25日の朝刊に掲載されました。長期休み明けの子どもたちの心の負担にも気にかけるべきこの時期、この広告を掲載した背景について、話を聞きました。
8月25日の朝日新聞朝刊に掲載されたこの広告は、公開中のクレヨンしんちゃんの新作「しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜」のプロモーションの一貫。
しんちゃんと映画の登場人物のひとり・非理谷(ひりや)充がグータッチをする様子に重ねて、主題歌であるサンボマスターの「Future is Yours」から引用した「キミは、いたほうがいいよ」という印象的なメッセージが印字されています。
映画の公式サイトによると、非理谷充は「バイトは上手くいかず、推しのアイドルは結婚、さらには暴行犯に間違われ警察に追われ…」という役柄です。
「夏休みの終わり際、社会に流れる気分と重ねて、映画のメッセージを伝えられればと思いました」と話すのは、東宝の映画宣伝プロデューサー・近藤渉さん。
「少し鬱々とした気分のところに、前向きになれるよう背中を押すような広告にしたいと思いました」
広告を制作したCHERRYのクリエイティブディレクター青木一真さんにも話を聞きました。
青木さんの元に映画のプロモーション依頼が来たのは、1年ほど前のこと。作品を観たのは昨年9月頃でした。「最初に見た時の第一印象を大切にしよう」と、気になったセリフや、主題歌の歌詞を書き出していったといいます。
その中で、特に印象に残ったのが、主題歌のフレーズの一つ「キミは、いたほうがいいよ」だったといいます。
「とにかく心に響きました。映画のクライマックスにかけて印象的なセリフが続いていく中で、エンディング曲の中で連呼される『キミは、いたほうがいいよ』という歌詞が、映画のテーマ性を表す一つの言葉であり、広告のキャッチフレーズにもなり得ると直感的に思いました」
「サンボマスター山口隆さんの音楽の力をお借りしたということです」
キミは、いたほうがいいよ。
— しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE (@shinchan3dcg) August 25, 2023
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本日25(金)の朝日新聞に
”こんなしんちゃんみたことない”エールが
どどーんと登場‼#しん次元 の主題歌である #サンボマスター さん
「Future is Yours」の真っ直ぐなメッセージ🔥
お手に取ったらコメントで教えてください🙌… pic.twitter.com/CCS75jDJoy
印象的な歌詞の「キミは、いたほうがいいよ」をコピーとして載せた新聞広告には、その上に様々なシチュエーションを想像させる言葉が連なります。
青木さんは、「一部は非理谷くんに重ね合わせた言葉にしましたが、全体のバランスとして(受け手の)年代や立場を限定しないように留意した」といいます。
また、言葉選びの工夫として「重たくしたくなかった」(青木さん)。
たとえば、「学校に行きたくなくても」という言葉は「不登校」とも言い換えが可能です。ですが、青木さんは様々な言葉を検証する中で、「あまり踏み込み過ぎた言葉だと、温度感として行きすぎているのではと思った」といいます。
「映画自体はやっぱりエンターテインメントで、そこで重苦しい言葉を使うのはふさわしくない」という思いと同時に、受け手への配慮もあったといいます。
「もしシリアスな言葉ばかりが並んでいると、(それを見聞きした当事者は)逆に嫌な気持ちになるというか、傷つくこともあるかもしれないと思った」
映画プロデューサーの吉田有希さん(シンエイ動画)も、青木さんの言葉選びに共感したといいます。
「映画のキーワードとしては『頑張れ』もありますが、それは映画の文脈の中では伝わるかもしれないけど、広告としては強すぎる言葉になってしまう」
「そうではなく、もう少し寄り添った言葉で、どんな映画なのかがより広く伝わる形にしてもらえたなと思っています」
「クレヨンしんちゃん」は1990年に「Weekly漫画アクション」(双葉社)で連載が始まり、1992年からはテレビアニメでの放送開始。30年以上の歴史があります。
吉田さんは「ファミリー層はもちろん、しんちゃんを観て大人になった方にも届いてほしいという思いで映画をつくっていた」といいます。
そんなしんちゃんは、しんどさを抱える人たちにとってどのような存在であって欲しいかを聞くと、吉田さんは「エンターテインメントなのであまり押しつけたくはない」とした上で、「しんちゃんは、元気がないときに笑わせてくれる身近な友達みたいな感じ。単純に面白かったでもいいし、背中を押してくれる存在でもあるのかな」と答えます。
広告掲載後、すでに新学期が始まっている学校の始業式で広告の内容が紹介されたり、学校だよりに載せたいという要望が寄せられるなど、教育現場からの反応も届いているそう。X(旧ツイッター)でも「夏休み明けの不安定な気持ちでいる子どもたちにも届いてほしい」「日々いろいろなことがあるけれど、元気に頑張ろうと思いました」といった反応がありました。
青木さんは「しんちゃんという国民的キャラクター、映画のテーマ性、広告メッセージのすべてがうまくかけ合わさったことで、ポジティブな反響をいただいているのだと思います」と話していました。
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