暑い日が続きますが、暑いのは人間だけではありません。茨城県の神社に「水を飲み」に来るミツバチが話題です。神社はミツバチのために、専用の「水飲み場」を設置しました。
風情ある「専用水飲み場」
7月上旬、一言主(ひとことぬし)神社(茨城県常総市)に集まるミツバチのツイートが話題になりました。
暑くなるとミツバチさんが団体で手水舎に水を飲みに(正確には〝運びに〟かな?)来ます。
連日の猛暑で今年は1ヶ月ほど早めの御来社。
慌てて専用水飲み処を作りました。暖かく見守っていただければ幸いです。
添えられた動画に写っているのは、手や口を清める「手水舎(ちょうずや)」に置かれた「水飲み場」で、涼むように止まっているミツバチです。
「とっても素敵」「なんて優しい心遣い…」「ハチさん達も同じ猛暑の中で、がんばっているんですネ」などとコメントが寄せられ、いいねは10万を超えました。
水飲み場になっている竹の器にはコケや石が敷き詰められ、なんとも風情があります。
【今年も御来社!ミツバチ専用水飲み場はじめました】
— 一言主神社 (@hitokoto0913) July 6, 2022
暑くなるとミツバチさんが団体で手水舎に水を飲みに(正確には〝運びに〟かな?)来ます。
連日の猛暑で今年は1ヶ月ほど早めの御来社。
慌てて専用水飲み処を作りました。暖かく見守っていただければ幸いです。#ミツバチ #水飲み場 pic.twitter.com/x1pVfKIzUB
水飲み場の材料に込められた「こだわり」
「『癒やされる』という声が多く、作って良かったと思います。コロナ禍の殺伐とした世情の中にいい風を送れたでしょうか」。一言主神社の禰宜(ねぎ)・大塚裕一さんはそう話します。
「ミツバチは水が多いとおぼれることもあるらしく、できるだけ飲みやすい環境にするためにコケを敷きました」
器に竹を選んだことにもこだわりがあります。
「一言主大神(ひとことぬしのおおかみ)様がこちらに鎮座されることになったきっかけは、竹です。昔、雪が降る冬の季節に1本の根から三つに分かれた竹が現れ、神事をしたところ、大神様に『この竹を私だと思って大事にしなさい』と言われたという物語が残っています」

2年連続3度目の“御来社”
専用水飲み場を最初に設置したのは2016年の夏。数名の参拝者から「手水舎にミツバチがたくさんいて怖い」と相談を受けたことがきっかけでした。
水は常時流れているほうが良いとのことなので、竹を割いて手水の流れ口脇から漏れる水を水飲み場に誘導。贅沢な『かけ流し』になりました。
追加でミツバチさんがわかりやすいように立て看板を設置^_^;

大塚さんは、「どうしたものかと思い、インターネットでミツバチの生態を調べました。その結果、ミツバチと人間を別の場所に誘導することができればいいのではないかと思い、専用水飲み場を作りました」。
どこから飛んできているのか明確には分かりませんが、「近隣の養蜂場から来ているのではないかと推測できます」。
しかし、それ以降しばらくは夏になってもミツバチが来ることはありませんでした。
なぜなのか、理由は分かりません。
昨夏、神社のスタッフが多くのミツバチを確認し、5年ぶりに専用水飲み場を設置しました。
暑くなるとミツバチさんが団体で手水舎に水を飲みに来ます。
ここ数年はいらっしゃいませんでしたが、今年は久々の後来社。
専用水飲み処を作りましたので暖かく見守っていただければ幸いです。

今年も参拝客がミツバチに気づき、2年連続3度目の“御来社”です。
ミツバチが「怖い」と言われることもありましたが、両側から使える手水舎の片側に専用水飲み場を置くことでミツバチが集まり、参拝者の不安は減ったそうです。
「とても優しい性格なので、滅多に刺すことはありません」とそばに説明書きも貼り、「刺激せず温かく見守って」と伝えています。
昨年は7月下旬に設置しましたが、梅雨明け直後に異常な暑さが続いた今年は、数週間近く早く設置しました。
「ミツバチは30度を超えたあたりから来るみたいです」と大塚さん。ツイートが話題になりミツバチを見に来る人も増えましたが、気温が26、27度の日にはミツバチの姿はないそうです。
設置期間についても「ミツバチ次第、気温次第です」と笑いました。

なぜミツバチが水に集まる?
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センターの中村純教授に伺いました。
ーーミツバチは夏になると水を求めることが多くなるのでしょうか? なぜ必要としているのですか?
ミツバチが水を必要とするのには、主にふたつの理由があります。
ひとつは、水の蒸発による気化熱を利用した巣内温度の低減、もうひとつは、餌としての水分不足を補うものです。
ミツバチは育児中(厳冬期を除くほとんどの時期)は、巣内の中心温度を35度程度に維持しています。外気温がこれに近づいたり超えたりすると、巣内を冷却するために水を利用します。
舌に水を広げて巣内の気流にさらして蒸発させるか、「打ち水」をして気化熱で巣内の温度を下げます。この現象は確かに夏によく見られます。
一方、ミツバチはミルクで幼虫を育て、またそのミルクを女王蜂に与えて産卵させます。
ミルクの水分は60〜70%ですが、巣内で完成したハチミツは水分が20%程度です。新しく運び込まれて巣内に蓄えられ始めた花の蜜でも、50%程度でしかありません。
花のある時期の日中は新しい蜜が運び込まれるので、それほど大きな水分不足は起きませんが、花が少ない冬(特に育児の始まっている1月以降)や、春以降は夜間に貯蜜の濃縮が行われ、ミツバチが体内に持っている蜜の水分量も減ってきます。
朝早く、あるいは雨天が続いて巣の中に新しい蜜が運び込まれず、水分量の少ない貯蜜のみになったタイミングなどで、水を集めに行きます。これは年中見られることです。
時間帯的に昼頃であれば、温度への反応、午前中であればミルクを作る水分探しで訪れているといえるでしょう。

ミツバチの攻撃性は?
基本的に人を刺すのは巣を守るためだけです。
花にいたり、水をくみに来たりしているミツバチを手で追ったくらいであれば、ミツバチは逃げるだけです。
巣に対して、常日頃から手荒い作業が行われている場合、人が近づいただけでも攻撃してきます。日常の管理の中でミツバチを騒がせることがなければ、近寄っても攻撃はしてきません。
自分の管理している巣ではない場合、むやみに近づくのはお勧めできません。
香水などの強い臭いや、エンジンをふかすといった大きな振動、大きな動きなど、一過性の強い刺激によってミツバチが興奮して、攻撃を仕掛けてくることもあります。
単に黒い服だからと刺されることはありません。養蜂家さんが着ているつなぎには黒っぽいものも多いです。
また、そういった強い刺激ではなくとも、例えば作業時に軍手のような、ミツバチの針が引っかかりやすいものを装着していて、たまたま針が抜けたりすると、そこから警報フェロモンが出て、ミツバチが興奮して攻撃的になることもあります。

あたたかく見守りましょう
人間が暑いのだから、ミツバチだって暑いのです。人間が水分を必要とするように、ミツバチだって水分を必要としています。
ミツバチが近くにくるとついびっくりして身構えてしまいますが、生態を理解して、一言主神社のようにやさしく、あたたかく共生していきたいと思いました。